2020年07月28日

私的名馬列伝 第三十二話 カリフォルニアクローム

★はじめに

 近代競馬においては、とりわけ強い牡馬は早い段階で種牡馬入りする傾向が強くなっています。
 それは種牡馬ビジネスの隆盛がもたらす要因ではありますが、結果的に歴史的な名馬ほど、多くのレースを走る事なく引退を余儀なくされ、本当の強さがわかりにくい、という弊害もあります。
 やはりチャンピオンホースであれば、自分より上の世代・下の世代の一線級をも蹴散らして、長く一時代を築いて欲しい、というのがファンの本音になるでしょう。

 本稿の主役・カリフォルニアクロームは、アメリカ牡馬のトップホースとしては珍しく、6歳初頭まで現役生活を続け、そして3歳時から引退間際までチャンピオンホースであり続けた希有な存在です。


 それだけに様々なドラマを抱えてもおり、列伝で取り組むには中々歯応えのある馬になります。
 今年からは種牡馬として日本に輸入されている事も含め、その来歴を振り返っておくにはいいタイミングだと思うので、それなりに適宜コンパクトにまとめつつ、になるとは思いますがお付き合いくださいませ。


★生い立ち~デビューまで <アメリカンドリームの結晶>

 カリフォルニアクロームは、その馬名でもイメージできるように、カリフォルニア州で生産された馬になります。
 アメリカの馬産と言えば圧倒的にケンタッキー州が有名で、寡聞にしてその占有度などまではわかりませんが、その他の州の生産馬が大レースに勝ったりするとそれだけにニュースになるくらいですから、やはり相当に生産レベルの差はあるのでしょう。
 実際に同馬も、カリフォルニア州生産馬で史上初めて二冠を達成した馬であり、それだけに地元のカリフォルニア州では非常に人気のある馬だったようです。

 またその生い立ちも面白いエピソードが山盛りです。
 父のラッキープルピットは、プルピット産駒ですが重賞実績もなく、通算22戦3勝という地味な成績で、正直種牡馬になれたのが不思議なくらいです。
 母のラヴザチェイスも血統背景は良かったものの、現役時代は気性難で大成できなかった馬でした。

 そんな母馬を二人の馬主が共同で購入し、ラッキープルピットをつけて、はじめて自家生産したのが本稿の主役であるカリフォルニアクロームです。
 これだけ地味な血統で、しかも生産の明確なノウハウのない最初の一頭が、ここまでの活躍をするというのは文字通りアメリカンドリームの世界です。
 ただそういう経緯があるだけに、若駒の頃からとても人に愛されて育ち、そのおかげで母の悪癖を受け継がずにとても従順で人懐っこい馬になったようで、カメラを向けるとポーズを取ってくれる賢い馬だった、というエピソードもありますね。

 このカリフォルニアクロームを預かる事になったのが、当時ハリウッドパーク競馬場を拠点としていたシャーマン調教師でした。
 この時点でもかなりの老齢で、息子と共同で厩舎を運営していたシャーマン調教師は、馬を大切に育てることで定評があったようで、それが二人の馬主のお眼鏡に適ったようです。
 多彩な愛に恵まれたおかげもあってか、生まれて以降は頓挫なくすくすくと育ち、デビューはアメリカの馬でも早い部類に入る、2歳の4月となりました。


★2歳シーズン <雑草は、踏まれて鍛えて強くなる>

 流石に2歳戦ですと映像もあまり見つけられませんでしたので、見られたものだけ適宜紹介していきます。

 初戦は地元ハリウッドパークでのAW4.5F戦でした。
 大ベテランで、この年に引退するデルガドJを鞍上にレースに臨んだカリフォルニアクロームですが、ここは前を行く馬を捕まえ切れずに2着と、デビューを白星で飾ることは出来ませんでした。


 2戦目は5月の、同コース同距離の未勝利戦を選択、ここは映像があったのですが、真ん中の枠からいいスタートを切って、道中番手外から直線楽に抜け出しての勝利となっています。
 まだこの時点では、後のトレードマークである覆面をつけておらず、形のいい流星がはっきりとわかりますね。

 ちなみにこのレースではいいスタートを決めているものの、2歳時のカリフォルニアクロームにはゲート難があったようです。
 それはレースに行っての前向き過ぎる気性故のイレコミが一因だったようで、そのせいもあってか、2歳時の同馬は勝ったり負けたりを繰り返す、ムラ馬の様な戦績を残しているのは、戦績表を見ての通りです。

 3戦目は6月、距離を1F伸ばしてのリステッド競争に参戦、鞍上もトップジョッキーのナカタニJを配していましたが、ここはやや強引に逃げの手を打ったものの、最終コーナーで捕まりズルズル下がってしまう敗戦だった模様です。
 コンスタントに月1出走を続けての4戦目は、はじめての遠征競馬で、デルマーでのAW5.5F戦でしたが、ここはデルガドJに戻り、好位から早め先頭の王道競馬で2勝目を飾っています。

・デルマーフューチュリティ https://www.youtube.com/watch?v=jnWUNgGhaZ4

 前走の勝ち方に手応えがあったのか、陣営は9月に再びデルマー遠征を敢行し、7F戦のGⅠ・デルマーフューチュリティにチャレンジします。
 しかしここではスタートを決められず、前半4F45.1という速いレースの流れに乗れずに後方3~4番手を追走、直線は内に切れ込んで馬群を縫って伸びてくる根性を見せますが、少し前が窮屈になったのもあり、最後は外差し勢に屈しての6着、という結果に終わります。
 ちなみにこの時点では既に覆面をつけていますから、この時期気性面の改善に色々手を打っていた、というのは見て取れますね。

 続く6戦目は少し間隔を空けての11月、サンタアニタでのダートマイル戦となります。この馬にとってはこれが初めてのダートでのレースとなりました。
 ここでも少しスタートが良くなく、道中は中団馬群の中からレースを進め、有力馬が牽制する中伏兵が逃げ切る、という展開で伸び切れずに6着と、不甲斐無い結果が続いてしまいます。

