2019年01月18日

延長と短縮のメカニズムを多角的に考える

★はじめに

 久々の上に唐突な能力分析ツール記事ですが、今回はある程度様々な予想ファクターの中でも重要視されている、距離短縮・延長の効能などについて、私なりの所見をざっくりまとめてみたいと思います。


★競走馬は記憶力しか武器には出来ない

 距離の延長短縮論として、ある程度大前提として有名なのは、「馬は走る距離を明確に理解することは出来ない」という点でしょう。
 馬自身はとても記憶力のいい動物と言われていますので、個体差はあれ、レースを繰り返していく内にレースと調教の違いを理解したり、スタート地点の景色から過去走った記憶を蘇らせる、なんて事はあるのでしょうが、流石に細かい単位で何m走るのか、という部分に関しては難しく、けれどその細かい差が、実際のレースでは意外と大きく響く事は多々あります。

 すごく基本的な考え方をすれば、長い距離を走るよりは、短い距離を走る方が楽です。
 なので原則的には、馬にとってレースでの距離延長は苦しく、逆に短縮は楽になる、と言えますが、これはあくまでも「同じスピードで走った場合」という留保がつきます。
 それこそ人間でも、例えば市民マラソンなどで周りのハイペースに序盤から巻き込まれて、自分のリズムを崩して本来の実力を発揮出来なかった、なんて事例はザラにありますし、ましてその日何m走るのかわからない競走馬にとっては、ペースの違いに適応できるタイプかどうか、という点はかなり重要になってきます。

 私のブログですと一応、その前半の速い流れについていっても後半の脚を削がれない能力を「追走力」と定義させてもらっていますが、その能力が高いか低いかによっては、たとえ距離が短くなっても、かえって走るのが辛い場合も出てくるわけですね。
 特に競走馬にとっては直近のレースの記憶が一番鮮明ですから、そのレースとの比較で距離が伸びているか短くなっているか、そして前半のペースが上がったか下がったか、そのギャップが大きければその分感覚的に辛く感じる、と言えるでしょう。


★短縮が「得意」な馬と、延長を「こなせる」馬

 ただ、個人的な感覚としては、短縮が得意、という馬はいても、延長に対して得意、という言葉を当てはめるのは少し違うのかなと考えています。
 延長をこなす馬、というのは大まかに2パターンあるかな、と思っていまして、あくまでも延長が得意なのではなく、追走が苦手なので、追走面で無理のないペースになる距離まで伸ばさないと充分に力を発揮出来ないのがまずひとつ。
 そしてもうひとつは、気性的に素直で騎手の指示に従順に動ける故に、馬自身の記憶通りにワンペースで走ったら辛い距離であっても、ペースの上げ下げなどで誤魔化せる操縦性の高さでこなしてくるパターンですね。
 前者はいわゆるステイヤーですし、後者は万能型・総合力型と考えていいと思います。

 逆に短縮が得意、というのは、ほぼイコールで、追走力が高い、という部分に帰結すると思っています。
 加えて短縮は、気性面のコントロールが効きにくい馬でも感覚的に楽に走れる、というメリットがあるので、追走の担保がある馬の短縮は殊更嵌りやすく、ただし一度使ってしまうとその後また距離を伸ばしていくのに苦労する、というデメリットもあります。

 ただ、過去記事にも書きましたが、追走力というのはかなり先天的な才能に依拠する能力で、勿論ある程度調教や実戦で鍛える事は出来る要素だとは思っていますが、日本の競馬自体は基本的にスローからの瞬発力勝負を良しとする潮流がここ四半世紀くらいは強い為に、意図的にそこを鍛える、武器にする、という考え方自体が薄い、とも感じます。
 それでも古馬戦であれば、ある程度のレース経験値などでその馬が短縮を得意とするか否かは見極めやすいですが、2~3歳戦ともなるとその辺りの先読みはかなり難しい要素になってきます。

 なので今日は、まず短縮が効きやすい条件とはどんなものかを、コースや馬場の面から考察した上で、2~3歳戦で先読みするための取っ掛かりをあれこれ考察してみようかなと思っています。
 無論個々の分野では、様々な先達の素晴らしい考察があって、私の生噛りの知識を鵜呑みにするよりはそちらを深く、となりますが、概論的な感じで捉えて頂ければと思います。


