2020年05月19日

私的名馬列伝 第三十一話 ドゥラメンテ

★はじめに

 今週も海外の大レースがなく、1枠記事枠が余るのですよね。
 なので列伝書くか、とは思ったものの、予定順序なら次はカリクロなんですけれど、彼はアメリカ馬としては異例なくらい沢山レース走っていて、下準備がとても大変なのです。
 流石にそこまで時間の余裕がなかったので、現役生活が短めでサラッと書ける、それでいて丁度今年から新馬デビューともなるドゥラメンテをやってしまおう、という話になりました。

 現役時代は物凄く好きな馬だったので、どうしても贔屓目、色眼鏡で見てしまっていた面もあり、なんだかんだでもう5年前の馬ですから、改めてしっかりこの馬の強さと本質を見極めて、産駒傾向の読み解きにもつなげていければ、と思います。
 生涯通算成績は9戦5勝2着4回https://db.netkeiba.com/horse/2012104511/と、一度も連対を外さなかった堅実な数字とは裏腹に、現役生活はどこかしら破天荒なイメージが付き纏います。
 同時に志半ばでの引退を余儀なくされた事で、底を見せないイメージも色濃いこの馬の、レース質から見た実情とは如何なるものだったでしょうか?


★新馬戦~共同通信杯 <紙一重の天性の狭間で>

 今更この馬の血統などを論じる必要は薄いでしょう。
 偉大なるエアグルーヴ一族の血を色濃く継ぎ、そしてサンデー、キンカメの血をふんだんに盛り込まれたこの馬は、実際に活躍する前から近代日本競馬の結晶、と評されていました。
 当時売り出し中の関東の名門・堀厩舎に所属、この頃からより一層支配力を強めていったノーザンの絶対的なブランド力も相俟って、2歳秋の新馬戦から断然の一番人気に支持されての出走となります。

・新馬&未勝利戦映像 https://www.youtube.com/watch?v=Glqxzs8kYy8

 レース映像自体は、まだJRAホームページでも閲覧できると思うのであくまで参考程度に見て頂ければ、と思います。

 新馬戦では、短期免許で来日していたF・ベリーJを鞍上に大外枠からのスタート、ゲートで大きく立ち遅れてじわじわリカバーしつつ、やや後方の外目をずっと追走していく事になります。
 新馬戦らしいスローペースからの後半勝負の中、4コーナーもずっと外々を回して直線、やや坂地点で置かれる感もありつつ、最後は地力でじわじわと詰め寄ってきますが、好位から完璧な競馬をしたラブユアマンに半馬身及ばず、2着でキャリアをスタートさせます。

 これを見ていても、5年スパンでそれなりに競馬の常識は変ってきている面もあるのかな、とは感じますね。
 まあアーモンドアイもそうですが、普通このクラスの馬が負けるはずのない相手に負けてしまうのは、まだ新馬戦で勝つことの優先度が絶対的に高くなかった故でもあるのかなと思います。
 ここ2年くらいは、より綿密に、期待馬であればこそきっちり新馬戦を勝ち、如何に活力の消耗なく、間隔を空けたローテーションを組むかが優先されるようになっていますからね。
 勿論叩き良化型、という概念そのものが過去の話になるとは言いませんけれど、少なくともこの馬に関しては、この時期のローテそのものはまだそれまでの常識をなぞった格好を描いているとも言えるでしょうか。

 ただそれとは別に、テクニカルにラップで見ていくと、このレースは36,4-38,1-34,3=1,48,9と、新馬らしくスロー&中緩みからの3F戦になっています。
 後半は12,8-11,4-11,3-11,6で、コーナー中間から出口にかけて一気にペースが上がっての3F持続戦、と見ていいでしょう。
 このラップなので、ドゥラメンテはコーナー外々でのロスは結構あり、またその地点で早めに促されてもあまり動けていません。
 直線に入って坂地点、そしてラスト1Fはしっかり来ているものの、厳密に言うとこの馬自身は11,4-11,1-11,2くらいになるでしょうか。

