2020年01月07日

私的名馬列伝 第二十八話 アドマイヤムーン

★はじめに

 昨年末、平成の日本競馬に燦然たる実績を残した名物オーナー・近藤利一氏が逝去されました。
 その弔い合戦、とばかりに、香港マイルでアドマイヤマーズが下馬評を覆す劇勝を見せ、友道調教師が男泣きを見せた事は、去年のドラマチックな事が多かった競馬シーンの中でも、ひときわ印象深かったように思います。
 毀誉褒貶、浮き沈みも多かったオーナーですが、やはり日本競馬への貢献度は絶大でしたし、本当に競馬が好きな人で、天上からでも一喜一憂している姿が目に浮かぶようですね。

 本稿の主役のアドマイヤムーンは、そんな近藤氏が所有した綺羅星の様な名馬の中でも、おそらく最強、と呼んでいい存在だったと思います。
 現役終盤はゴドルフィンへの電撃移籍があったり、またこの馬を巡っての武Jとの確執などもあり、色々と話題にも欠かない馬でしたが、そういう虚飾は剥ぎ取って、素直に競走馬としてはどのような馬だったのか、改めて振り返っていきましょう。

 生涯通算成績は17戦10勝https://db.netkeiba.com/horse/2003102991/となっています。
 これだけの名馬なので映像も簡単に見つかるかな、と思っていたのですが、何故かピンポイントに2歳戦の映像だけは全く見つけられませんでした。
 一応リンクした戦績から、2戦目以降の3戦は見る事が出来るのですけど、ただこれ無料では見られない映像の気はするのですよね。一応私は見たので、それを踏まえて回顧を書く事は出来るのですが、きちんと映像付きで説明できるのは3歳戦以降になりますので、そこはご容赦ください。


★血統背景

 アドマイヤムーンの父は、フォーティナイナー産駒のエンドスウィープです。
 この馬は、現役時代は生粋のスプリンターでしたが、実績としてはまだ国際格付けが為される前のカナダ限定GⅠを勝ったくらいで、あまり目立つものがないまま引退し種牡馬入りしました。
 けれど、初年度産駒が驚異の勝ち上がり率と活躍を見せた事で、種牡馬としての価値を高く評価され、日豪が共同で買い取り、シャトル種牡馬として両国で繋養される事になりました。

 日本で種付けしたのは3世代のみでしたが、その仕上がりの早さと勝ち上がり率の高さは健在で、基本的にはダートでも芝でもスプリント寄りの適性でしたが、時にスイープトウショウや、本稿主役のアドマイヤムーンなど中距離GⅠを勝つほどの距離適性と底力を見せた馬もおり、万能に近い種牡馬だったと思います。
 この血統は、フォーティナイナー自身もそこそこ日本で活躍した産駒を出しているように親和性が高く、種牡馬成績通算でのE.I2,65は素晴らしい数字であり、11歳の若さで早世したのが今も惜しまれます。アドマイヤムーンは、エンドスウィープの最後の世代の産駒にして、最良の後傾馬となりました。

 母のマイケイティーズですが、まず遡っていくと、祖母のケイティーズファーストが、ヒシアマゾンの半姉になります。
 その母のケイティーズが、愛1000ギニーを制した名馬であり、父のクリスは、種牡馬としてはあまり目立った成績を残せなかったものの、現役時代は16戦14勝2着2回とほぼ完璧な成績を残した名マイラーで、その血統の良さと、日本でのヒシアマゾンの活躍で購入され、日本で繋養される事になります。
 そのケイティーズファーストにサンデーサイレンスが付けられて生まれたのがマイケイティーズであり、このケイティーズファースト由来の産駒は相当に日本競馬に裾野を広げているのですが、意外な事に、その血脈の中でJRA重賞を制した馬は、このアドマイヤムーンしか今のところいないみたいなのですよね。
 おそらくアドマイヤムーンは、母系の重厚さと、父系のスピード性能が非常に上手く噛み合った特異的な成功例、という事にはなるのでしょう。


★新馬戦~ラジオたんぱ杯2歳S <世代の中核としての台頭>

 この馬を管理したのは栗東の松田博資調教師でした。
 古くはベガに始まり、ブエナビスタやマルセリーナ、ハープスターなどの名牝を手掛け、またアドマイヤドンやタイムパラドックスなどのダートの名馬も数多く育てた、名伯楽の一人と呼んでいい調教師でしょう。
 スタイルとしては、基本的にコース追いを好み、長い距離を走る馬を作るのが得意で、ゲート練習などはあまり積極的にやらず、そのせいで松田厩舎の馬は出遅れが多いと揶揄もされていましたが、道中どっしりと構えて末を伸ばす、サンデー以降の時代性にマッチした馬を作る個性的な調教師です。
 今で言うと友道調教師寄りの方向性というか、あれを更に徹底したイメージですかね。

 アドマイヤムーンは産駒傾向通り仕上がりは早く、7月の函館で順調にデビューしていますが、ただ距離は1800m戦からスタートしてきて、勿論馬の適性もあったのでしょうが、このあたりも厩舎の拘りも窺えるところですね。
 このレースだけは映像も見れていないのですけど、しかしここでアドマイヤムーンは多分派手な出遅れをして、最後方からの競馬になっています。
 騎乗していたのは、今は調教師になっている本田Jでしたが、向こう正面からじわっと上がっていって4コーナー出口では中団まで進出、そこからラストは豪快に差し切っていて、おそらく見た目にはインパクトのあるレースだったと思います。