 このあたりで、陣営は更に色々と梃入れを敢行したようです。
 ゲート難を克服するための猛練習に、馬が嫌がらない形の蹄鉄の導入、更に鞍上も次のレースから、西海岸屈指の名手であるエスビノーザJを配する事になりました。
 それらの配慮が上手くいったのか、それとも馬の成長が追い付いてきたのか、ここからカリフォルニアクロームの快進撃が始まります。

・キンググローリアスS https://www.youtube.com/watch?v=eyzzPjAdWWQ

 デビューから7戦目、年の瀬12月末に出走した7F戦のキンググローリアスSで、カリフォルニアクロームは非常に強い競馬を披露します。
 まずまずのスタートから好位の外目4番手あたり、前半4F45.75のペースを楽々追走し、直線入り口で堂々先頭に立って後は突き放すのみ、という圧巻の競馬で3勝目を飾りました。
 時計も1.22.12とかなり優秀で、3歳シーズンの飛躍を予感させるには充分の内容だったと言えるでしょう。

 ただ、あくまでもこの時点では、とてもクラシックの主役候補と見做されるような馬ではなかったのも間違いありません。
 何故なら、この馬が出走していたのはデルマーフューチュリティを除き、どれもがカリフォルニア州生産馬限定戦で、全体の出走レベルも決して高いものではなかったからです。
 まあ日本で言う、九州産馬限定戦よりはまだレベル差は大きくないのかな、とも思いますが、それでもこの時点で7戦3勝、重賞勝ちはなしですから、客観的に見ても伏兵の一頭、くらいの見立てにはなるのでしょう。
 地味な血統らしく、叩き上げの中でコツコツと力をつけてきて、それがこの最後のレースで一気に開花した感じは、日本の競馬史になぞらえると、ナリタブライアンやオルフェーヴルをイメージさせますね。

 参考までに、この世代のBCジュヴェナイルの勝ち馬は、ニューイヤーズディでした。
 この馬はこのレースを最後に引退し、種牡馬となって、現アメリカダート最強馬であろうマキシマムセキュリティの父として活躍、そしてこちらも今年から日本で種牡馬として繋養されています。

 ただこの年の最優秀2歳牡馬はこの馬ではなく、12月のハリウッドパークでのマイルGⅠ・キャッシュコールフューチュリティを無敗で圧勝したシェアドビリーフでした。
 この馬はやがてカリフォルニアクロームの軌跡にも絡んできますが、このレースの後、年明けに故障してしまって三冠レースは全て不参加となってしまい、この馬が無事に駒を進めていたら、カリフォルニアクロームの快進撃はどこまで続いていたのか?と考えるのも面白いifになると思います。

 そしてもうひとつ、この年限りでシャーマン調教師が本拠としていたハリウッドパーク競馬場が廃止となりました。
 ちょうどアメリカでのAWコースが下火になっていた時期でもあり、他の要因もあるのでしょうが、ともあれカリフォルニアクロームも引っ越しを余儀なくされる事になります。
 新天地として選ばれたのは、元々クォーターホース専門のレースを開催していたのを、この翌年からサラブレッドにも開放すると宣言していたロスアラミトス競馬場でした。
 翌年破竹の連勝を築くカリフォルニアクロームとしては、この新しい調教場の水が合った、というのもあるかもしれませんね。


★3歳シーズン前半 <歴史的快挙への階梯と蹉跌>

 カリフォルニアクローム陣営が3歳初戦に選んだのは、1月後半のやはりカリフォルニア州生産馬限定戦である、サンタアニタでの8.5F戦・カリフォルニアカップダービーでした。
 前走強い勝ち方をしたとは言えここは2番人気で、それは2歳時に幾度も苦杯を喫したタマランド(デルマーフューチュリティの勝ち馬で、キャッシュコールフューチュリティでもシェアドビリーフの3着と健闘していました)がいたので仕方ない面もあったでしょう。
 ですがここでは、3角先頭の超積極策で抜け出したカリフォルニアクロームが、タマランドの追い込みを全く問題にせず5馬身以上の差をつけて圧勝し、2歳時とは力関係がガラッと変わった事を満天下に示す勝利となります。


 このレースから先は、ほぼレース映像が見られるので、分析的にもやりやすいのですしきちんと見ていきましょう。
 3月初頭に開催されるこのレースは、サンタアニタダービーの前哨戦の位置づけの8.5F戦のGⅡで、勿論地域限定戦ではありません。
 当然ながら相手関係は強化され、ここは重賞勝ち馬のミッドナイトホークやクリストあたりと人気を分け合う格好になりましたが、いざレースが始まればカリフォルニアクロームの独壇場でした。

 内目の枠からロケットスタートを決めると、そのままハナに立ってレースを先導していきます。
 番手に人気のミッドナイトホークがピッタリとマークしてきて、道中つつかれる形でかなりのハイペースになりますが、むしろ追いかけるミッドナイトホークの方が手応え悪く、4コーナー出口からじわじわと突き放すと、最後まで着差を広げる一方という素晴らしい勝ちっぷりを披露したのです。
 ラップ的にも45.55-55.04=1.40.59と、馬場差はわからないにせよこの時期の3歳戦としては破格の時計で、この勝利で一躍ケンタッキーダービーに向けての主役候補として同馬がクローズアップされる事となりました。

・サンタアニタダービー https://www.youtube.com/watch?v=a10u6V_Ldus

 当然のように次走は、西海岸所属の馬にとっての、ケンタッキーダービーに向けての最重要ステップレースとなる、4月頭の9F戦・サンタアニタダービーとなりました。
 ここでは更に一段相手が上がり、キャッシュコールフューチュリティ2着で、前走ミッドナイトホークを撃破しているキャンディボーイ、レベルSを圧勝してきたホッパチュニティと3強オッズを形成する事になります。

