2020年04月23日

私的名馬列伝 第二十九話 インヴァソール

★はじめに

 春のGⅠの谷間の週、という事で、久し振りに記事枠に余裕があるので、ついぞ停滞しまくっていた名馬列伝を少しずつでも進めていきましょう。

 今日紹介するのは、ウルグアイでデビューし、三冠を達成して北米に移籍、そこでもトップに上り詰めた異色の名馬・インヴァソールです。
 生涯通算成績https://ahonoora.com/invasor.htmlは12戦11勝と、僅か一度しか敗北を喫しておらず、特にバーナーディニとの一騎打ちになったBCクラシックの走りは後々まで語り草になるほど素晴らしいものでした。
 現役時代に見せた強さの割に知名度が低いのは、種牡馬としての活躍が全く見られなかった事に起因しているでしょうが、そのあたりの背景なども含めてこの列伝で自分なりの解釈を掘り下げていけたら、と思います。


★レース映像説明


 レース映像に関しては、上のリンクが、デビュー3戦目のウルグアイ2000ギニーからウルグアイダービーまで、そこから唯一の敗北となったUAEダービーが抜けて、アメリカでのピムリコスペシャルHからBCクラシックまで、そして何故かドンHだけ抜けていて、引退レースになったドバイワールドカップの8レースが収録されています。
 流石にデビュー2戦は見つからないと思って最初から探しておらず、UAEダービーは別口で発見したのですが、不思議な事に個別で探してもどうしてもドンHだけは見つけられませんでした。

 一応こちらに、アメリカの公式サイト版のリザルトも貼っておきますがhttp://www.equibase.com/profiles/Results.cfm?type=Horse&refno=6939800&registry=T&rbt=TB、映像のないレースなどはこのあたりを参照にして書いていきますのでご了承ください。


★デビュー~ウルグアイダービー <破格の才能、飛躍の礎石>

 血統背景などは最後に書こうと思っていますが、インヴァソールが生を受けたのはアルゼンチンで、その後ウルグアイの有名な馬産家の目に留まり、買い取られて、ウルグアイでデビューする事になりました。

 正直ウルグアイのレース体系がどうなっているか全く詳しくないのですが、どうやらデビューしたのはダート1100mの未勝利戦で、南半球での2月デビューという事は、比較的順調に生育されて出走出来た、と見ていいでしょう。
 ここはスピードの違いで圧倒したものの、その後故障があったようで、次走はクラシックシーズン直前のダート1400m、しかし頓挫など関係なくここもあっさり突破し、その才能はかなり際立って見えたようで、2戦のキャリアながら、次走のウルグアイ2000ギニーでは1番人気の支持を受けて出走しています。

 不良馬場のダート1600m戦のこのレースは、映像にラップが乗っていますが、一見してわかるように超ハイペースになっていて、その流れを先団の内目で追走、直線スッと抜け出すと、最後の200mで後続を一気に突き放しての圧勝劇を演じています。
 余談ですがこのウルグアイの競馬場、かなり広いですよね。映像的にも、2頭の鍔迫り合いがクローズアップされて、もうすぐゴールか?と思ったところから、実はまだ200mくらいあったり、パッと見で勘違いしやすいところはあります。
 裏を返すと、ウルグアイ時代はずっとこのコースでしか走っていないので、その後のレースの中で時に見せるコーナーでのもたつきなどは、やや窮屈なコースに対する不器用さがあったのかな、最初に広いコースでしか走っていない故の後天的な適性なのかな、と感じる部分もありますね。

 ともあれギニー圧勝で一躍スターダムに躍り出たインヴァソールは、続く二冠目のダート2000m・ジョッキークラブ大賞でも強い競馬を披露します。
 ここはラップ的にはテンが速くてやや中緩み、そこから再加速はしていそうですが全体としてはややハイの総合力勝負、というイメージですけれど、好位の外目から直線スムーズに抜け出すと、やはりラスト200mで後続を突き放しての勝利となっています。
 ただ、この三冠レースは全て2着馬が同じ馬なのですけど、このレースが相対的に言えば一番小さい着差になっていて、やはりそれは道中緩んでラスト2Fで加速、という、底力を出し切るようなレースになっていない事はあるのかな、と感じます。