 まあラップ的には、タフ寄りの馬場だったろうとは思うのですが、新馬戦らしく超スローで、37,8-39,7-36,9=1,54,4と平凡な時計、ラストが12,3-11,9とこの馬だけ加速して、という内容なので、シンプルに相手が弱かったのは確かでしょう。
 実際に2着以下で500万より出世した馬はいないようですし、後々の戦歴を見ても、ここでは能力が違い過ぎた感じです。
 ただ同時に、松田厩舎の馬らしくスタートに難があるところも見せていて、そのあたりを無理に矯正してこないのもこの厩舎のやり方だったために、特に若い内はこのスタートの出負けが大きなレース程足枷にはなってきます。

 2戦目は札幌開催のクローバー賞で、ここは1500m戦と、アドマイヤムーンが生涯で走ったレースの中で一番短い距離の一戦になっています。
 この辺りは初戦の勝ち方と、血統を踏まえての評価だったのかもですが、ここは勝つには勝ったもののかなり苦戦はしました。
 スタートは初戦よりマシだったものの、全体でかなり流れる中で追走に苦労して後方から、4コーナーで取りついていくものの、コーナーで6頭分くらい外を回るロスもあり、それでも逃げ粘る2着馬を最後の最後にしぶとく捕まえる、という、馬の素質だけで勝てたレース、というイメージですね。

 ラップも29,5-23,9-36,1=1,29,5と、馬場もそこそこ軽い時期でしたが2歳戦としてはかなり優秀で、また追走も高く問われています。
 ポジショニングこそこの流れで苦労はしたものの、前がラップを落としてきてからの機動力と、そこからの持続性能は流石、という感じで、一先ずここで後々も踏まえてポイントになるのは、ゲートが下手で、二の足もそこまで鋭くないのでポジションは取れない、けれど潜在的に追走力は保持している、という部分でしょうか。

 3戦目の舞台は重賞の札幌2歳Sが選ばれました。
 ここでは堂々の1番人気に支持され(ちなみに2番人気マツリダゴッホ、3番人気フラムドパシオンってなんとも渋いですね。。。)、レースも大外枠からここは先ず先ずのスタート、しっかり主張していって中団外目の位置を確保すると、4コーナーで捲り上げて先頭に並びかけ、直線もその勢いで突き放し、後続を完封する横綱相撲でした。
 ラップは36,5-37,9-36,0=1,50,4で、後半は11,9-12,1-12,0とやや波がありますが、この馬はコーナー中間からら一気に取りついているので推定としては11,8-11,7-12,0くらい、しっかり一足を引き出して総合力勝負で完勝、という所でしょうか。

 この3走を考えても、基本的にラップの変移はともかく、要所で動きたいときに動ける操縦性が武器になっているのも明白で、それだけ完成度が高かったのは見て取れます。
 ただその割に二の足が鈍い、というのはわかりにくいところで、それはそもそもゲートからあまり促す訓練をされていない面もあったのでしょうが、より細かく考えていくと、ギアチェンジそのものは上手ですが、ただ一気にローからトップギアに入れていくより、段階的にじわっとギアを上げていく形の方がマッチしていたタイプなのかもしれない、という仮説をここで提示しておきます。

 ともかく、この勝利でクラシック本番に出走できるだけの賞金は確保したアドマイヤムーンは、暫しの休養を経て、暮れの重要な2歳重賞だったラジオたんぱ杯2歳Sに駒を進めます。
 マイルの朝日杯ではなくこちらを選んだあたりに、この馬の適性とクラシックに対する本気度は伝わってきますが、しかしここでアドマイヤムーンははじめての敗戦を喫する事になります。

 このレースでもスタートはまずまず出ていて、ある程度促しつつ先団の後ろくらいに潜り込んでいきます。
 コーナーもある程度タイトに立ち回り、直線は馬の間から鋭く脚を伸ばして一旦は完全に先頭に立ちますが、この馬の真後ろで虎視眈々とマークしていたサクラメガワンダーがゴール前で強襲、必死に抵抗するも、最後は鼻差で差し切られてしまいました。

 ラップは36,3-50,3-35,3=2,01,9と、ややスローの中緩み戦で、ハーフで見ると61,3-60,6、この時期の2歳戦なのでまずまず流れている方ではあり、その分仕掛けは遅れて、ラストが11,9-11,7-11,7と減速のないラップでのフィニッシュになっています。
 レース質としては後半の持続特化に近いイメージですが、ここでアドマイヤムーン自身は、直線入り口から明快に切れているので11,7-11,4-11,7くらい、それに対してのサクラは、11,7-11,5-11,4くらいに見えます。
 ここで感じるのは、瞬間的な加速や機動性は高いけれど、持続面そのものはそこまで優れているわけではないのかな?という所です。
 でも負けたとはいえ、目標にされての強い競馬でしたし、まずは上々の成績で2歳戦を終えたと言えそうで、更に休養を挟んでクラシックの舞台に乗り込んでいく事になります。