★コースデータから見る「短縮」「延長」が嵌りやすい条件

まず、ある程度比較がしやすく、追走面の限界が出やすい距離、という視点で、中央の芝1400mをサンプルに考えていきます。
 芝の1400mが施行されているのは、東京・阪神・京都・中京・新潟の5つのコースで、わかりやすく2018年1年分のレースを、まずペースの淀みが生じやすい&そもそも前走がない新馬戦を抜いて抽出し、テンと上がりのラップの平均値を算出した上で、勝ち馬のローテーションがどうだったか、を分別しました。
 私は基本的にデータ派ではないので、やろうと思えばもっと精密なデータはいくらでも作れるでしょうが、あくまでもテーマを考える上での最低限の参考資料と考えてください。

<東京> 施行レース数……50R  平均ラップバランス……35,2-34,5
     勝ち馬区分……延長7頭・同距離21頭・短縮22頭

<阪神> 施行レース数……28R  平均ラップバランス……34,5-35,5
     勝ち馬区分……延長6頭・同距離15頭・短縮7頭

<京都> 施行レース数……31R  平均ラップバランス……35,5-34,9
     勝ち馬区分……延長5頭・同距離16頭・短縮10頭

<中京> 施行レース数……26R  平均ラップバランス……34,6-35,4
     勝ち馬区分……延長4頭・同距離13頭・短縮9頭

<新潟> 施行レース数……17R  平均ラップバランス……34,4-35,4
     勝ち馬区分……延長8頭・同距離5頭・短縮4頭


 と、データとしてはこんな感じになりました。
 わかりやすい部分では、やはり純粋にテンのペースが上がりにくいコースの方が短縮が効きやすいです。
 それは勿論、前走の前半のペースよりも極端に速くなりにくい故に、短縮による楽>追走の苦という形になりやすいからだと考えられます。

 そして面白いのは、中京と阪神、新潟では、前傾度としてはそこまで大差はないのに、ローテーション分類では大きな偏りが出ています。
 やはりこれはシンプルにコースロケーションによるもので、直線が短く平坦な新潟はスピードで押し切りやすい、逆に直線が長く坂もある中京ですと、序盤のポジショニングでかなり置かれてしまっても、末脚勝負で届く可能性が高い、という事なのでしょう。

 その結果として、平均値でも後傾ラップで、かつ直線が長く坂のある府中1400mが短縮天国になっています。
 単純に同じマイルからの短縮でも、どこの1400mか、だけで、意外と大きく差が出るのは面白いですね。
 基本的な考え方としては、どの距離にもこれは敷衍できるはずで、短縮ローテに相性のいいコースの組み合わせと、逆に相性が悪い組み合わせは意識しておくと良さそうです。

 とりあえず関東圏の競馬で考えるなら、中山の1600mから東京の1400mはかなり有効な短縮と言えます。
 逆に東京のダート1400mから、中山のダート1200mなどは最悪に近い相性ですね。
 コースごとの平均ラップデータを簡単に抽出できる環境があるならば、このあたりは色々突き詰めていくと相当面白い考察が出来るはずです。

 あと、プラスアルファとして、馬場の重さ軽さもある程度そこに影響を及ぼしますね。
 重馬場、とかになるとまた適性とかも絡んでくるので一筋縄ではないでしょうが、例えば今の京都みたいに良馬場でもすごく時計が掛かる、という条件ですと、面白いように短縮ばかり走ります。
 コース条件の相性に加え、馬場状態の足し引きまでしっかり出来れば、短縮の取捨はかなり精度が上がってくるのではないでしょうか。

 ただし、短縮が噛み合う条件だから、その逆の延長が噛み合うか、となると、必ずしもそうでもないのは注意が必要です。
 むしろ前述した中山ダート1200mから東京ダート1400mへの延長は、追走面で相当に楽になるので、距離延長のマイナスを補って余りある場合も多いですし、また高速馬場になればなるほど延長ローテが嵌りやすい傾向にあるのも覚えておいて損はないでしょう。