 この先の活躍や走りからすると、個人的には坂で思いのほか動けていない、切れ味を引き出せていないな、というのがあって、それは細かく言うとコーナーから3F脚を使っていったから、とも考えられます。
 基本線でこの馬は一瞬の切れをどんな展開からでも引き出せるのが最大の武器、とは当時も思っていましたし、今回執筆の為に振り返って見ても改めてそう思ったのですが、加えて言うとこの馬、坂加速は上手ですけどコーナー加速は下手っぽいのですよね。
 そのあたりの論証は後のレースを見ながらも付け加えていきますけど、ともかくここではコーナーで遠心力が掛かる地点で一気の加速を問われてバランスを崩し、かつ3Fで分散した分だけ、最速地点でも、ラストもグンと目立つ脚は引き出せなかったのかな、というイメージです。

 続く未勝利戦は中2週での参戦となり、ここではムーアJが騎乗していました。
 最内枠からスタートは新馬同様、重心が後ろにかかるような格好になって出負けしているのですけど、そこから枠を利してムーアJらしくしっかりリカバー、2列目ポケットからの競馬になります。
 直線は前の馬の外に持ち出し、坂地点で一気にグンと伸びてそのまま突き抜けての大楽勝でした。

 ここは馬を鍛える、という意味でも、ムーアJがきっちりラストまで強く追っていて、これで馬がガラッと変わってきた、というのは定評になっていますね。
 ただラップ的に言えば、36,4-37,1-34,0=1,47,5と、序盤は新馬と同じ流れで中盤多少は流れ、けれどその部下仕掛けの意識は遅れて、ラストは11,9-11,0-11,1という数字を刻んでいます。
 似通ったペースでもここはきっちり前目内目で脚を温存できた恩恵は大きいのと、直線からの仕掛けの度合いが強いので、その分バランス良く一気に動けている感じで、この馬自身は11,8-10,8-11,1くらいでしょうか。
 上がり3Fは奇しくも新馬と一緒で、基本的には前半のペース如何に関わらず後半使える脚は大体決まっている、というのがこの馬の特色のひとつではありますね。

・セントポーリア賞&共同通信杯映像 https://www.youtube.com/watch?v=hMKO8wij260

 三カ月の休みを経ての復帰戦は、開けて二月のセントポーリア賞となりました。
 三戦続けての府中1800mですが、ここでは全体のペースが一気に上がって、過去2戦とはまた違うレース質になっています。

 ここも休み明けもありスタートはもっさり出たドゥラメンテは、石橋Jを鞍上に道中は中団くらい、前が飛ばしていく中で馬群全体の押し上げに合わせて3~4コーナーで詰めていくと、直線入り口で外に進路を取り、そしてそこからは独壇場、一気の突き抜けで圧勝、でしたね。
 ラップは35,1-36,3-35,5=1,46,9で、全体としてはハイ寄り、ただし後ろからの馬はややスローくらいだったでしょうが、それでも今までのドゥラメンテが経験した流れよりは相当速くなったのは間違いありません。
 ラストは12,5-11,2-11,8と、逃げ馬が失速してトリッキーなラップになっていますが、ドゥラメンテ自身は残り400mで3馬身差、200mではほぼ先頭列なので、大体11,4-10,9-11,8くらいだろうと推測できます。

 このレースにおいては、追走面があの位置でも高く問われていたものの、それを全く苦にせずに、この馬本来の爆発力が坂地点で炸裂しているのが一番良くわかるかな、と思います。
 この時期の3歳馬で、これだけ流れてもなお10秒台の脚を坂で使えるのはやはりえげつない一方、流石にラストは結構落としていて、決して持続面ですさまじく秀でたものがあるわけではないのも見て取れます。
 結論を先取りして言えば、この馬は本当にいい脚は2F、という面はあり、勿論馬場もあるので一概には言えないものの、ペース如何に関わらず現役生活のほぼ全ての上がりが33,7~34,1に集約されているのが面白いところです。
 なので基本的には、ハイペースになるほど他の馬に対してアドバンテージが大きくなる馬だったのでしょう。