★共同通信杯~ダービー <優等生の非情なる蹉跌>


 ここからはレース映像をひとつずつ添付しつつ、見ていきましょう。
 ちなみにまとめ映像的なものは見当たらなかったのですが、国内のレースは同じ方が投稿してくださっているものを採用しています。基本地上波のもので、騎手インタビューまで掲載されているので、若かりし頃のジョッキーの様子も同時に楽しめますよ。

 話を戻しますと、年明けクラシック戦線に向けて、このレースから鞍上が、前年にディープインパクトで三冠ジョッキーになり、勝ち鞍的にも絶頂期にあったと言っていい武Jにスイッチとなっています。
 相手関係は、朝日杯の覇者フサイチリシャールと、その朝日杯では4着だったものの、新潟2歳Sの豪脚からこの舞台は合うと思われたショウナンタキオン、そしてはじめての軽い馬場が課題となるものの実績抜群のアドマイヤムーンが3強オッズを形成、アドマイヤムーンは2番人気でレースに望む事となります。

 内枠からまずまずのスタートを切ると、コーナーワークで上手く中団の内目に取りつき、道中は馬群が凝縮、外にショウナンタキオンが張り付く展開の中でじっくりと進めていきます。
 4コーナーを回ってもまだ鞍上の手は動かず、坂下からスッと外に持ち出して進路を確保すると楽に前との差を詰めていって、最後も余裕充分に、前目から粘り込むフサイチリシャールを交わして貫禄勝ちを収めました。

 ラップが36,0-37,6-34,8=1,48,4で、このコースらしく中緩みは顕著、コーナー中間でもペースは上がらず、後半が11,7-11,4-11,7という3Fの後半型総合力勝負になっています。
 最内枠で全くロスなく乗ってきたとはいえ、この流れの中で坂地点で楽に加速出来たのは素晴らしく、上がりは11,4-11,0-11,4くらいだと思いますが、ここまで見せていなかった加速力と瞬発力の質に加え、軽い馬場での持続性能も一定見せてきたのは評価していい内容です。
 同時に操縦性の高さもあらためて浮き彫りになるレースぶりで、ダービーに向けての府中の試走をまずは楽にクリアしてきました。



 今の時代なら、共同通信杯を勝てばそのままクラシック直行が当たり前ですが、まだこの時代はそうでもなく、アドマイヤムーンもトライアルの弥生賞に参戦、ここではサクラメガワンダーとの再戦が注目されました。
 ここは2番枠からやや後手を踏む格好になり、道中は後方2番手、またしても後ろにピッタリサクラメガワンダーがついてくる展開でしたが、それを意に介せずに自分のリズムで3コーナー過ぎから進出開始、4コーナーで一気に先団に取りつくと、直線序盤でまたスパッと切れて一気に先頭、後続を寄せ付けない完勝で早くも重賞3勝目となりました。

 このレースは見た目には強い競馬なのですが、ラップを見ると36,2-49,7-35,6=2,01,5となっています。
 馬場はそこまで軽くはない、という所で、テンはそこそこ流れて中盤に緩みがあり、後ろから取り付いていくのは比較的楽な展開でした。
 後半も12,0-12,7-12,3-11,7-11,6と、向こう正面で一度引き上がっても、またコーナーで緩む前の馬としてはちぐはぐなトリッキーな流れでもあり、アドマイヤムーンがコーナーで楽に取り付けたのも、自分が加速したというより前が落としてきた面が大きいとは思えます。

 結果的に見た目ほどコーナー外々のロスもなく、速い脚も使わずに労せず取り付けているため、直線でスパっとものの見事な切れ味を見せていて、この馬の上がりは11,9-11,2-11,6くらいでしょうか。
 やはり基本的にはこういう、じわっと上げていって直線半ばで最速の切れ味をスパッと引き出す形が、後々も含めてもこの馬のベストの適性だったと思いますし、このレースはそれが一番綺麗に嵌っているレースでもあるとは思います。
 この勝ちっぷりが自信を超えて過信に繋がったのか、それともこの時期の武Jは、有力馬となるとディープインパクトの影響を受けた乗り方をしていた面もあるので、そのあたりが次走皐月賞の蹉跌に影響しているなぁ、とは感じる内容ですね。



 そして迎えた皐月賞では、アドマイヤムーンはトライアル圧勝と武J鞍上もあり、かなり抜けた人気に支持されてのレースになります。
 ただこのレースでも、外枠からスタートは今一歩、二の足もつかずに枠なりの後方からのレースを強いられ、そして前走のように三分三厘から押し上げていくものの、前走ほどの勢いはありません。
 直線に向いても前走見せた鮮やかな切れ味は引き出せず、ジリジリと差を詰めてくるものの、先に抜けたメイショウサムソンには遠く及ばず、馬券圏内も外す4着という結果に終わってしまいました。

 ラップは35,6-48,6-35,7=1,59,9という推移になっています。
 ハーフで見ても60,0-59,9と、雨が残って少しタフな馬場の中、中盤もほぼ緩まない一貫した平均ペースで、ある程度立ち回りが問われたレース、とは言えるでしょう。
 後半のラップも12,2-11,8-11,7-12,2と、コーナー中間からしっかり前も引き上げていく形であり、このあたりで後ろから外々、というのはやはりロスの大きい競馬だろうな、とは感じます。