 しかしここでも、カリフォルニアクロームの快進撃を止められる馬は皆無でした。
 中目の枠からこの日はイマイチのスタートだったものの、二の足をしっかりと効かせて番手外に取りつくと、アメリカとしてはややスロー寄りの流れを早めに進出して4角先頭、直線半ばで一気に差を広げると、最後は流すようにして5馬身以上の差をつけての圧勝劇の再現となったのです。
 ラップ的にも47.02-23.79-36.71=1.47.52は非常に優秀で、21世紀の同レースでは最速の時計をほぼ馬なりでマークしている事になります。
 ややハイペースくらいの流れからロングスパートで勝ち切っており、前走とは内容的に違う引き出しを見せていて、この時期の同馬は本当に手が付けられない強さ、という感じですね。

 これで当然ケンタッキーダービー戦線でも堂々の主役、となったのですが、それでもこの馬がこの年まで50年以上ケンタッキーダービーの勝ち馬を輩出していないカリフォルニア州生産馬である事、東海岸への輸送もはじめて、という事から、この馬の強さを軽視する向きもありました。
 しかしそんなジンクスなど、勢いに乗ったこの馬にとっては歯牙にもかけない要素でしかなかったのです。

・ケンタッキーダービー https://www.youtube.com/watch?v=j1hZ7d-gLnw

 この年のケンタッキーダービーは、フロリダダービーの勝ち馬こそ故障で離脱したものの、それ以外の主要トライアルの勝ち馬・上位馬はこぞって出走してきました。
 余談ですが、フロリダダービー勝ち馬のコンスティテューションは、今年のベルモントSを制したティズザロウの父であり、父が三冠レースに参加できなかった無念を、変則開催の中で果たせるかは注目ですね。

 ともあれ、中々に豪華で拮抗したメンバー構成だったものの、枠順で明暗が分かれます。
 世代で初めての10F戦で、20頭と多頭数になるため、どうしても内枠有利の傾向が強いレースですが、この年はカリフォルニアクローム以外の有力馬がこぞって外枠を引いてしまい、それもあってカリフォルニアクロームが血統背景から半信半疑、とされつつも一番人気に支持される事となります。

 レースでは、内からいいスタートを決めたカリフォルニアクロームが、行く馬を行かせて道中は3番手をキープ、4コーナーで外から進出していくと直線半ばでは堂々と先頭に立ち、最後一気に追い込んできた伏兵コマンディングカーヴの追撃も楽に退けての快勝となりました。
 ただラップ的には、47.37-24.43-51.86=2.03.66と、あまり目立つものになっていません。
 このレースとしては前半の47.37はスロー寄り、と言ってもいいくらいですし、それでいてバランスとしてはかなりの消耗戦、ラスト2Fで26.21を要しており、全体時計としても良馬場のこのレースとしてはかなり遅くなっています。

 まあチャーチルダウンズは比較的時計が掛かるイメージですし、その中で流れ切る、という程ではない前半の遅さが足を引っ張った面もありそうですが、少なくともここは、過去2走ほどの凄味を見せられたとは言えないと思います。
 個人的な所感としては、カリフォルニアクロームは質的なハイペースは得意でも、パワー寄りのハイペース向きではなく、時計の出る馬場の方が強かった、というイメージは持っていて、ましてはじめての10F戦でもあり、その辺りの適性が反映されての結果なのかな、と見ています。
それでも、カリフォルニア州生産馬としては52年ぶりの快挙達成で、その強さから三冠を期待する声も広がっていきました。


 続いてのプリークネスSは、ケンタッキーダービー組がほとんど出走してこず、別路線組にもさほど目を引く成績を上げてきた馬がいなかったので、カリフォルニアクロームが圧倒的な人気に支持される事になります。
 レースでもそれを証明するかのような横綱相撲で、スタートから上手く外に誘導して好位を確保、3コーナーから進出していき、直線では後続を突き放して、最後のライドオンカーリンの追い込みも問題なく退けての二冠達成となりました。
 ラップ的にもここは46.85-24.21-43.78=1.54.84と、ここも極端なハイペースにはならない中後半をしっかりまとめて54秒台に乗せてきたのは優秀で、やはりここからも時計の出る馬場の方が強い感じはしますね。

 ちなみにここで5番人気に支持されつつも、スタート直後の斜行もあって得意の逃げを打てずに惨敗したバイエルンは、この馬の3歳シーズン後半に大きく関わってくる馬になりますが、この時点ではまだ伏兵の一頭に過ぎなかったというのが面白いところです。
 その辺り、やはりアメリカ競馬に取って三冠レースは大切ですけれど、そこで過酷な日程をこなした馬は大抵その後伸び悩むイメージで、ガラッと下半期で力関係が入れ替わる事も珍しくないのですよね。
 カリフォルニアクローム、という歴史に残る名馬であっても、その状況的必然からは逃れられなかった、というのが、次走三冠を賭けてのベルモントS以降の内容に見て取れるのもまた興味深いところです。


 迎えたベルモントSですが、このレースに関しては出走前にひと悶着がありました。
 カリフォルニアクロームは鼻出血をしやすい体質だったようで、それを防ぐため、鼻の気道を広く確保する特殊な馬具であるネーザルストリップを着用していたのですが、ニューヨーク州の競馬の規定では、ネーザルストリップが使用禁止になっていたのです。
 その為に馬主が、そのルールが改善されなければ出走回避もある、と仄めかし、結果としてこの馬の為にルールが改定される経緯があったので、それは一部の競馬関係者に取って面白くない話ではあったようです。