 故に、次の共同通信杯では高いレベルでのこの馬の弱点が露呈する内容になりました。
 このレースに関してはそもそもローテーションが、これだけの馬としては異例の中1週の参戦でもあり、その点で難しさがあったのも事実です。
 実際かなりテンションが高かったのか、逆にこのレースではこの馬の現役生活でも最高にいいスタートを決めているのですが、その分序盤から折り合いを欠いて頭を上げてしまっています。
 こういうのも外国人Jなら、がっちり抑え込みつつポジションは維持、となるのでしょうが、この時代の石橋Jには荷が重かったか、必死で抑え込むうちにズルズルポジションを下げて後方寄りの外目で勝負所を迎えています。
 それでも4コーナーでじわっと外から押し上げつつ、直線では持ち前の爆発力を発揮して一旦は先頭に立ったのですが、最後の1Fで甘くなって、道中前目内目でロスなく立ち回っていたリアルスティールに交わされてしまったのです。

 レースラップは35,2-37,4-34,5=1,47,1で、全体時計としてはセントポーリア賞と遜色ないのですけど、このレースの方がはっきり中盤が緩くなっています。
 そもそもテン35,2の入りで折り合いを欠くのは厳しく、基本的にスローペースで引っ掛かるのはそこまでエネルギーロスはないと思うのですけど、ハイペースでだとより消耗は大きいでしょうからね。
 挙句に中盤の緩い地点でもずるずる下げてしまう形ですからラップ的に道中は全く噛み合っていないのは事実です。

 ただ同時に、後半11,8-11,0-11,7という推移の中で、ラストが甘かったというのも見逃せない要素です。
 数字上は2F戦に近いのですけど、この馬の場合は道中ロスしつつ、またここもやや焦り気味にコーナーから押し上げていく形は取っていて、それでも最速地点で脚は使えていますが、余計に消耗するのが速かった、という見立ては出来ますね。
 この馬の上がりはまたまた奇しくも33,7で、府中だとこの数字が実は限界なのか?とも思えるのですけれど、ここの内実は11,1-10,8-11,8くらいで、やっぱり速い脚は2Fまで、その上でペースで後半に余力を残せる馬がいれば、ラスト1Fの攻防で怪しくなる、という面は見て取れるのではないでしょうか。

 ともあれ、やや強引な出走でも辛うじて2着は確保して、クラシックにゆとりを持ったローテーションで臨める態勢は作れたのは事実です。
 一方、デビューからずっと府中1800mしか走っていないローテーションが本番でどう転ぶのかわからない面もあり、この時点ではみんな潜在能力は認めていたものの、それでも紙一重の危うさも感じていたのは事実でしょう。
 ただ武Jが、セントポーリア賞の時点でこの馬がダービー馬だと語っていた、なんて話もあるように、プロの目からもきっちり出し切れた時の破壊力はえげつないと映っていたようで、それを証明したのが皐月賞、となります。


★皐月賞~ダービー <暴君降臨、されど夢半ばにして……>


 いい意味でも悪い意味でも伝説となっている皐月賞は、鞍上にこの年から通年免許を取得したミルコJを迎えてとなりました。
 この年は非常に粒揃いのメンバーで、特にサトノクラウン、キタサンブラックはこの時点でも無敗でトライアルを制しての参戦、リアルスティールもキタサンブラックにはスプリングSで敗れたもののここは万全の態勢での出走でしたし、他の伏兵を見ても、後々の活躍を踏まえて考えると非常に質が高かったです。

その中でもやはりそれなりにドゥラメンテの底力は期待されていて、戦績では見劣るこの馬が僅差の3番人気だったわけですけれど、レース後はそれでも過小評価だった、と誰もが驚嘆する事になります。
 スタートはやっぱり後ろ重心ではっきり出負け、道中は後方3~4番手のインと苦しい位置取りになり、そこから向こう正面でスペースを拾いつつじわっと進出、4コーナーでも少し進路がなくて、やや強引に外に持ち出そうとしたところで例の斜行事件が発動します。
 これ自体は、これまでも見てきたように元々コーナー加速が下手な馬で、はじめての右回りでもあり、スピードに乗せつつ適度に持ち出す、という挙動に馬自身が全く不慣れだったことはあるはずで、本当に事故が起きなかった事は不幸中の幸い、というものではありました。