 ここでのアドマイヤムーンの場合、おそらくですがこのコーナー中間の600-400m地点でかなり速い脚を使ってしまっていて、その分直線入りでもう一段加速する余力を持っていなかったイメージです。
 ある程度分散して、4速ギアくらいなら長く脚も使える感じなのですが、トップギアにいれてしまうと甘くなるのが速いイメージで、持続面で少し足りなかった事、また全体で流れて総合力勝負になった事で、前半の枠の不利を覆せるほどの地力の差は保持していなかったのが、このレースの敗因になると思いますね。
 個人的にも、当時は弥生賞と同じ形で進出してきて、どうしてここまで伸びないのか?と不思議に思ったものですが、ラップ的に見るとあまりに綺麗に納得できる結果でした。



 戦前までは主役だったものの、やや脆さを感じさせる敗戦で一気に脇役へと追いやられたアドマイヤムーンですが、こんなはずではないと捲土重来を期して、ダービーの舞台へと駒を進めていきます。
 ここは皐月賞の結果も踏まえて大混戦の人気となり、アドマイヤムーンも根強く3番人気の指示を受けての出走となりますが、ここでも前半要素が足枷となっていきます。

 10番枠からスタートは五分に見えたものの、2歩目で少し躓いたのが影響したのか、1コーナーまでにポジションを取り切れず、後方寄りの馬群の中で動くに動けない形となってしまいます。
 運悪くレースもスローペースになってしまい、凝縮する馬群の中でじっと我慢して直線イン突きにかけるも、中々スムーズに進路取りが出来ず、クリアになってからもジリジリとした伸びしか見せられなくて、メイショウサムソンか見事二冠を達成するのを尻目に7着と、はじめて掲示板すら確保できない屈辱の敗戦となってしまいました。

 ラップは37,4-37,8-37,4-35,3=2,27,9となっています。
 良まで回復したものの、この日も朝まで雨が降っていてタフ寄りの馬場で、その分前半から前目の騎手の意識も下がり、ダービーとしては拍子抜けなスローのままの展開で進んでいます。
 流石にその分後半の仕掛けは早く、12,0-11,5-11,8-12,0と4F戦からの持続力特化に近い形で、やはりポジショニングと立ち回りが成否を分ける競馬にはなっていました。

 その意味で、後方でしかも動けない位置に嵌り込んでしまった時点でもうどうにもならない感じではあり、挙句このレース、地味ですがコーナー最速の持続戦でもあります。
 こういう後半の粘り込み的な展開にメイショウサムソンが滅法強かったのとは対照的に、アドマイヤムーンは要所の反応と一瞬の鋭さで勝負するタイプでしたから、コーナーで動けない形とは言え、前に合わせていくだけでもこの馬にとって脚はそこそこ削がれていた、とも見做せます。
 最後はじりじりきているように、当時言われた距離ではなくポジショニングと展開面が最大のネックで、馬場もその後の戦績を踏まえればこなせないはずはなかったので、総合するとこの時期のアドマイヤムーンは、多頭数でポジションが取れないのをビハインドにしないレベルでの強さはなかった、とは言えるでしょう。

 ではそのあたりが、秋になって変わってくるのかも含めて、3歳後半のレースを見ていきたいと思います。


★札幌記念~香港C <輝き戻れど栄光は遠く>


 春のクラシックでは手厳しい現実に跳ね返されたアドマイヤムーンですが、まずは現時点での馬のベストの適性を10Fと見積り、去年強い競馬をした舞台でもある札幌夏の名物GⅡ・札幌記念から再始動します。
 この年はさほどメンバーレベルが高くなかった事もあり、斤量差も含めて有利と見做されたアドマイヤムーンが1番人気に支持され、レースもそれに相応しい横綱相撲を見せてきました。

 スタートはここも先ず先ずで、二の足もこの馬なりにはついて中団よりやや後ろの外目を追走、前の流れに合わせつつ、いつでも動ける態勢を維持していました。
 そして残り600mあたりからじわっと動いていくと、また直線入り口から目覚ましい切れ味を発揮、内の並み居る古馬を瞬時に撫で切りとする極上の瞬発力を見せての完勝でした。

 ラップは36,0-50,0-34,3=2,00,3となっています。
 ここも中緩みが大きく、仕掛けも遅れていて、後半が11,6-11,4-11,3という機動力と瞬発力に特化した、悪く言えば前の馬のレースメイクが下手過ぎる、あまり足を出し切れていない一戦になっていますね。
 その中でアドマイヤムーンも流れに合わせていたので、3F戦の中だけでこの上がりを凌駕して差し切ってきたわけで、洋芝で相対的に引き出せる切れ味の質は群を抜いて高かったな、と感じます。

 自身のラップは大体11,4-11,1-11,0くらいかな、という感じで、ラスト最速である分しっかり足が残っていて、瞬発力の質の差で勝ち切れたイメージではあり、また当然中緩みがあった事で、ギアの上げ下げに長けたこの馬にとっては上手く脚を温存しながら走れた一戦と見ていいでしょう。
 このレースも見た目だけは派手ですが、内実としては弥生賞と同じく、この馬の適性に周りが合わせてくれた、くらいの緩いレースではあるので、まだこの時点では夏を超えての成長があるのか、は見えにくいところでもありました。



 クラシック最終戦の菊花賞には目もくれず、最適条件を求めて陣営が選択したのは秋の天皇賞で、ここは群雄割拠の様相を呈していました。
 1番人気が宝塚記念覇者のスイープトウショウ、そしてアドマイヤムーンが2番人気で、コスモバルク、ダイワメジャー、ダンスインザムードあちりが差なく続く、どの馬が勝ってもおかしくない、というレースではありましたね。