★2~3歳戦の先読み要素を考える

 若駒のレースの難しさは、実際のレース経験が少なく、見せている適性の幅が馬によってかなりマチマチになる事と、あとレースによってはそもそも短縮ローテを踏めないようなレースもそれなり以上にある、という部分にあるでしょう。
 特に2歳戦で短縮ローテが有利になりやすいのは、ハイペース経験が少なくて追走面で無理が生じるパターンよりも、シンプルに距離延長で
苦しくなるパターンの方が強く出る、からだと思います。

 マイルや2000mの根幹距離ではその比重がより高く、実際にその距離を経験している馬、特に前走同距離の馬がかなり有利になってくるので、そのあたりは意識した方がいいでしょう。
 また、新馬の時はまだレースがいかなるものかわかっていなくて普通に折り合えた馬が、2戦目で急に引っ掛かるなんてこともザラにありますし、気性面のコントロール含めて距離延長をこなすのは難しい、とは言えます。

 個人的に、明日の若駒Sなどはえらい難しいなと感じますしね。
 そもそも短縮を踏めないこの時期の2000m戦で、しかも淀があの重い馬場となれば、距離以上にタフさを感じるレースになるわけです。
 当然2000mからのローテになるサトノウィザードやブラヴァスに一日の長はあれど、ここまでタフで上がりの掛かる馬場ですとまた違ってきますし、ヴェロックスなどはシンプルに延長ローテですから、どこまでこなせるかも含めて注目しつつ、伏兵が台頭してきても驚けない条件だなとは見ています。


★調教から見る向き不向き

 最初の方でもちょっと触れましたけど、基本的に日本の調教は、あくまでも序盤はゆったり折り合い重視で入って、ラスト1Fだけさっと伸ばすようなパターンが主流です。
 これがアメリカなどですと、調教でもレース並みにテンからガンガン飛ばしてスピード負けしないように馬を作るのが主流ですし、オーストラリアや香港などは実戦形式のバリアトライアルがあり、そこである程度調教よりはタフな流れでの鍛錬を積む機会もあります。

 そういう視座から言うと、基本的に日本式の調教は、概ね距離を持たせるための、延長に適応するためのもの、と見ても大枠では間違いではないのかなと感じています。
 特にトラック中心の調教を積む場合は、心肺能力やしなやかな筋肉は鍛えられるものの、テンから飛ばしていくダッシュ力や追走力の面は中々育てられない、とは思います。
 ただその走りの中で、しっかり折り合って最後に加速度の高いラップを踏めているならば、その時点の調子の良さと操縦性の高さは信頼できますし、延長に適応してくる可能性も強い、と見る事は出来るでしょう。

 そして、トラックでは鍛えにくい部分を上手くフォローするのが坂路調教になると思います。
 最近はトラックと坂路の併用が主流ですし、外厩などでも立派な坂路を備えている所が多く、瞬発系の筋力などはそこで鍛えつつ、気性面で前向きになり過ぎないようにトラックを上手く使う、という感覚でしょうか。

 少なくとも坂路でテンからある程度飛ばしていく場合は、それなりに追走面も鍛えられると思います。
 全体時計で52秒を切ってくるくらいには走って、その上でラスト1Fを全体の平均ラップよりは速くまとめてくる脚力があれば、追走面で一定の担保はあるという見立ては出来るかなと個人的には考えています。
 ただ坂路主体でも、ラスト2F重点の馬は、追走面ではあまり信頼せず、ただ坂加速性能ではそれなりに、という見立てになりますし、このあたりは地道な縦の比較なども必要になってきますね。


★血統から見る向き不向き

 この辺は私が語るまでもなく、色々大家の人々が語ってくれているとは思いますが、私なりの視座で言うならば、結構追走面は遺伝する、という部分ですかね。
 今の種牡馬リーディングを見ても、やはりある程度現役の頃から追走面で強みがあった馬は2歳リーディングでしっかり結果を残してきますし、弱点的な部分もある程度大枠ではそのまま出てくるイメージです。
 なので、特に内国産の種牡馬に関しては、改めて現役時代の内容を精査してみるのは価値があると思いますね。