 そして、ここで大きく膨れてしまった事は、この馬自身も大きなコースロスになってしまいました。
 スムーズに立ち回ったリアルスティールが前目で先頭に並びかけていく時点で、6馬身近い差がついてしまい、誰しもが万事休す、と思ったところから、ドゥラメンテという馬の真骨頂が発現します。
 あれだけバランスを崩しながらも、あっという間に立て直して加速を開始すると、坂地点で更に勢いがついて、文字通り並ぶ間もなく磐石の競馬のリアルスティールを千切り捨ててしまったのです。

 このレースのラップは35,2-48,3-34,7=1,58,2となっています。
 ハーフだと59.2-59,0で綺麗な平均ペース、中盤も淡々と12秒そこそこで流れて、3~4コーナー中間からペースアップしての後半3F勝負、全体としては総合力戦と考えていいでしょう。
 馬場がかなり軽かったので、ラストは11,7-11,4-11,6という推移なのですが、このラストはドゥラメンテが突き抜けた故、とも言えます。

 このレースに関しては、全体で淡々と流れた事でこの馬の追走面が武器になっている事と、内目を通したことでロスは少なく立ち回れているのがまずポイントです。
 そしてペースが上がってからも、ある程度馬群の中でじわじわ進出、という形なので、明確に仕掛けていけたのは4角出口から、つまりあの斜行した地点から、と見ることは出来ます。
 そこではああいうお行儀の悪い事になりましたけど、でもそこまで脚をしっかり溜めていた事、そしてミルコJが即座にバランスを立て直してきた事で、直線ではこの馬らしい加速性能と切れ味を引き出せた、という感じで、イメージとしては結果オーライ、ではあるのですよね。

 自身のラップはおよそ11,7-11,2-11,0とラスト最速に見えますし、それは偏に仕掛けが遅れたからで、決してすごく長い脚を使ったから、というわけではないのは確かだと思います。
 また府中でも見せていたように、この馬は坂での加速は非常に上手なので、そこまで余力を持てて入れたことがこういうド派手な見栄えのするレースを披露出来た最大要因であり、それは後で触れる中山記念と比較してみればわかりやすいでしょう。
 ともかく、強かったのは間違いない、けれどこの馬の強さは結構な比率でペースに依存する面はある、というのは事実でしょうね。


 皐月賞で破格の強さを見せた事で、元々得意舞台と目されている府中のダービーではより強いレースが見られるのでは、と、誰しもが多大なる期待を託してのこのレースでしたが、実のところ確かにレコード決着で強いは強い、けれど……という内容でもありました。
 もっともこの頃から、ダービーの時期は顕著に超高速馬場になり、内目有利のバイアスが強くなっていたので、その中で外目の枠から外を回して圧勝、という面はあり、そういう見た目以上に、というお約束の誤魔化しが効く条件でもあったので、改めてどうだったのか?は考えねばならないレースです。

 ここでは14番という不利な枠で序盤のポジショニングが注目されましたが、ここ一番でミルコJはしっかりゲートを決め、すぐ内のリアルスティールがやや躓いて慣れない後ろからの競馬になったのと裏腹に、マイペースで楽に中団の外目を確保します。
 そのまま4コーナーでゆったり前に取りつき、コーナー出口から少しずつ仕掛けていくと、この馬らしい機敏な反応で坂地点であっという間に抜け出してきました。この地点の手応えだけで言えば、先週のアーモンドアイみたいにあとどれだけ突き放すか?という雰囲気なのですけれど、でも意外と坂上からはジリジリ、サトノ2騎に少し詰め寄られるもセーフティ、という内容での二冠達成となりました。

 ラップは35,4-35,9-37,3-34,6=2,23,2という推移になっています。
 このレースは比較的しっかりと流れていて、前半1000mが58,8ですし、後続もそこまで大きく離れておらずに、全体として追走面が強く求められたレースにはなっています。
 あくまで平均的に、という話ではありますが、ハイペースの方が外枠の不利は軽減されやすく、その点でここは恵まれているのと、スタートをしっかり決められたことで、追走面のアドバンテージを強く活かせるポジショニングが出来たのも良かったと思います。