 その中でアドマイヤムーンは、府中2000mでは不利な15番枠を引いてしまいますが、ここはスタート五分、出足も悪くなくて、やや後方寄りの内目に上手く潜り込んで機を窺っていきます。
 そのまま4コーナーまではインベタで我慢し、直線で外に持ち出していくものの少し進路確保に手間取って、ようやくクリアになってジリジリと伸びてきた時には前の大勢は決する形、隣の14番枠から果敢に番手まで押し上げ、直線も早めスパートで押し切った、ダイワメジャーの持久力が遺憾なく発揮されたレースの中で、3着まで押し上げるのが精一杯でした。

 ラップは35,4-47,8-35,6=1,58,8と、ハーフで取っても綺麗な平均ペースになっています。
 ただ、全体のラップ推移的には皐月賞っぽいのですけど、実は後半は結構ラップに波があり、前との差があるので実質は測りにくいとはいえ、ラストは11,9-11,2-12,5と、思いの外坂地点での加速が問われ、最後はガクンとラップが落ちる形になっています。
 まあ実質的に後続はコーナー辺りから速いラップを踏んでの持続戦に近い形なのかなと思いますし、追走面も含めて高いレベルの総合力勝負なので、やはりある程度は立ち回りが大切だったとは言えますね。

 その点でこのレースは、見た目よりは強い3着だったイメージは持っています。
 枠も良くなかったですし、そこから上手く内に潜れたとはいえ、それなりに後続は早めに追いかける形を強いられる中で、最速地点で馬群を縫いつつも差を詰め、ラストの減速地点でもジリジリとはきているのは、一定の成長の証にはなるのではないでしょうか。
 たたこの馬自身は11,4-10,8-12,0くらいかな、とは思いますし、この馬にとって得意な形の一気の加速と切れ味の質は問われていると思うので、その点での進境はあれ、元々の適性的な弱点が糊塗されたかどうかは、このレースではまだ判断が難しいところです。



 天皇賞は完敗ではあったものの、一定のレベルで古馬とも戦えることは示した内容で、そこに手ごたえをつかんだ陣営は、果敢に海を越えて香港Cの舞台にアドマイヤムーンを送り込みます。
 ここには、凱旋門賞でディープインパクトに先着したプライドが遠征していて、武Jとしては江戸の敵を長崎で討つ、ではないですが、気合の入る一戦だった事でしょう。
 勿論地元勢も手強い馬が揃う中で、内の4番枠から、序盤はいつものように後方に位置取りレースを進めていきます。

 道中もそこまで動きがない静かな展開となり、3~4コーナー中間からようやくペースが上がって馬群が凝縮し、アドマイヤムーンはプライドを前に見る形でじわじわとポジションを上げていきます。
 それでも4角出口ではまだ最後方列に近い位置で、かつプライドが抜け出すまで少し追いだしにラグが出てしまっていましたが、それでも進路がクリアになると圧巻の切れ味を発揮、ゴール前で完全に抜け出していたプライドに食らいつくと、首の上げ下げの勝負にまで持ち込んでいきます。
 ですが、無念にも僅かハナ差だけ及ばず2着、悲願のGⅠ制覇は古馬シーズンに持ち越し、という事になりました。

 ラップは26,0-24,2-24,8-23,8-22,8=2,01,6という推移です。
 香港形式とは言えかなりのスローバランスで、かつ仕掛けもそんなに速くなく、直線だけの2F勝負という感じで、中緩みがある事も含めて、札幌記念と近い展開になっていたと思いますね。
 その中で、内枠スタートだったので道中は無理なくロースロスを避けつつ、有力馬の後ろにつけていくタイミングを図れていましたし、コーナーでも無理に外に出していかずタイトに立ち回って、ラストの切れ味に賭ける競馬がピタリとはまっているな、と思います。
 残り400mは、この馬自身は22,1~2くらいでは来ていると思いますし、やはり洋芝での瞬発力の質がとても高い事、それをよりスケールアップさせて、この強敵相手でも臆する事なく披露出来たというのは流石でした。

 はじめての海外遠征でもこれだけ走れた、という馬の精神面の安定も含めて、収穫のある一戦ではありましたが、結局大きなタイトルとは無縁に終わった3歳シーズンを飛躍の糧に出来るかどうか、改めて4歳シーズンに真価が問われる事となります。


★京都記念~宝塚記念 <栄光と流転の狭間で>


 香港から帰国したアドマイヤムーンは、次なる大目標をドバイに設定、さほどの休養期間もないまま、壮行レースとして2200mの京都記念をチョイスします。
 これは改めて距離適性を図る試みでもあったと思いますが、このレースは生憎の雨で重馬場、斤量もGⅠ未勝利馬なのに59kgとかなり背負わされており、適性面などの不安から2番人気に甘んじてのレースになりました。

 しかしレースでは、これまでで一番いいくらいのスタートを決めると楽に中団の外目につけて、いつものように残り600mから外々を押し上げていくと、直線は楽に抜け出し、ポップロックが追撃してくるもののそれをきっちり凌いで、格の違いを見せつける勝利となりました。
 ラップは51,2-50,4-35,6=2,17,2という推移で、馬場が重かった分きっちり意識も下がって超スローバランス、土台の馬場はそこまで悪くなかった中で、後半は12,0-11,6-11,4-12,6と一応それなりに速いラップを踏めています。