 ただ一方で、この馬が走った2014年時点では、1978年のシアトルスルー以来34年も三冠馬が誕生していない経緯もあって、一般ファンは当然ながら久し振りの三冠馬の誕生を熱望していたわけで、世論に押されてのルール改定だったとも言えそうです。
 そういう面も関係しているのか、メンバーはケンタッキーダービー直行組を主流に、プリークネスSよりはかなり強化されていて、簡単には勝たせない、という雰囲気も充満していたように感じます。

 色々な思惑を背負いつつのゲートインとなったこのレースで、カリフォルニアクロームは内枠からいつものように最初のコーナーで外目に持ち出し、4番手の外から前を追いかける王道の競馬を試みます。
 しかしこの日は、4コーナーでいつもの行きっぷりが見られず、直線でも一瞬先頭に立つか?というシーンはあったものの、結果的に自分より前にいた内の馬の粘りに屈して4着と、ここ30年余りで数多いた名馬と同様、特殊距離のベルモントSでの勝利を挙げる事は出来ず、三冠も夢幻と消えてしまったのです。

 このレースの敗因としては、スタート直後に右隣の馬に右足を踏まれ、出血していたというのが一番に挙げられています。
 正直映像で見てもわかりにくいのですが、その怪我のせいでコーナーからの行きっぷりや最後の踏ん張りがこの馬らしくなかった、それがなければ勝てていた、という論調もあるようです。
 ただやはり、シンプルに過酷な三冠皆勤での疲れもあったでしょうし、距離も長かったのは間違いないでしょう。

 ラップ的には48.52-48.61-51.39=2.28.52と、淡々と流れての一貫消耗戦、という感じで、全体時計としても近年のベルモントSとしては妥当なレベルに収まっていると思います。
 勝ったトーナリストは、前哨戦のピーターパンSからの直行組で、ここでは活力が残っていたのは間違いないですし、その後もマイル、10FのGⅠを勝利するなど、適性の幅広く、この世代でもコツコツと活躍した馬ですので、その差も大きかったと言えるでしょう。

 私の所感としては、この程度の着差負けであれば、そこまで走れた、という時点で怪我の影響は軽微だったと思いますし、それがなくても勝てていた、と考えるには内容的には目立たない、という評価になりますね。
 この翌年、2015年に、アメリカンファラオが待望の三冠を達成するわけですが、そのアメリカンファラオが刻んだラップ(48.83-49.16-48.66=2.26.65)を考えても、少なくともこのレースでのカリフォルニアクロームが、高い適性・強いパフォーマンスを見せられなかったのは確かだと思っています。

 ともあれ、過酷な三冠を皆勤し、デビューから早13戦、コンスタントに月1ペースで出走を続けてきたタフさは、その従順さと賢さの証でもありますが、流石にここで、怪我の治療も含めて、はじめてまとまった休養を取る事になりました。
 しかしここまでの走りの代償は、静かにカリフォルニアクロームを蝕んでいたようで、ここからしばらくは雌伏の時を迎える事となります。


★3歳シーズン後半 <噛み合わない歯車、新たな挑戦>

・ペンシルヴェニアダービー https://www.youtube.com/watch?v=W9YW_IeEKYk

 三か月半の休養を経て、カリフォルニアクローム陣営が復帰戦として選択したのは、パークスレーシング競馬場での9FのGⅡ戦・ペンシルヴェニアダービーでした。
 ダービーと名がつくように世代限定戦であり、休み明けで相手関係が楽なところを選んだ、という感じですが、しかしここには1頭強敵が牙を研いで待ち構えていました。
 それがプリークネスSでは問題にしなかったバイエルンで、この馬はプリークネスSの後、ウッディスティーブンスS、ハスケル招待Sと逃げ切りGⅠウィナーの仲間入り、トラヴァーズSこそ単騎逃げなのに早々と潰れる不可解なレースぶりで大敗したものの、型に嵌った時の強さは一目置かれる存在となっていたのです。

 ここは当然のようにバイエルンがハナを切って、内枠のカリフォルニアクロームは好位2列目のインから追走する形になります。
 軽い馬場で比較的ペースも落ち着いていたのですが、この日のカリフォルニアクロームは前半から行きっぷりが大層悪く、4コーナーでもいつもの手応えが全く感じられないまま直線、マイペースで後続を突き放したバイエルンに全く追随できず、後続にも次々と交わされて、最後は諦め気味に流して6着と、思いがけない大敗を喫してしまったのです。

 ラップ的には47,4-23,0-36,5=1,46,96(公式タイムはこっちになります)くらいで、前半ゆったり目で中盤からロングスパート、時計的にもかなり速いのですが、この展開はサンタアニタダービーと酷似しています。
 なのに全く対処できなかったというのは、やはり休み明けで相当に状態が落ちていたのか、後は久しぶりに砂を被る位置での競馬で戸惑ったのか、どうあれクラシック戦線の主役としてはかなり先が案じられる結果となってしまった事は間違いありません。

 また、休んでいる間にバイエルン以外の同世代のライバルも台頭してきました。
 ベルモントSの2週間前にようやく戦線復帰を果たしたシェアドビリーフが、その後ロスアラミトスダービー、パシフィッククラシック、オーサムアゲインSと古馬相手に破竹の連勝を続けていて、未だ無敗のまま世代最強に名乗りを上げていたのです。
 クラシック戦線の主役として譲れないカリフォルニアクロームとしても直接対決で雌雄を決するのは望むところと、次走のBCクラシックは文字通り試金石の一戦、世紀の名勝負が期待された、のですが……。

・ブリーダーズカップクラシック https://www.youtube.com/watch?v=2tp8mT3b0NE

 結論から言えば、このレースはBC史上でも屈指の、後味の悪いレースとして歴史に名を刻んでいます。
 それはもうレース映像を見てもらえば一目瞭然なのですが、真ん中くらいの枠のバイエルンがスタート直後にほぼほぼ意図的と見ていい内斜行をかまして、すぐ隣のシェアドビリーフ、そしてその更に内の逃げ馬・モレノの進路を思い切り妨害しているのですね。