 淡々と流れた分3コーナー付近では少し緩んで、後半は11,9-11,0-11,7という推移なのですが、ドゥラメンテ自身はコーナーから少しずつ進出して、やはり最速地点で瞬発力の質の差を見せつける走りになっています。
 大体11,4-10.8-11,7となるはずで、この頃はある程度コーナーからでもバランスを保ちつつ動けるようになっていますけれど、それでもラストは結構落としています。
 やっぱりこのあたり、後半の素材的に化け物ではないな、とは素直に思いますし、枠の不利もペースが流れた事である程度緩和された、スタートもしっかり決めた、と考えると、この馬にとっては少し距離が長かったのもあるかもしれません。

 正直改めて二冠を見直すと、決してどういう展開でも勝っていた、このメンバーでは力が抜けていた、という結論にはならないんですよね。
 皐月賞もダービーも、総合的にかなり流れた事でこの馬にとってはプラスになっていますし、またスローの後半特化でも、未勝利から判断すると、切れ味の質や持続面をグンと引き上げてこられたかは疑問符がつきます。
 勿論土台の総合力がどのベクトルでもかなり高いのは間違いなく、好走スポットも広い、崩れるパターンそのものは少ないタイプだと思うので、どういうレースでも勝ち負けに持ち込んだとは思いますが、特にスローロンスパとかになっていたら微妙だったかも、というのは感じるところですね。

 ちなみにこのレースの後、三冠を目指して英気を養う放牧中に両前脚の骨折が発覚し、長期休養に追い込まれます。
 果たしてこの馬が無事だったら三冠は取れたのか?と言うと、個人的にはそうであって欲しいと思う面はありつつも、現実的に見ると結構苦しかった気はしますね。
 まあ上位がまだ本格化前のキタサンブラックとリアルスティールですからなんとかなったかもですけれど、あの年はかなりのロングスパートになっていますし、基本京都は下りから分散しての4F戦にはなるわけです。

 この時点で関西圏でのレースを経験していない馬ですし、果たして坂の下りでコーナーを曲がりながら加速、なんて事が出来たのか?というのは、正直疑問の方が大きく、そしてスタートも大体出遅れる馬ですからね。
 内枠で中団イン、みたいな、それこそ勝ったキタサンみたいな競馬が出来ればともかく、出負けして後ろから、外から強気に、という競馬で、京都の3000mでライバルを捻じ伏せるだけの暴力的な持続性能はまずなかったはずです。 
 そう突き詰めて考えていくと、皐月ダービーより展開利を味方に出来る確率はかなり低かったはずで、距離的にも苦しい戦いを強いられただろうというのが現時点での結論です。


★中山記念~宝塚記念 <不完全燃焼の真因は……?>


 この馬の古馬としての復帰戦は、ダービー以来九カ月ぶりの中山記念となりました。
 次にドバイ遠征を見据えての出走であるのと同時に、馬自身の能力が衰えていないかを確かめる大切な一戦でしたが、ここは勝つには勝ったものの、というやや物足りないレースにはなっています。
 でも本当にこの馬の場合、思ったより強くなかった、というレースをした時は、それを誤魔化せる格好の言い訳が用意出来てしまっているのですよね。
 ここでは骨折からの長い休み明けで、斤量面も不利ながら、きっちり勝ち切った事がなにより、という論評が大勢を占めてしまって、競馬の内実がどうだったか、この馬自身は違いを見せていたのか?という論点が当時からもっと必要だった一戦だと感じます。

 ここもスタートはやや立ち遅れ、ただ少頭数で外目の枠だったので二の足でスッとリカバーしていって、道中は中団外目、いつでも動ける絶好のリポジションを確保します。
 向こう正面から前が飛ばしていって、やや縦長の隊列になるのをドゥラメンテとミルコJは自分から追いかけていき、4コーナー入り口で先頭に並びかけてあっという間に抜け出すものの、ラスト1Fではアンビシャスとリアルスティールの猛追に遭い、最後はクビ差残したものの、やや冷や冷やさせる薄氷の勝利になりましたね。

 このレースのラップは36,5-34,5-34,9=1,45,9という推移になっています。
 この時期なりの馬場なので全体時計はまずまず、そしてこのレースは序盤だけ遅く、そこから6Fロンスパ、と言ってもいいくらいに中盤が凄く速くなっています。
 後ろの5Fは11,3-11,6-12,0-11,1-11,8とややトリッキーですが、好位以降の馬はコーナー中間の緩みの地点で取りついているので、5Fの高速持久力ラインでの勝負、そこから要所でもう一段、段階的な加速も引き出せたか?という、後半の素材面と適性面が強く問われる競馬になりました。