 アドマイヤムーンとしては、前半楽にいいポジションが取れた上、コーナー外目からでもロスの少ないラップ推移で、力のいる馬場でも切れ味を削がれないのは持ち味なので、最速地点でしっかり伸びてくる、この馬らしい競馬が出来ていました。
 流石に馬場と斤量で、ラストはいつも以上に甘くなっていますけど、前哨戦の位置づけでもあり、この距離と馬場を克服して勝てたのは、やはり総合的な地力強化も少なからず出てきている、とは言えます。
 この馬は波はあっても、結局デビューから引退まで馬体重の増加はほとんどなかった馬なので、元々完成度は高かった、成長力という面ではそこまで劇的なものはなかったとは思いますけれど、色々経験を積む中での鍛錬が身について、という面でのプラスアルファはきっちりあるのかな、というレース内容でしたね。


・ドバイデューティーフリー映像 https://www.youtube.com/watch?v=3eeixE5xqdE

 前哨戦を最高の形でクリアしたアドマイヤムーンは、勇躍ドバイに乗り込み、1777mと非常に半端な距離で施行されていたドバイターフの前身、デューティーフリーに出走します。
 この年は非常に国際色豊かで、日本からもこの馬とダイワメジャー、それに欧州で活躍する馬、アメリカからも芝とダートのトップクラスが揃って参戦、南アフリカからの参戦もあり、多頭数の中で混沌とした戦前の評価ではありました。

 しかしその中で、好スタートから中団やや外目にポジションを取ったアドマイヤムーンは、直線先に抜け出したダイワメジャーを目標に追いだすと一気に加速、残り300mであっという間に先頭に立ち、最後は追い込んできたリンガリに差を詰められるものの、セーフティリードを維持しての完勝で、遂に悲願のGⅠタイトルを獲得しました。

 このレースはラップがわからないので何とも言えない面はあるのですが、もしも速い流れならあそこまでダイワメジャーを突き放せなかったと思いますし、ある程度スロー寄りから仕掛けが遅れて、直線瞬発力の質を問われたレースになっている可能性が高いと思います。
 実際400-200m地点の切れ味は圧巻の一言でしたし、ラスト甘くなるのもいつも通りですが、まだ余裕のある形で、なので、持続面はそこまで問われていなかったと見做したいですね。
 ワンターンのコースで、海外馬相手でポジション取りが楽だったのもプラスでしたし、洋芝適性もやはり高くて、正確にラップがない以上断定はできないものの、強い競馬だったのは間違いないと思います。


・クイーンエリザベスⅡ世C映像 https://www.youtube.com/watch?v=t0nxMSthSfA

 遂にGⅠ馬となったアドマイヤムーンは、その余勢を買って前年の忘れ物を取りに来た、とばかりに、そのまま香港に転戦してクイーンエリザベスⅡ世Cに出走します。

 ここはこの馬以外に海外からの参戦もなく、当然のように1番人気に支持されますが、外枠からいいスタートだったものの、コーナーワークで前に入れず、3~4コーナー中間からじわっと押し上げていく形になります。
 直線ではある程度射程圏か、と思わせる位置でしたが、しかし直線入り口でいつもの鋭い切れ味は影を潜め、ラストまでジリジリと差は詰めてくるものの、前でレースを作ったヴィヴァパタカとヴェンジェンスオブレインの2頭には届かず、3着とGⅠ連勝はなりませんでした。

 ラップ的には25,7-24,3-24,9-23,7-23,3=2,01,9で、流石に馬場水準までは調べられませんけど、堅良表記なので少なくとも時計は出る馬場だったはずです。
 ラップ推移的にもかなり香港Cと酷似していて、むしろラストは遅くなっているくらいなのに、ではなぜこれで差し切れなかったのか?は検討する余地のあるところでしょう。

 まずひとつ確実に言えるのは、シャティンの2000mははっきり外枠不利、という点ですね。
 香港Cと縦のポジションとしてはさほど変わらなくても、横のポジションは明らかにこのレースの方がロスが大きくなっていると思います。
 また、香港Cの時は、プライドを壁にそこまで自分からは動かず流れに合わせての進出でしたが、ここでは外からは早めに前を捕まえに行っていて、細かいレベルで言うと仕掛けが速い、かつ脚が溜まらないレースをしている、とは言えます。
 結局これまでも、ある程度仕掛けが速くなった時に甘さが出やすい馬ではあり、このレースに関しては外目から正攻法で勝ちに行った分だけ、持ち味の切れが活かし切れなかったのではないか、と感じています。
 それに当然ですが、ドバイからかなり短い期間での出走ではあり、色々ノウハウも確立しきっていない中で、京都記念からは都合-22kgでの出走ですから、シンプルに状態面が整っていなかった、という可能性も考えるべきでしょう。

 そして皆さんもよくご存知でしょうが、このレースの騎乗を巡って近藤オーナーと武Jの確執が深まり、これ以降今に至るまで、WASJなどの特例を除き、武Jがこのアドマイヤの勝負服に袖を通す事はありませんでした。
 勿論部外者に真実はわからないですけど、少なくともオーナーはこのレースを騎乗ミスで取りこぼした、と考えていたようで、じゃあ果たして本当にそうだったのでしょうか?