 モレノは逃げるとかなりしぶとい馬で、バイエルン自身も逃げなくてはなにもない馬だったので、その兼ね合いは注目されていたのですが、まさかこんなあくどい形で決着がつくとは……でした。
 勿論間のシェアドビリーフの受けた被害も大きく、しかもその斜行のせいで立ち遅れたスペースに二度三度と外から馬が殺到してきて、最初の直線だけで何度手綱を引く形になったか、と思えば、本当に不憫なレースになっています。

 幸いと言うべきか、カリフォルニアクローム自身はかなりの外枠で、そのトラブルに巻き込まれる事なく、比較的スムーズに外目から好位の3番手と、この馬らしいポジションを確保して、前を行くバイエルンとトーストオブニューヨークを追いかける形になります。
 レースはそこそこ速い流れとなり、そのままの隊列で直線に入りますが、内の2頭は相当にしぶとく粘り、カリフォルニアクロームもジリジリと外から差を詰めるものの、中々交わすところまで行きません。
 それでもラストの50mで底力を見せて、1馬身差からハナ+クビまで詰め寄ったところが無情にもゴール板で、前走から前進は見せたものの、3着という結果は満足のいくものではなかったでしょう。

 個人的感情としても、ここはカリフォルニアクロームに勝って欲しかった、というよりバイエルンに勝たせてはいけなかったレースだと思っています。
 大きな不利を受けたシェアドビリーフはこの3頭の後ろで4着と初黒星を喫してしまったあたりも含めて、本当に今見ても、どうしてこれが降着にならないのか釈然としません。
 馬自身には罪はない、とはいえ、この後バイエルンがひとつも勝てずに引退する事、そしてシェアドビリーフに待つ非業の運命を思うとやりきれない気持ちが強いですね。

 ともあれ、テクニカルに見てのラップとしては、46.44-23.78-49.66=1.59.88という推移になっています。
 ハイペースですけどすごく極端ではなく、馬場も軽かったので2分を切る勝ち時計になっていますし、これは正直、前走同様カリフォルニアクロームにとっては適性面でも展開面でもそれなりに恵まれたレースではあったと思うのですよね。
 無論外枠でずっと外々のロスはありましたが、それが勝ちパターンの馬ですし、減速地点のコーナーでいい時はグッと伸びてこられる馬なので、その辺りから見ても、まだこの時点では状態が戻り切っていなかったと判断したいところです。

・ハリウッドダービー https://www.youtube.com/watch?v=m0kIXJHR_zo

 BCクラシックでも完全復活といかなかったカリフォルニアクロームには、次走のプランとして、一時日本のチャンピオンズCも候補に挙がっていました。
 が、杓子定規が基本のJRAは、禁止されているネーザルストリップの例外的使用にNOを突き付けたので(まあそれは当然と言えばそうなのですが)、その話は立ち消え、代わりに陣営が選択したのが、なんと芝レースのハリウッドダービーでした。

 2歳時はAWで走っていて、時計の速い決着も特異としているので適性はある、と見做されたのでしょうが、それにしてもアメリカのクラシックホースとしては異例のレース選択ではあったと思います。
 ここは相手関係も楽なので、やはり半信半疑の面はありつつも圧倒的な人気に推され、そしていいスタートから大逃げの馬を行かせて番手追走、そのまま直線でスッと抜け出して押し切る、久々にこの馬らしいレースぶりで芝でのGⅠ制覇も果たしたのです。

 ラップは46.95-24.53-36.40=1.47.88と、ハイペースを早めに追い掛けて踏ん張る内容で、芝レースとしては後半要素が問われなかったのも良かったのでしょうが、それでもダート・芝不問で強い、という所を見せられたのは流石でした。
 この結果を踏まえて翌年のレースプランも面白いものになっていきますし、レースレベルはともかくひとつ勝利を掴んだことで、漸く狂った歯車は立て直せた、と思われたのですが、しかしその期待とは裏腹に、カリフォルニアクロームの4歳シーズンも受難続きとなってしまうのです。


★4歳シーズン <もどかしきワールドトラベラー>

・サンアントニオ招待S https://www.youtube.com/watch?v=jEqTvQ_YT0Y

 二か月ほどの間隔を空けての、カリフォルニアクロームの古馬シーズン初戦は、サンタアニタでのGⅡ9F戦・サンアントニオ招待Sでした。
 ここには、失意のBCクラシックののち、やや適性外の7FのマリブSで辛勝してきたシェアドビリーフもエントリーしてきて、改めて真っ当な形での世代最強を決める一戦となりました。

 カリフォルニアクロームは外枠からいいスタートを決めて、道中は番手外の黄金ポジション、スローの流れに辛抱たまらん、とばかりに3コーナーから仕掛けて先頭に立つものの、ピッタリと真後ろについてきたシェアドビリーフに直線の決め手比べで見劣り、1馬身半の差をつけられての2着に甘んじます。
 互いにここはステップレース、という事情はあったにせよ、真っ向勝負での力負けはこのシーズンの不透明さを暗示するようでしたね。

・ドバイワールドカップ https://www.youtube.com/watch?v=LFsf4PpXQV4

 カリフォルニアクロームの次走は、はるばる海を渡ってのドバイワールドカップとなりました。
 この年からドバイワールドカップはAWのタペタからダートコースへと舞台を戻しており、このあたりも世界的なAWの凋落を感じさせるところで、アメリカのトップホースであるこの馬の参戦は、その時代の変化を象徴するものでもあったと言えるでしょう。
 この年は日本からホッコータルマエとエピファネイアも参戦して、少頭数ですが中々面白いメンバーではありましたね。