 続く三冠ラストは、ダート2500mのウルグアイダービーですが、しかしほぼ二カ月で3走、しかも距離が1600m⇒2000m⇒2500mとかなり幅広い設定というのは、中々にシビアなレーススケジュールだなと感じます。
 まあそれでもアメリカ三冠よりはマシですし、実際にそれなりにウルグアイ三冠馬というのは沢山いるようなので、それだけ馬の全体のレベル差は大きい、多少の適性差は能力で覆せる、という面は否めないのでしょう。

 このレースも、レースラップ的にはテンはそこそこ流れて中緩みからの後半勝負なのですが、実質2番手追走のインヴァソールの位置なら序盤からスローだと思いますし、残り800mあたりからじわっと捕まえに行っているので、後続はスローロンスパではないか、と思います。
 その中で早め先頭に立ち、最後までラップを落とさずにどこまでも伸びていく、という感じで突き抜けていて、個人的にはこのレースにこの馬の真骨頂が一番強く出ているように感じますね。
 超ハイペースの2000ギニーでも捻じ伏せてきたように、潜在的な追走力やポジショニング性能も素晴らしく高いのですが、一方でベストはこういうスローロンスパで持久力を活かす形であり、本質的にはステイヤー型の馬であった、というイメージは持っていて、それはこの後のレース内容からも裏付けていける仮説ではないかな、と考えています。

 このレースの後、インヴァソールはドバイのシェイク・ハムダン殿下からトレードの申し入れがあり、所属をアメリカに移して戦っていく事になります。


★UAEダービー~ホイットニーH <はじめての挫折を糧に>

 アメリカに移籍しての初戦は、馬主的な関係もあったでしょうが、ドバイのUAEダービーになりました。
 この年のUAEダービーは、今現在でもこのレース史上文句なしに最高のメンバーが揃っていた、と言われますし、勿論その一翼をインヴァソールが担っているのですが、ここでの圧倒的な主役は、ゴドルフィンの期待馬・ディスクリートキャットでした。

 ちょっとレース映像が荒くて見にくいのですけど、勝ったディスクリートキャットは道中先団の外目につけて、コーナーから早めに進出、直線入り口で先頭に立つと後は突き放す一方、という圧倒的なパフォーマンスを披露しています。
 一方のインヴァソールは、道中中団の内目と、流石に相手のレベルが上がって今までの様な楽なポジショニングは出来ず、また勝負所で進出していこうとするものの、コーナーで少しもたつくところがあり、また風船に隠れて見えにくいのですけど、そのあたりで外から被せられて前がふさがる不利も受けていたようです。

 基本的に出し切りたいタイプだけに、加速していく過程での不利は結構致命傷だったでしょうが、それでも長い直線を諦めずにじわじわとのびてきて、最後は日本のフラムドパシオンにクビ差まで迫る4着でゴールしました。
 おそらくスムーズなら2着はあったレースだと思いますが、それでも流石にここでは勝ち馬に肉薄する絵図は描けず、文字通り井の中の蛙大海を知らず、を思い知ったレースではあったでしょう。
 ただ南半球産の馬は59kgと酷量を背負わされるレースでもあり、上位3頭がみんな55kgだった事を思えば、負けて強しのイメージも持てる内容ではありました。

 そして、敗戦を糧にして一段と強くなれるのが歴史的名馬の証ではあります。
 引き合いに出すのは気が引けますが、ここで3着と健闘したフラムドパシオンは、日本に戻ってからの成績は鳴かず飛ばず、むしろ真の強者の存在を知って委縮してしまったようなイメージではあり(勿論様々な要因があったのは承知していますが)、同じ本場への挑戦者という立場からの明暗は、日本人としてはもどかしい部分でもありますね。

 ほろ苦いドバイ遠征を経て、アメリカに戻ったインヴァソールの復帰戦は、5月のピムリコスペシャルHでした。
 このレースは多分今ではGⅠじゃないか、あるいは廃止されてしまったような気はするのですが、スケジュール的に言うとプリークネスSの一日前の開催で、古馬限定のダート1900mのハンデ戦です。
 何と言うか、このレースとの比較でプリークネスSのレベル、古馬との力差が測れる位置づけ、みたいなレースではあり、この年は特にそれが色濃く出ていたわけですが、ともあれインヴァソールは52,5kgと軽ハンデでの出走、しかしそれでも5頭立ての4番人気と、やはりウルグアイからの移籍馬、という部分で甘く見られていたのは間違いないと思います。