 少なくとも、今レースを見てラップから判断する限り、無難に乗り過ぎているとは思うものの、ミスと指摘できる明確な要因はないとは感じます。
 例えば前半のポジショニングの悪さを言うなら、それはシャティン2000mの外枠で、そもそもスタートがそこまでいい馬でもないのにあれ以上は難しい、となります。
 敢えて苦言を呈するところがあるとすれば、この馬にとっては逆に仕掛けが早過ぎた、もっともっと溜めて爆発力を活かさないとダメ、ってくらいですけど、普通に考えてああいう昔気質の競馬観のオーナーが、そんな緻密な部分で文句つけられるとも思えず、武Jの認識の中で、明確にミスをしたという想いはなかったのだろうとは感じる一戦です。

 ただおそらく、この時点でゴドルフィンからのトレードの話は出ていたはずで、そういう部分も含めて価値を下げられた、という想いが、感情的な非難に繋がったのかもしれず、ドバイの時はあれだけがっちり笑顔で握手していたのに、人の関係とはとかく難しいものだと感じる一幕ではありました。



 武Jとの関係がこじれた事で、帰国初戦となった宝塚記念では、公営から移籍して間もない気鋭の岩田Jが手綱を取る事になります。
 ここも雨が降ってかなりタフな馬場での一戦となり、前半からハイペースで展開する中、やや後方寄りの外目に構えたアドマイヤムーンは、前にずっとメイショウサムソンを置いてレースを進め、勝負所でもその後ろをスーッと影のようについていく理想的なレース運びを見せます。
 直線でメイショウサムソンの外に出すとスッと伸びてきて、相手もかなりしぶとく抵抗しましたが、最後は半馬身振り切っての勝利、見事に初の国内GⅠタイトルを獲得しました。

 このレースのラップは45,4-50,1-36,9=2,12,4と、馬場を考えれば自殺行為とも言えるハイペースで前が飛ばしていって、完全に差し追い込み競馬になっています。
 後半は13,0-12,3-12,2-12,4という推移で、坂の下りで前が止まったところを、メイショウサムソンが最初に動いて取りついていき、それを見ながら流れに乗せつつ、ワンテンポアドマイヤムーンは仕掛けを遅らせる、馬のタイプとしても噛み合った騎乗が出来ていました。
 その分400-200m地点で、メイショウサムソンに並びかけてくるまでの一瞬の切れを引き出せましたし、相手も持久型ですごくしぶとかったですけど、その一瞬の勢いの差による惰性でなんとか押し切った形でしたね。

 展開や馬場、ラップ的に噛み合っているのは確かですが、それでメイショウサムソンを捻じ伏せてきたのはやはり強く、本当に力のいる馬場ではクラシック以降は安定しているので、やはりあの2戦は展開に依拠するところが大きかったのだろうと判断出来ます。
 この、ダービー直後のウオッカも出ていた豪華メンバーの一戦を制した事で、更なる付加価値を生み出したかどうかは定かではないですが、この後秋競馬の前に、ゴドルフィンに推定40億でトレードされる、というニュースが流れ、秋からは勝負服も変わっての新たなスタートとなるのでした。


★天皇賞・秋~ジャパンカップ <最強への最後の砦>


 前述した通りゴドルフィンの持ち馬となり、まだこの時期は今のゴドルフィンブルーではない勝負服でしたが、ある意味アドマイヤの勝負服もブルー基調なので、よりはっきり立場が変わった事が窺え、この秋天の時はなんともしっくりこなかったものです。

 ゴドルフィンとしても、高いお金でトレードした以上、この秋限りでの引退は既定路線としても、やはりしっかり結果も求めてくる所で、去年の雪辱も掛かる中、ここはメイショウサムソンに続く2番人気に支持されます。
 宝塚記念で撃破した相手の方が人気があったのは、やはりここからメイショウサムソンが武Jにスイッチした事と、この馬がまたやや不利な外目の枠を引いてしまった事もあるでしょう。まあ巨額マネートレードでアンチが増えた可能性も否定できませんが。。。

 レースでは、若い頃の出負け癖はほぼ影を潜め、悪く無いスタートから二の足もまずまず、ただ序盤が緩く、ある程度全体が固まる状況の中で、道中内に潜り込めずずっと外々を走る形になります。
 馬場も少し内が荒れていて、みんなが直線入り口で外目に動いてくる中、少しぶつけられる不利もありましたが、それ以上に去年見せた坂地点での加速が鈍く、ラストもジリジリとしか差を詰められずに、インからスルッと抜け出したメイショウサムソンに完敗の6着と、久し振りに圏内を外す結果となってしまいました。

 ラップ的には、36,1-47,3-35,0=1,58,4という推移で、序盤がやや緩く、その分中盤が淡々と流れての、今でいう高速持久力戦に近しい推移になっています。
 道中一度も12秒台のラップを踏まない一貫戦で、後半も11,5-11,4-12,1と、一応微差で坂地点最速ですが、コーナーでみんな外目に持ち出すコースロスもありつつなので、実質的には仕掛けもそこそこ早い持続寄りの競馬だろうと踏んでいます。