 レースでは外枠からいつも通り好位の外目をキープ、ややスロー寄りの流れの中でじっと我慢しつつ進めていましたが、4コーナー出口から直線で自分より後ろから捲ってきたプリンスビショップに出し抜かれ、最後までその差を縮められないまま2着と、どうしても中々に勝利に手が届かないもどかしい結果が続いてしまいます。
 このレースは正確なラップが見つけられなかったのでざっくりですけど、多分中間62くらいの通過なので平均からスロー寄りで、直線入り口の再加速地点での機動性で見劣ったのかなと感じます。
 また勝ち時計2.03.44が示すように、ダートに戻っての初年度でかなり時計が掛かっていたのも、この馬の適性としてはやや厳しい部分だったかもしれません。

 どちらにせよ、ダートに戻ってアメリカトップホースの沽券を見せつけなくてはならない舞台でも完敗し、未だ3歳後半から狂った歯車が戻り切らない中で、陣営はなんとヨーロッパ遠征、プリンスオブウェールズSへの参戦を表明します。
 一応芝への適性は見せていた事と、ケンタッキーダービー馬としてはクイーンアンSを制したアニマルキングダムの先例もある故の挑戦だったと思いますが、しかしその野望は直前の故障で淡くも潰えてしまいます。
 当初その怪我は軽傷と思われていて、アメリカに戻ってアーリントンミリオンを目標にしていたのですが、より精密な検査の結果砲骨の亀裂骨折が判明し、結局4歳シーズンは2戦のみ、ひとつも勝ち鞍を上げる事なく終わってしまったのです。

 カリフォルニアクロームがたたらを踏み、臍をかんでいる間に、アメリカの競馬界はアメリカンファラオ一色に染めかえられていました。
 35年ぶりの三冠達成に、BCクラシックも制しての史上初のグランドスラム達成は、それはもう非の打ちどころのない素晴らしい戦歴であり、その強さ自体を疑うつもりは毛頭ありません。
 が、あまりにもレアな三冠馬となったが故に、ベルモントS出走後すぐに年内引退・種牡馬入りが内定してしまい、その上様々な要因が重なって、結果的に言えば上の世代の強い馬、下の世代の強い馬との対戦がないままの引退になってしまったのは、競走馬としての真の底力を見たかった、という視座においては残念な事です。

 この世代の大将格であるカリフォルニアクロームが故障離脱、シェアドビリーフに至っては故障引退の上に疝痛で頓死、バイエルンも鳴かず飛ばずで、唯一BCクラシックで対抗馬になりそうだった歴史的名牝のビホルダーも直前で出走回避となって、まともな古馬がトーナリストくらいしかいなかったですからね。

 歴史のifとして、もしもこの年、カリフォルニアクロームやシェアドビリーフが無事にBCクラシックに駒を進めていれば?
 或いはアメリカンファラオがもう一年現役を延長して、翌年のアロゲートvsカリフォルニアクロームの舞台に出てきていたら?
 もしもそのどちらかの条件が達成され、それでもアメリカンファラオが勝利していたならば、ひとつの瑕疵もない超歴史的名馬と評価されていたでしょうから、色々な意味で運命とは時に残酷で冷徹であると思わざるを得ませんね。


★5歳シーズン前半~中盤 <取り戻した輝き、第二の最盛期>


 デビューしてから初めての大きな故障、長期休養明けとなり、復帰は年明けまでずれ込みました。
 それでも引退せずにもう一年現役を、という意気込みを示すように、復帰戦は正月早々1月上旬のサンパスカルSとなり、ここは外枠から王道の番手マーク、早め抜け出しでしっかりと勝ち切っています。

 ただこのレースは斤量面で恵まれていたのと、ラップ的にも49.12-23.78-30.49=1.43.39と、かなりのスローバランスからの後半勝負で、その中で普段から千切り捨てているホッパチュニティあたりともさほど差がありません。
 やはりこの馬、休み明け自体はあまり良くなくて、使ってよくなる傾向はあるのかな、というのと、後半勝負でも一定はやれるものの、ここまでのスローになるとあまり良さは発揮できない、凄く高いレベルではややハイくらいの総合力勝負、かつ時計勝負がベストなのだろうなと感じる一幕です。

・ドバイワールドカップ https://www.youtube.com/watch?v=R2ihAGhZ9K4

 それでも一年以上ぶりの白星で健在をアピールしたカリフォルニアクロームは、去年の借りを返すべく2年続けてドバイの地を踏む事になります。
 実はこの年は、ワールドカップの前にドバイで一度走っているのですが、本当に格付けのないただのオープン戦で、その映像だけは見つかりませんでした。
 まあほぼ実質追い切り替わりのレース出走だったと思いますし、そこも楽に勝っての本番では、去年の鬱憤を晴らす素晴らしい走りを披露してくれました。

 この年もそこまで速い流れではなかったと感じますが、それでも前年よりは軽めの馬場で、外枠からいつもの好位外目追走、しかし4コーナーからの進出にかけては、往年の迫力・勢いが戻っていました。
 あっという間に直線で先頭に立つと、後は力強く後続を引き離す一方で、2.01.83のコースレコードのおまけつきで圧勝、ようやく、ようやくの完全復活を果たしたのです。

 ちなみに余談ですけど、この年の遠征で、調教中にラニに喧嘩を売られて、大人対応で引き下がったなんて話もありましたね。。。


 そしてこの年は流石に欧州遠征プランはなく、三カ月半ほどの休養を経て、7月半ばの8.5FのGⅡ戦・サンディエゴHで復帰します。
 ここも活力ある素晴らしいスタートから番手追走、直線で前を行くドルトムントに並びかけると、意外と相手もしぶとく踏ん張りますが外から力で捻じ伏せて、年明けからの連勝を4に伸ばしました。

 ラップは47.02-23.49-30.31=1.40.84で、そこまで流れ切らずの中盤からロングスパート、時計も速い決着なので舞台としてはこの馬にマッチしていたと思います。
 まあドルトムントも比較的強い馬ではありますが、ここはやはり休み明けで本調子ではなかった、けれど適性は噛み合う舞台で底力は発揮してきた、というイメージですね。