 その流れの中で、自分から動いて捕まえに行って勝ったのは確かに強いは強いですけれど、同時にやっぱりラストの甘さは目立っています。
 特にこのレースはコーナー地点が最速で、そこでしっかり動いていきつつ、やっぱり少し外に膨れ気味で苦労はしているので、年を経て多少なり体幹がしっかりしたと言えども、若い頃の弱点が全て消えたとまでは言えないでしょう。
 この馬自身は11,4-10,9-11,8なので、これだけ中盤が引き上がってももう一段鋭い脚を使えたのは流石、ではありますが、こういう形だと後続も足を残しているので、この馬の適性にマッチしたレースではなかったのは間違いないと思いますね。

 その点で勝ち切った事は見た目以上に大したものなのは事実ですが、休みの間に弱点が強化されたわけではなく、骨折自体は能力減衰を引き起こしてはいなくても、本来ならあるべき上積み、多角的な成長を阻害していたのも確かなのではないでしょうか。
 このレースの内容からしても、この馬自身が得意ではないレースパターンの時は並の一流馬ラインの走りになってしまう、というのは見えて、この後の2戦はそれを補強・証明する内容になっているのかなとは感じます。

・ドバイシーマクラシック映像 https://www.youtube.com/watch?v=_fNwJZ0CJFA

 日本のエースとしての期待を背負い、また直前にライバルのリアルスティールがターフを制した事でより一層期待を集めたこのレースでは、この時期最高潮だったポストポンドに完敗を喫する事になります。
 ただこのレースも悲劇的要因と言うか言い訳要因と言うか、レース前に蹄鉄が外れて、打ち直しが出来ずに裸足で出走した、という要素が加わってきていて、本当の実力・適性面での検証を覆い隠してしまった面はあるのですよね。
 まあ色々な意味でドラマチックな要素には事欠かない馬だったのは間違いありません。

 そういうマイナス要因があったとはいえ、レース自体は素直に完敗でした。
 ここもやや外枠からゲートが悪く後方から、前にポストポンドを置いてのレースになり、ずっとライバルをマークしながら進めていくものの、4コーナーから強気に進出していって突き抜けたライバルの影を踏むのがやっと、最後はミルコJも諦めて流し気味だったとはいえ、ジリっと寄り付き放されての2着でした。

 このレースのラップもすごく頑張って探せば、どこかに当時のトラックチャートの魚拓とかあるかもなんですが、少なくとも本家の方は過去2年分しか残してくれないので、厳密にはよくわかりません。
 ちなみにポストポンドのラップが27.28-25.08-24.03-24.25-23.02-23.31となっていて、ラストは210mなので後半4Fちょっとはほぼ平均11,5くらい、スローからの4Fロンスパというイメージでいいはずです。

 いかにも欧州型の競馬で、外目から追撃したとはいえ、直線入り口のおそらく最速地点でも、ラストの持続でも違いを見せられていないので、やはりこの距離で分散してのステイヤー型の勝負で強い馬でもなかったのは確かです。
 敢えて言えば、蹄鉄があればもう少しグリップが効いて、最速地点で肉薄できたかもですけど、ああいうポジションになってしまった時点でポストポンド相手は厳しかったですね。


 一敗地に塗れ、プライドを傷つけられての帰国初戦・宝塚記念は、ここもはじめての関西、はじめての渋った馬場でのレースとなりました。
 ドバイの敗戦はあったものの、それでもこの馬の潜在能力を信じる人は多く、このレースも単勝2倍を切る支持を受けての出走となりましたが、しかしここも伏兵の牝馬・マリアライトに屈するという結果に終わってしまいます。

 真ん中9番枠から、過去一番悪いくらいにはっきり出負けして道中は後方4~5番手を追走、そこから馬群の中を縫って少しずつポジションを上げていくものの、勝負所の4コーナーでは周りが密集しなかなか抜け出せず、直線入り口で少し強引に外に出して進路確保します。
 そこからはしぶとく最後まで脚を伸ばしてきたものの、ただ圧倒的な爆発力は見せられず、最後までしぶとく伸びたマリアライト、逃げ粘ったキタサンブラックとの激戦の末に2着惜敗、更にレース後に故障を発生し、ミルコJが下馬するという無念の結果でした。