 レースはアメリカらしくハイペースで進み、800mが47,4、1200mが1,10,8の通過でゴールが1,54,40ですから、極端ではないにせよ前傾消耗戦なのは間違いないでしょう。
 ここではインヴァソールは、軽いハンデもあってかウルグアイ時代の先行力を取り戻して番手追走、しかし全馬がスパートをかけていく3~4コーナーでかなりもたつき、一時は4番手まで下がってしまって万事休すか、やはり力が足りないのか?と思わせました。
 しかししかし、そこから直線内に切れ込むと、馬の間を割ってぐいぐいと伸び、最後は2着馬に1馬身以上の差をつけて、見事本場アメリカで初出走GⅠ制覇を達成してみせたのです。

 ピムリコはアメリカの競馬場の中ではトリッキーで小回り設定ではあるので、その分余計にコーナー加速の微妙さが出た一戦かな、と思っていて、けれど最後の減速地点で、その度合いを押し留めぐいぐい伸びてくるあたりは、本質的なスタミナの高さを裏付けるレースだったと思います。
 勿論ここは相手関係は楽で、ハンデも軽かったのは間違いないですけど、それでもこのコースでの1,54,40はかなりの好時計のはずで、映像を見ても英語がわからない私でも、解説者のトーンが、中々凄いレースを見た!って感じなのは伝わってきますね。

 ただし、ピムリコはこの翌日、更なる戦慄と悲嘆、そしてニュースター誕生の熱狂に包まれる事になります。
 この年のプリークネスSで断然人気に推されたのは、無敗でケンタッキーダービーを圧勝したバーバロでしたが、この馬はスタート直後に故障を発生して競争中止、その後テンポイントのように必死の延命措置が取られますが、その甲斐及ばず夭折してしまったのです。

 バーバロの脱落で悲鳴が飛び交う中でのレースになりましたが、それを熱狂に塗り替えたのがバーナーディニの凄まじい走りで、好位の外目を追走した同馬は4コーナーでスパート、一気に先頭に立つと、後続をどんどん突き放しての圧勝を飾ってみせました。
 その時計は1,54,65と、プリークネスSとしては非常に水準の高いもので、57kgを背負い、ラップ推移的にも互角の中で、前日のピムリコスペシャルと互角の時計を出してきたのは、3歳馬としては破格のレースぶりだったのは間違いないでしょう。
 それと比較してしまうと、インヴァソールの走りも優れていたものの、斤量差など加味すれば見劣りしてしまうのは致し方なく、唯一の直接対決になるBCクラシック前のニアミスは、ラップ派としては非常に興味深い内容ではありますね。

 しかしその世紀の対決はまだ先、インヴァソールの次走は初夏のベルモント開催・ダート2000mのサバーバンHとなります。
 このレースも今ではGⅡに降格してしまっており、それだけアメリカの古馬路線もスピード化が色濃く出ていると言えますが、ともあれここでは前走の勝ちっぷりを評価され、53,5kgの斤量も有利に映ったか、一番人気に支持されての出走となります。

 またこのレースから、その後一貫してこの馬の主戦となるハラJが騎乗する事になりました。
 この時のハラJは若干18歳の新鋭で、パナマから移籍してきたジョッキーであり、バーナーディニが出走しなかった三冠最終戦のベルモントSをジャジルで制し初GⅠ制覇、一躍脚光を浴びていました。
 余談ですが、ジャジルの妹がラグズトゥリッチズで、この馬が翌年牝馬ながらベルモントSでカーリンを下して兄妹制覇を達成、その血統的背景もあって、日本でデビューしたこの2頭の半弟になるカジノドライヴも、ベルモントS3兄妹制覇を目指して渡米した、なんて背景もありますね。

 ここでは道中3番手の外目から、前走と打って変わってコーナーでスムーズに進出、直線入り口で先頭に立つと、そのまま後続を寄せ付けず圧勝劇を演じて見せました。
 ラップは細かくは分からないですけど、800mが47,6でゴールが2,01,23ですから、ハイペース寄りだったのは間違いないでしょう。
 このレースでは明らかに前走以上のパフォーマンスを見せていて、その要因は、距離とコースに依るだろうと推測できます。
 ベルモントパークはアメリカでも屈指に拾い競馬場ですし、ワンターンの2000mでハイペースとなれば、脚を出し切りやすく、スタミナに長けたこの馬に取ってベストに近い条件だったはずで、外目からスムーズに動く形を作れたのも含めて素晴らしい競馬でしたし、ハラJの若さ溢れる大胆不敵な騎乗もマッチしていた、と言えそうですね。