 ここでのアドマイヤムーンは、ぶっつけ本番や、外枠から外々のロス、直線の不利などもあったでしょうが、よりシンプルに、こういう底力をストレートに問われる一貫戦では総じてあまり強くはない、のですよね。
 それでも立場的に勝ちにいかねばならないので、コーナーから強気に動いていってしまっていますし、そうなると最速地点で持ち味の瞬間的な切れ味を発揮出来ない負けパターンに綺麗に嵌ってしまったイメージです。
 まあ枠と展開がこうなってしまうと、どう転んでもロンスパ型のメイショウサムソンに分が悪い、というのもありますが、宝塚でようやくリベンジしたと思ったのも束の間、またしてもここで大きな差をつけられて、現役最後の一戦となるジャパンカップでは起死回生の作戦が求められる事となりました。


・ジャパンカップ映像 https://www.youtube.com/watch?v=N67qnn2RBuo

 一月のインターバルを置いてのジャパンカップでは、当然のようにメイショウサムソンに圧倒的支持が集まります。
 翻ってアドマイヤムーンは、前走の負け方と距離不安から5番人気まで評価を落としていましたが、ここではいくつかの吉兆がありました。
 まず馬場が、秋天当時よりはタフになってきていた事、そして内枠が引けてタイトな立ち回りが期待出来た事です。

 レースでは、正に岩田J、という完璧なレースプランが展開されました。
 今回もいいスタートをきると、ある程度促してスッと内の3列目を確保、道中は流れに乗りつつ無駄な動きなく、コースロスを一切なくしての立ち回りに専念します。
 4コーナー出口でも、前走早めに動いて止まった反省からかまだじっと我慢、坂下から逃げ馬の外に持ち出して一気に追いだすと、ここではいつもの素晴らしい切れ味を発揮、有力馬が外目で攻防を繰り広げるのを尻目に、インからズバッと鋭く抜け出していきます。
 流石にラストはいつものように少し甘くなったものの、それでも内外離れたところから追い込んできたポップロックを辛うじて退け、最後のレースで見事に距離も克服、年間GⅠ3勝の偉業を達成したのです。

 ラップは35,6-37,2-37,6-34,3=2,24,7という推移でした。
 ここではそこそこテンに速いラップを踏んで、そこから中盤はそれなりに緩み、仕掛けも遅れて3F勝負になっています。
 後半は12,2-11,3-11,1-11,9という流れで、秋天に比べると加速幅が明確に大きいのは歴然ですし、それでもコーナーではまだ最速ではなく、直線でもう一段瞬発力の質も求められています。
 この流れですと、追走力の担保さえあるのであれば、前目で進めた方が府中であれば楽だったはずで、内外の馬場バイアスは読みにくいところですが、アドマイヤムーン自身は力のいる馬場で切れを削がれない適性の持ち主ですからね。

 コーナー出口ではまだ我慢していましたし、おそらく上がりは11,3-10,9-11,7くらいで、ポップロックやメイショウサムソンという持久型に対しては、やはり坂地点での切れ味の差が最後の最後でアドバンテージになっての勝利、と見做していいと思います。
 近年では、宝塚有馬と府中のGⅠは頓に適性に差が出るわけで、この時代でもその傾向は出始めていたとは思いますが、展開的に向いたとはいえ、やはり同一年に宝塚とJC、更にドバイも制したというのは素晴らしい戦績と能力ですね。

 けど突き詰めると、やっぱりこの馬は若駒から極端に成長したわけではなく、特に適性面で向かない部分は最後まで弱点であり続けた感じで、それでも抜群の競馬センスと身体能力で、高いレベルでも立ち回りさえスムーズに、ロスなく進められれば太刀打ちできるレベルだった、と考えるべきでしょう。
 現役時代にライブで見ていた時はつかみどころのない馬、というイメージでしたが、きちんと分析してみるとそれなりにわかりやすい凡走パターンはあって、それでも巡り合わせ含めて、まだ底を見せないまま引退してしまった、という感覚は付き纏いますね。


★終わりに

 種牡馬としてのアドマイヤムーンは、不思議と短い距離でばかり活躍馬を輩出しています。
 これは父のエンドスウィープが、自分はスプリンターだったのに中距離型の馬をそれなりに出したのと裏腹で、一代飛んで本質的な適性が遺伝しているのか、どうあれこの血統は色々と複雑怪奇で、それでも日本競馬に対する限定的な適性の高さは疑う余地はありません。
 ファインニードルという後傾馬も出し、去年は種付け数もまた急上昇したようなので、世代的にはそろそろ種牡馬としても中堅から晩年に差し掛かる時期ですけれど、意外性に富んだ産駒が出てくる可能性はありますね。

 血統的に、サンデーが結構近いので、そのあたりで少し不自由さはあるかもですが、キングマンボを介さないミスプロ系はやはり貴重で、ゴドルフィン主体ですと短距離型が強く出ますが、配合次第では自身同様にクラシックディスタンスでもやれる馬が出てくる、とは思います。
 2強の死で戦国時代に突入する種牡馬界の中で、台風の目になっていけるかどうか、注目しつつこの稿を閉じることにしましょう。
 正直あんまり思い入れはないので、淡々とした語り口になってしまいましたがご容赦くださいませ。



  


posted by clover at 16:28
"私的名馬列伝 第二十八話 アドマイヤムーン"へのコメント
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