 当時はこのレースを見ていて、ポジショニングの悪さと、そこから抜け出せなかった事が敗因と感じていましたが、こんな風に通貫して見ていくと少し違った面も見えてきますね。
 一先ず言えるのは、このレースは明確にハイペースで、ラップは34,7-24,4-36,9-36,8=2,12,8という推移です。
 全体として流れつつも馬群は凝縮していたので、どの位置でも追走面は強く求められていたと思いますし、その点ではドゥラメンテははっきりアドバンテージを持っていたはずです。
 ラストは11,9-12,2-12,7と、キタサンブラックの武Jがどこまでも強気の仕掛けを敢行しての持久力特化勝負で、コーナーのロスなどはそこまで大きくなく、高いレベルで持久力性能が求められたと言えるでしょう。

 こういうレースで、馬群に包まれて中々追いだせず、直線で漸く進路確保して、という形は、皐月賞とよく似ています。
 ただここでは、そこから別格の切れまでは引き出せず、この馬自身で11,9-12,0-12,2くらい、少なくとも加速ラップは踏めていません。
 そういうレース質である、と言えばそうですが、速い流れで違いを見せるのがこの馬の真骨頂で、かつ加速性能の高さも絶対的な武器であった事を踏まえると、阪神の坂地点のラスト1Fで捕まえ損ねた、というのは正直物足りないですね。

 そう考えると、やはり純粋にタフな馬場と距離が堪えていたのかも?という解釈にはなります。
 ここも海外明けで状態面もどうか?ではあったのですけど、古馬になってからのレースとしてはここが一番噛み合っていたのは事実で、ただその中で大きく出負けして、前半のポジショニングでアドバンテージを作れなかったのは結果論的に致命傷だったのかなと感じます。
 適性から判定するなら、例えばマリアライトみたいに外目から早めに動けていたら勝てたか?と言うと、正直それはそれで最後甘くなっていた気はしますし、タフな馬場もこなせる範囲ではあれ、高速馬場・軽い馬場の方が強い馬だったのは確かなのでしょうね。


★終わりに

 とまぁ、大好きな馬だけに本当はやはりすごく強かった、という結論であって欲しかったのですけれど、当時から薄々思っていたように、レース質そのものから見ていくと、この馬の強さは多くの部分が幻想性に補填されているイメージにはなってしまいます。
 少なくとも実像として見えているのは、追走面が大きな武器で、流れても一脚の鋭さが全く削がれないのが最大の長所であり、ただそれは実のところ、ポジショニング競馬が出来る馬にとって理想の武器でもあるのですよね。

 この馬はずっとゲート難が付き纏いましたし、総合的に見ても、スタートと、スタート後のリカバーが上手くいったレースの方が強い結果を残せているのは間違いなく、時に追走面の武器をポジショニングの悪さが潰してしまっている感もありました。
 馬自身の適性としても、多分ここ2~3年で一気に隆盛した、府中で恒例の中盤緩まない超ロンスパ、高速持久力戦とかはあまり向いていないと思いますし、ペースに依存する馬、という側面は強くあったと思います。
 後半要素の質をどこまで高められたかも謎ではあり、マイルまで短くすると色んな意味で忙しいタイプだったでしょうから、中山とか阪神の2000m、小回りで最後坂のあるコースが実はべストだったのではないかと感じますね。

 ちなみに宝塚を勝っていて、無事だったら凱旋門賞、という話も出ていましたけど、基本的な適性としてはあまりマッチしてはいなかったでしょう。
 ただこの年は例外と言うか、シャンティイの開催で綺麗な良馬場、レコードが出る超ハイペース展開でファウンドが完勝したレースなので、きっちりこの通りのレース内容で走れていれば、少なくともしぶとく上位には食い下がれていたのではないか、とも思いますね。
 特に坂加速はとても上手な馬でしたから、直線ずっと上り坂のシャンティイ向きだったとも思いますし、どんな走りが出来たか見てみたかった、というのは本音です。