 勢いに乗ったインヴァソールの次走は、サラトガでのダート1800m戦・ホイットニーHになりました。
 このレースは、過去2戦の内用が評価されて、54,5kgと見た目は軽いですがトップハンデを課されていたのもあり、人気は2番人気に甘んじています。

 ここで1番人気になっていたのは、前年にサラトガでジムダンディS・トラヴァーズSを連勝し、BCクラシックでも2着に食い込んだフラワーアレイで、この馬も休み明け初戦を快勝してここに臨んでおり、コース適性と距離適性を踏まえての人気だったのかな、と思います。
 ちなみにこのフラワーアレイの半弟になるのがトーセンラーとスピルバーグ、またこの馬は種牡馬として、いま日本で繋養されているアイルハヴアナザーや、ラッキーライラックの母であるライラックスアンドレースを輩出しており、日本とも馴染みの深い血統の馬と言えますね。
 その他にも、後々好敵手として台頭してくるプレミアムタップなども出走していて、中々の豪華メンバーでした。

 レースでは、ややスタートで後手を踏み、道中は4~5番手のインから追走したインヴァソールが、コーナーで外目に持ち出し強気に仕掛けていって直線も早めに先頭、しかしそこに後ろから伏兵のサンキングが飛んできて、2頭の一騎打ちになります。
 インヴァソールにとってははじめて後ろから迫られるというレースになりましたが、しかしそこで怯まず、最後までしぶとく脚を維持して、ハナ差凌いでみせる、という勝負強さを発揮してのGⅠ三連勝となりました。

 ラップは映像内にチラッとだけ掲示板が映るのですが、400mまでが23,0、800m通過が47,2で、ゴールタイムが1,49,06なのでやはりハイペースは間違いないでしょう。
 その中で早めに動いていったものの最後肉薄された、というのをどう見るかで、サンキング自体もステークスウィナーではないのが難しいところですが、ただ少なくともインヴァソールにとって、1800mという距離が高いレベルでは短かった、というのは確かだろうと思っています。
 時計自体はともかく、小回りで少し出負けもして、自身急かされつつの追走になっていると思いますし、そういう形で少し後半の爆発力としぶとさが削がれた面はあるのかな、というイメージで、それでも負けないあたりが凄味だと判断します。

 これまでのアメリカ2戦は相手関係やハンデも楽だったところはありますが、ここは一線級とトップハンデで対峙しての勝利だったのもありますし、この薄氷の勝ち方がまたこの馬を一段強くした、という面もあるでしょう。
 ちなみにこの夏のサラトガ開催で、潜在的な最大のライバルであるバーナーディニは、ジムダンディSとトラヴァーズSをどちらも大楽勝で通過しており、単純な比較はしにくいにしても、この辺りも互いを意識するには充分な条件が整っていたと思えます。

 そして、本来この2頭は、BCクラシックより前、ジョッキークラブ金杯で対決する予定でした。
 しかしインヴァソールの方に軽い頓挫があり、結局その前哨戦を回避、ジョッキークラブ金杯で初の古馬との対戦もなんのその、引き続き大楽勝を続けて順風満帆のバーナーディニとは対照的に、ぶっつけでBCクラシックに挑戦する事になります。


★BCクラシック~ドバイワールドカップ <下剋上の極北、最強の証明>

 チャーチルダウンズで開催されたこの年のBCクラシックは、非常に多彩で能力に優れた、超豪華メンバーが出揃っていました。
 1番人気は圧勝に次ぐ圧勝でここに臨むバーナーディニ、2番人気は、前年ジャパンカップダートに参戦して惨敗したものの、年明けからGⅠ4つを含む破竹の7連勝でここに挑むセン馬のラヴァマンで、インヴァソールもその勢いは買われていたものの、直前のステップレースを回避した影響が懸念されて3番人気という評価になります。
 続く4番人気が、欧州のオブライエン厩舎の刺客、3歳マイル王のジョージワシントンで、5番人気が欧州10F路線の強豪デビットジュニア、直前にウッドワードSを制したプレミアムタップですら10番人気に甘んじるレースだったのです。