・パシフィッククラシック https://www.youtube.com/watch?v=2Lq9Z3NRQkU

 真夏の西海岸の古馬の大一番である、サンタアニタでのパシフィッククラシックでは、ドルトムントや前年の覇者である牝馬のビホルダーがライバルとなりました。
 しかし本調子を取り戻し、勢いもあるカリフォルニアクロームは、内枠からロケットスタートを決め手あっさりハナに立つと、そのまま淡々とマイペースを刻み、直線もビホルダーの追撃を全く寄せ付けず、5馬身差をつける圧勝で、改めての古馬最強を高らかに宣言する勝利を飾ったのです。

 ラップが47.29-23.93-48.91=2.00.13という推移で、この馬らしいややハイペースからのロンスパ、持久力を磐石に活かす競馬で、レース内容としても結果としても、この馬のベストレースのひとつ、と見ていいでしょう。
 この年のビホルダーは、流石に前年ほどの勢いはなかったとはいえ、それでもBCディスタフでソングバードを競り落として勝利するくらいの力は保持していたわけですから、その馬を相手にこの内容は、文字通り更に一段上のステージに上がった、と見做していい強さだったのではないかと思いますね。

・オーサムアゲインS https://www.youtube.com/watch?v=nOb3iutThfU

 下半期の大目標となるBCクラシックに向けて、前哨戦として選択したのが10月初頭のオーサムアゲインSでした。
 ここは他の馬より重い斤量を背負っていましたが、さしたるライバルもおらず圧倒的な人気に支持されます。
 レースも磐石そのもので、ポンと内枠からハナを切り、三度目の正直での逆転を狙うドルトムントに序盤からピッタリ食らいつかれてハイペースになるもののどこ吹く風、むしろ相手の方が早々に苦しくなり、直線は一度大きく突き放して、最後の100mは完全に流しての完勝でした。

 ラップも46.08-23.20-38.79=1.48.07と、超ハイペースで上がりは要していますが、ラスト1Fの13る5は完全に手綱を緩めているので度外視していいですし、疲れを残さず楽に勝った、という意味で完璧な前哨戦だったと思います。
 この年は、特にドバイワールドカップ以降は逃げを打っての圧勝続きで、新たなスタイルを開眼したと言っても良く、その中でよりペースの幅なども広げてきて隙のないイメージになっています。

 果たしてこの強さに肉薄できるような馬がいるものか――――そう思えるほどのレースぶりではあったのですが、しかししかし、この年も3歳世代から、遅れてきた一頭の超大物が牙を研いでいたのです。
 その名はアロゲート、8月末のトラヴァーズSで初重賞制覇の遅咲の馬でしたが、しかしそこで叩き出した1.59.36のスーパーレコードは、それだけでこの馬の規格外の非凡さを誰しもに刻み込むすさまじいものでした。
 そこからの直行でのBCクラシック、果たして前走が本物なのか、だとして今のカリフォルニアクロームとどこまで勝負できるのか?この年はこの2頭の一騎打ちを大いに期待され、そして結果もその通りになったわけですが、しかしカリフォルニアクロームにとってはそれは不幸な巡り合わせでもありました。


★5歳シーズン後半~引退 <失冠、されど堂々たる退場>


 この年のBCはカリフォルニアクロームにとっては地元のサンタアニタ開催で、その点も同馬にアドバンテージがありました。
 頭数も10頭と少なく、人気は完全に2頭が分け合う形で、辛うじて4歳世代の中心格であるフロステッドが単勝一桁台だったものの、衆目一致しての2頭の対決ムードでしたね。

 カリフォルニアクロームはここも内目の枠から体半分先んじる素晴らしいスタートを決め、そのまま逃げを打ってレースを主導していきます。
 アロゲートはあまり出足のいい馬ではないのですが、ここは外枠を引けたので自分のリズムでじわじわと追走しつつ3番手の外、道中はカリフォルニアクロームのエスピノーザJが幾度も後方を振り返り、ライバルの位置取りを確認しながらのレースになります。
 3~4コーナーでいつものように早めに仕掛けて突き放しにかかるところ、内目に切り替えて追撃してきたのがやはりのアロゲートで、直線は2頭の熾烈なマッチレースになります。
 残り100mではまだわからない態勢でしたが、最後の最後、アロゲートが斤量差と底力でグイっと伸びて半馬身、カリフォルニアクロームの王者の逃げを捕まえたところがゴールでした。

 ラップは47.15-23.81-49.15=2.00.11という推移で、カリフォルニアクロームとしては自身が一番力を発揮できる、最高のバランスでの逃げになっていると思います。
 ラストも止まっているわけではなく、実際に3着以下は10馬身以上離れていて、これはシンプルに、規格外にアロゲートが強すぎた、というしかない結果だと感じています。
 こういう、ここ一番で勝ち切れない、絶対的チャンピオンになり切れないのが、カリフォルニアクロームという馬について回る運命なのかな、とも思ってしまいますが、それでもこの結果は、歴代のチャンピオンに引けを取らない素晴らしい内容だったと思います。
 本当に、ここにアメリカンファラオがいたらどうだったかは想像するだけでワクワクするのですけどね。正に力と力の真っ向勝負で、何の不利もなく清々しい、BC史上に残る名レースだったと思っています。

・ウィンターチャレンジ https://www.youtube.com/watch?v=KQ61k1mxeXk

 BCクラシックで絶対王者の冠は剥奪されたものの、それでもこの馬の強さは誰もが認めるところでした。
 現役生活も残りわずかで、引退レースはこの年から創設されたペガサスワールドCと決定、そこへの足慣らしとして選ばれたのが、地元中の地元・ロスアラミトス競馬場でのウィンターチャレンジでした。
 これはずっとこの競馬場で調教していながら、一度も凱旋レースをしていなかったが故のファンサービスのようなもので、実際斤量面でも無理がないような設定になり、大外枠からスムーズに好位外目、直線はほぼキャンターで突き抜けての圧勝でした。