 種牡馬としてはかなりのバックアップを受けていますし、一定以上成功する、とは思いますが、産駒傾向がどう出るかは読みにくいですね。
 キンカメ血統なのでやはり本質的にスピード寄りにはなるかな、と感じますし、気性面も受け継いでしまうならより短いところで、とはなりそうで、けれどそういう面を克服し、抜群の身体能力と機動性を受け継いだ馬がクラシック路線に乗ってくる可能性は充分にあるでしょう。
 こうして列伝でまとめてみて、現役時代は同厩舎、種牡馬としても同期のライバルとなるモーリスに対しては、多分絶対的な潜在能力ならあちらのほうが上だったと感じますけれど、筋の通った血統面の裏づけと前向きな気性がプラスに噛み合えば、次代の種牡馬界を担う馬になれるポテンシャルは備えていると思っています。

 早くも地方では産駒デビュー・勝ち上がりのニュースも聞こえてきますし、来年のこの時期にオークス・ダービーで大きな話題となるような馬を輩出してくれればとても嬉しいのですけどね。


posted by clover at 12:49| Comment(2) | 名馬列伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お疲れ様です。

自分にとって、ドゥラメンテと言えばド派手な勝ちっぷりを見せた皐月賞ですね。府中の二戦連続の圧倒もインパクトありましたが、ドゥラメンテの人気を決定づけたのは、やはり皐月賞でしょう。
三冠でも、一番好きなレースが皐月賞ですし。ドゥラメンテ以外だと、詳細な内容は別としてナリタブライアンやアンライバルドの皐月賞は今でも偶に見返します(笑)

能力的には実は粗がありつつも、ハイペースで削がれず、強烈な一足を使えるというのは、仰る通り相当な強みですよねー。
今の現役競走馬だと、近いのはサートゥルナーリアでしょうか。追走面で劣っている点は否めず……といった感じではありますが。抜群の手応えで4角を回ってくる姿など、めちゃくちゃ華はあるんですけれど。

種牡馬としてはどうなるんでしょうねー。サンデーが入っている分、ルーラーシップよりは確実にスピード寄りにはなるのでしょうが、逆にサンデーが入っている影響で、繁殖相手に米国系のディープ繁殖を多く宛がわれているようなので、硬くなりすぎる懸念はありますよね。父のキングカメハメハ自体が、けっこう硬質な産駒を輩出する種牡馬ですし、ルーラーシップが輩出したG1馬の母系はサンデーとディープですから。
現段階のイメージとしては、ロードカナロアに継ぐキンカメ後継は、レイデオロになるんじゃないかなーと予想しています。
Posted by ハル at 2020年05月21日 05:24
>ハル様

 いつもコメントありがとうございますー。

 皐月賞は基本的に混戦になるイメージですが、たまに直線でガラッと様相が変わるような迫力あるレースが出てきますよね。
 追い込みが決まる展開の時の方が、全体のレースレベルも高いのかな、と思いますし、中山ならではの醍醐味ではないでしょうか。

 ドゥラメンテの場合、要所の反応は良いんですけど、それをコーナーで問われると良くないイメージで、その分追走面の幅はすごく広いのかなと思います。
 サートゥルナーリアですとスローからでも切れ味の質を一気に上げてくる点は、おそらく反応の良さにプラスしての強みでしょうが、ただこちらは多分ハイペースで多少なり削がれるタイプではあるでしょうからね。
 どちらにせよ、そういう反射的な機動性がある事が、皐月賞馬らしい特性とも言えます。

 確かに種牡馬としては間口の狭さと方向性の難しさで、さほどアベレージヒッターにはならないかもしれませんね。
 逆に上手くクロスが噛み合っての爆発はあるかもですし、非常に生産頭数も多いので、数打ちゃ当たるではないですけど、大舞台を賑わす馬を初年度から出してくれれば嬉しいのですけど。
 レイデオロは血統的にはかなりアドバンテージがあるので、気性の難しさが遺伝しないか、ですよね。やっぱりそういう意味でも、ロードカナロアの安定度は素晴らしいんですよねぇ。
Posted by clover at 2020年05月21日 16:21
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