 レースはラヴァマンとプレミアムタップが先行、バーナーディニは5番手の外目につけて、インヴァソールは外枠からやや出負けもあり、道中は中団外目で、ずっとバーナーディニをマークする形でレースを進めていきます。
 3コーナーからバーナーディニが馬群の外目を仕掛けて上がっていき、直線入り口で先頭に並びかけると大歓声となりますが、その後ろを虎視眈々と追走していたインヴァソールは、残り200mでバーナーディニに並びかけ、ラストは余裕をもって1馬身の差をつけて完勝、最強馬決定戦に相応しいメンバーの中で素晴らしい勝ちっぷりを披露し、現役最強に登り詰めました。

 ラップ的には23,13-23,47-24,51-25,48-25,59=2,02,18と、チャーチルダウンズらしく全体時計は掛かっていて、その中で超ハイペースからの消耗戦、という、アメリカ競馬の真骨頂という展開でしたね。
 この流れで、ラスト400mをそこまで落としていない、というのが上位2頭+3着プレミアムタップの強さと思えますが、どちらかと言えばバーナーディニはエーピーインディ×ファピアノ系ミスプロと、いかにもアメリカンなスピード血統で、より時計の出るレースの方がプラスだった事を思えば、それに対してスタミナ型のインヴァソールが勝ち切れたのは展開と馬場の恩恵も間違いなくあったでしょう。

 この条件では完勝だったとはいえ、個人的にこの2頭は互角の能力、おそらく1800mならバーナーディニ、2000mならインヴァソール、という力関係だったのではないでしょうか。
 つくづくバーナーディニが3歳で引退してしまったのは惜しまれますが、こういう2頭の性質の差は、ある意味種牡馬成績にも表れているように思えますね。もっともバーナーディニも種牡馬として大活躍した、とはとても言えないのがなんともですけれど。

 閑話休題、どうあれ最大のライバルを捻じ伏せて最強馬の座に就いたインヴァソールには、しかしもう一頭だけリベンジしなくてはいけない相手が残っていました。
 それを踏まえての年明け初戦は伝統のドンHを選択、そしてこのレースだけ映像がどうしても見つけられないので、リザルトなどの通過順からの推測にはなるのですが、内枠から序盤はハイペースの中後方待機、直線はインの狭いところから抜け出しての勝利だったようです。
 相手関係もかなり軽く、ラップ的にもそこまで目立つ感じではなく、やはり1800mで、しかも出し切る形にならなかった中では勝ち切った事が唯一の価値、という感じで、あくまでもここは叩き台、前哨戦の位置づけでいいのだろうと思います。

 そしてインヴァソールは、一年ぶりにドバイの砂を踏む事になります。
 ウルグアイからの移籍初戦で、未知の伏兵、という扱いでしかなかった前年から一転、今年は押しも押されぬアメリカ最強馬として、ドバイワールドカップに参戦するのですが、この舞台にはもう一頭の主役候補がいました。
 それがディスクリートキャットで、インヴァソールが前年唯一の敗戦を喫した相手であり、ディスクリートキャット自身はあのレース以来やや順調さを欠くところはあったものの、それでもシガーマイルHなどを好時計で圧勝して未だに6戦無敗、改めてゴドルフィンのエースとしてドバイワールドカップに出走してきたのです。

 人気も完全にこの2頭が分け合い、大きく離れてプレミアムタップ、という形でしたが、しかしいざレースでは、出負けして後方で藻掻くディスクリートキャットを尻目に、淡々とハイラップで飛ばしたプレミアムタップと、それを番手追走したインヴァソールの一騎打ちになります。
 まあ正確なラップがないのでなんとも言えない所はあるのですが、直線も出し抜きを計るプレミアムタップにしぶとく食らいつき、ラスト150mで先頭に立ったインヴァソールがじわじわと差を広げての勝利となりました。
 この時計が1,59,97と、このレース史上2位の時計、2頭目の2分切りでもあり、ある程度時計の出る馬場でも2000mならやはり強い、無尽蔵のスタミナと勝負根性をまざまざと見せつけ、最下位に終わったディスクリートキャットにこれ以上ないリベンジを果たしたのです。

 その後も現役生活を続ける予定だったインヴァソールですが、アメリカでの復帰戦を前に故障を発症し、惜しまれつつ種牡馬入りすることとなりまた。


★その後・血統背景など

 アメリカで種牡馬入りしたインヴァソールですが、その産駒成績は控えめに言っても惨憺たるもので、今は故郷のウルグアイに戻って余生を過ごしているようです。種牡馬を続けているかはちょっと調べきれませんでした。
 これだけ強い馬がどうして種牡馬としては全くダメだったか、となると、やはりそこは血統と、この馬自身の適性面が挙げられると思います。