 相手は弱いので着差は見ても仕方ないですが、時計的にも47.45-23.83-29.75=1.40.03と素晴らしいレコードタイムで、基本的に大きなグレードのレースが少ないロスアラミトスでは、相当長く破られる事のない不滅のレコードになるのではないかと思います。
 ともあれ叩きの一戦でも素晴らしい走りを見せて、アロゲートへのリベンジの準備はしっかり整った、と思われていたのですが……。

・ペガサスワールドC https://www.youtube.com/watch?v=dFlfNhfyzyI

 この年から新設された、世界最高賞金を謳うガルフストリーム9FでのGⅠ・ペガサスワールドCは、アロゲートとカリフォルニアクロームの再対決、そして最後の対決の舞台となり、大いに盛り上がっていました。
 ただ同時に、このコースは明確に外枠不利が知られていて、アロゲートが最内、カリフォルニアクロームが大外になった時点で、再度の逆転を望むのは難しいか……という情勢でしたが、アロゲートも距離短縮に一抹の不安があったために、蓋を開けてみないとわからない楽しみなレースでもありましたね。

 しかし結果としては、呆気ないほどにアロゲートの圧勝、そして不可解なほどのカリフォルニアクロームの惨敗で幕を閉じる事になります。
 両者ともいいスタートでしたが、枠の差でアロゲートは2列目イン、カリフォルニアクロームは延々外目となり、ハイペースの中3コーナーでカリフォルニアクロームの手応えが怪しくなります。
 逆にアロゲートは余裕綽々で、馬群を切り裂いて押し上げていくと、直線カリフォルニアクロームのお株を奪うような早め先頭からの突き抜けで圧勝、ラップも46.14-23.66-37.03=1.46.83と非常に優秀なコースレコードでした。

 なのでアロゲートに勝てなかったのはともかくとして、ここまで惨敗したのはやはり状態面に不安があったのでしょう。
 ハイペース自体も近走では克服していましたし、苦しい立ち回りでも楽についていけるスピードの持ち主が、スタートからかなり押っ付けての追走にもなっていたように、色々な意味でもう燃え尽きていたのかな、アロゲートの顔を見て世代交代を馬自身が実感していたのかな、など考えてしまいます。
 最後はとても残念な幕引きになりましたけど、それでもこの馬の価値が下がるわけではなく、本当に長い間現役の第一線で活躍し続けた走りには、賞賛以外の言葉はありませんね。


★終わりに

 全27戦、全てとは言わずともそれなりに丹念に追いかけてきて、やはりどこから切り取っても素晴らしい馬だったな、というのが正直な所感です。
 時には不甲斐無い負け方もありましたけど、ある程度は原因のあるもので、比較的馬場、コース、展開不問で安定して強かったと思いますし、特に3歳前半と5歳中盤の手の付けられない強さは印象深いです。
 芝でも走れるスピードと素軽さがあるので、それなりに日本での種牡馬としての可能性もあるかな、と思いますし、地味な血統ながらもアメリカの競馬史に深く名を刻んだあたりは、サンデーサイレンスを彷彿とさせるものもありますので、素晴らしい活躍を期待しつつ本稿のまとめとしたいと思います。
 長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。



posted by clover at 10:17| Comment(4) | 名馬列伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
現役時代は大レースを単発で見ていただけなので、間を補完する感じで読み応えがあっていいですねー。
大抵アメリカ三冠レースのいずれかを勝って低迷した馬はそのまま尻すぼみになるパターンがほとんど、5歳時に復活したときは当時ちょっと驚きでした。

あとは、これだけの馬が日本の北海道にいるので今の状況が落ち着いて来たらいずれ会いに行きたいものです。
Posted by が茶 at 2020年07月28日 22:34
>が茶様

 いつもコメントありがとうございますー。

 日本でもそうですけど、やっぱり一冠だけしか取れなかった馬と、二冠以上取った馬では、適性の幅やそもそもの底力が違う、というのはあるのでしょう。

 仰るようにアメリカの場合は、クラシック戦線迄とそれ以降が別物という感もあります。
 それでもこのくらい強い馬ならば、まともに状態を整えて長く現役を続ければ違う、とわからせてくれた面でも、この馬の存在は偉大だったと思うのですよね。
 やっぱり例え三冠馬でも、あっさり三歳で引退されると面白くないですし。

 その意味ではまだ日本は、最低でも古馬シーズン一回は走らせる、という文化が根付いているのが有難い事です。
 コントレイルも三冠を取ってしまえば、父同様四歳までの現役生活かもですけど、それでもやはり違う世代とぶつかるか否かは、歴史的評価を定める意味で大切ですからね。

 今はまだとてもとても北海道にGotoしてる場合じゃないですからねぇ。
 もう今秋~冬の収束は見込めませんし、せめて来年の今頃には心置きなく旅が出来る状況が整っていて欲しいと思います。
Posted by clover at 2020年07月29日 04:09
2016年ドバイWC前のハンデ戦ですが、Youtubeのメイダンレーシング公式に映像がありました。
内容は直線に入っても大して追わず楽勝なので実質公開調教みたいな感じでした。

DWCC Meydan Racecourse 25-2-16, Race 6 Trans Gulf Electromechanical Trophy Handicap
https://www.youtube.com/watch?v=xD3CmUlZ57U
Posted by が茶 at 2020年07月30日 07:19
>が茶様

 記事の補完ありがとうございます!大変助かります。
 まあ流石に相手も相手ですし、実戦形式のバリアトライアル感覚ですね。いかに余力を残しつつ実戦勘を養うか、という所で、次走の完勝ぶりを見ても素晴らしい調整が出来ていたのだろうな、と思います。
Posted by clover at 2020年07月30日 16:50
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