 まず適性的に言えば、上である程度一貫して見て取れるように、この馬は距離が伸びて、かつ時計の掛かるタフな馬場になるほどパフォーマンスを上げています。
 土台の絶対能力が抜けていて、潜在的な追走力も保持していたので、1800mでもトップレベルの走りは出来ていましたが、やはりベストパフォーマンスはBCクラシック、次いでドバイワールドカップにサバーバンH、ウルグアイ時代なら2500mのウルグアイダービーと言えるでしょう。
 どちらかと言えばステイヤー型の馬であり、それは種牡馬としてはスピード不足、という欠点として露呈してしまったのではないか、と推察できます。

 血統的にも、父系がブラッシンググルーム系のキャンディストライプスで、母系はアルゼンチン土着血統であり、全体的にスピード色が弱い、血統としても筋が通っていない異端ぶりは明らかです。
 母の父系の6代前にナシュアがいて、辛うじてネアルコの5×6×7を持っているのが本流的、と言えるくらいであり、またブラッシンググルーム系そのものも世界中でスピード不足から淘汰されかかっている面はあるので、その辺りでもアメリカ競馬とは噛み合わなかったのは蓋然性が強いです。

 因みにこのキャンディストライプスの母がバブルカンパニーで、バブルガムフェローの半兄という事になります。
 またキャンディストライプスからは、ルロワデザニモー⇒アニマルキングダムとほそーくサイアーラインが続いていますが、アニマルキングダムはアメリカとオーストラリアでほとんど結果を出せず、都落ちのように今年から日高で繋養される事になっています。
 バブルガムフェローも種牡馬としては失敗、と言っていいですし、この血脈が全体的に時代の潮流からは置かれてしまっているのは間違いないでしょう。

 ただ日本は、アメリカで超異端血統だったサンデーサイレンスを大成功させた、という面もあり、社台でなく日高、という時点で望みは弱いとはいえ、アニマルキングダムからこの血統が息を吹き返す可能性は僅かとはいえあるかもしれません。
 その意味で、インヴァソールも早い段階で日本で導入していたら?なんて想いもなくはないですね。これだけ圧倒的な潜在能力を持っていた馬が、それを子孫に上手く伝えられずに淘汰されてしまっているのは本当に残念です。
 ウルグアイという、決して競馬レベルが高いとは言えない土壌から彗星のように現れ、世界最高のダートホースにまで登り詰めたこの馬の偉業は歴史的であり、もっと語り継がれるべき馬だと思うのですけどね。せめてこの雑文が、その一助になれば幸いです。


posted by clover at 08:12| Comment(2) | 名馬列伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんわ☆
名前だけは聞いたことありましたが、まさかウルグアイ出身だったなんて(^^;
欧州米やアジア程度しか知りませんでしたので、南半球でも競馬開催してる国結構あるんですかね。
それにしてもシェイク○○殿下のアンテナの広さというか、すぐにトレード話になるのは最早定番なんですね~。
こんな時期に競馬を楽しめるのを感謝しつつ、普段触れないコアな情報を提供してくれるブログ主様に感謝しつつ、日本ダービーを楽しみに待ってます(笑)
Posted by のぶ at 2020年04月23日 21:29
>のぶ様

 いつもコメントありがとうございますー。

 私もそこまで詳しくないですが、少なくともチリやアルゼンチン、ブラジル、あと南アフリカでも競馬は盛んだと思います。
 丁度今、南アフリカ出身のヒューイットソンJが短期免許で来ていますし、モレイラJも元々はブラジルデビューだったはずです。
 馬の方はレベルもあって、このインヴァソールのように一線級の国で活躍、という話は滅多に効かないですけど、騎手の面ではこれからの時代、より交流は増えていく可能性はあるでしょうね。まあコロナが解決するまでは留保でしょうが。

 インヴァソールは本当に強くて好きな馬なので、多くの人にその走りを知って欲しかったですし、ようやく書けて良かったです。
 こういうご時世なので、少しでも皆様の気晴らしになるようなおもしろい記事がどんどん書ければいいのですけど、まあ無理せず自分のペースで頑張ります。
 ダービーも無観客発表になりましたが、本当に開催してくれるだけで感謝ですね。私もとても楽しみです。
Posted by clover at 2020年04月24日 16:26
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