 例えばハーツやハービンジャーなどは、相対的な追走力は持っていて、長い距離ならハイペースでも対応出来るけれど、ある程度距離が短縮して、絶対的な追走スピードを問われると厳しい馬ではありました。
 産駒もそれを受け継いでいて、去年の安田記念なんかわかりやすかったですけれど、相対的には高い追走力があるペルシアンナイトやリスグラシューでも、あそこまで絶対的に上がり切ってしまうと苦しい、となります。
 2歳戦でも2000mあたりなら、一昨年のホープフルSみたいにかなり流れてくれれば、相対的な追走力が活きてくる場合もあるので、例え不利な延長でもそういう部分で決め打ちできるのは強みです。

 また前傾後傾の得意不得意さ、気性面もそれなりに遺伝するので、後傾が得意な馬の産駒は概ね後傾・延長向きみたいなパターンは多いですね。
 ロードカナロアなんかはその典型で、本質的にはマイル前後がベストでも、気性面と後傾ラップへの適性度の高さで距離もしっかりこなしてくるわけで、シンプルに父親からだけ見てもある程度傾向は掴みやすいとは言えます。
 現役時代を知らない外国の馬でも、基本的にアメリカ血統なら追走面が武器に、欧州血統ならタフさと操縦性が武器に、とざっくり程度には考えられますし、このローテーションがこの馬にとって噛み合うものなのか、という先読みの観点では、突き詰めれば一番良い武器になるのが血統なのでしょうね。

 勿論こんなふわっとした話ではなく、産駒の平均成績などからデータとして精密に抽出できる部分はいくらでもあるでしょうし、このあたりも深く掘り下げればいくらでも、という話なので、その気があれば自分なりの軸を作っていく事も出来るでしょう。
 あくまでも私の視座ですとこのあたりは下支えの要素なので、普段はこのくらいの感覚で意識している、というラインが伝わればいいかな、と思います。


★終わりに

 書いてみて、やはり微妙に取り留めのない話になってしまったのですが、多少なり短縮延長の面白さ・奥深さが伝わればいいなと思います。
 上のデータでも、大半のコースは同距離から継続しての馬が一番勝ち星を挙げていて、勿論それがレース出走全馬のシェア率との比較でどうか、というところまで突き詰めないと確実性はないのですが、やはりシンプルに前走と同じ距離・同じようなリズムで、というのが、馬にとって現状の力を発揮しやすい条件なのは間違いありません。
 延長や短縮は、その安定性にショックを与えるカンフル剤的な要素がありますし、その揺らぎを上手く捉えて、しっかりパフォーマンスを上げてくるタイミングや条件を見極められるようになりたいものですね。 


posted by clover at 20:28| Comment(2) | 能力分析ツール | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
競馬を見る時にみんな距離適性を重視して見るわけですが、強引ですけど人間に
例えればスプリンターズSもステイヤーズSも中距離走ですから、単純なスタミナ量
というよりも、距離適性≒ペース適性ということで考えた方がしっくりくるんです
よね。いわゆる追走力が日本の競馬では基本的には活きないですし、あまり活かそうと
する発想も無いわけですが、短縮ローテが効きやすいというのはいままで蔑ろにされて
いた追走力の才能が発掘される部分はあるのかもしれませんね。
Posted by I.C.スタッド at 2019年01月19日 09:17
>I.C.スタッド様

 いつもコメントありがとうございますー。

 実際にこのブログを始めた頃からでも、何頭もこの馬は、もっと前半で勝負すれば強いのに、と口にしてきたか、という話ではあるんですよね。
 でも最近は、特に関西の競馬は全体的に積極性が強くなってきて、そのあたりもより意識的に武器として捉える時代が来るかも、という期待は持てます。
 個人的にも、ハイペースを沢山走るとその分ペースに慣れてくる、という部分は確実にあると思うので、オーバーペースを怖がり過ぎない意識はあってもいいな、と感じます。

 とりあえず明日のジェネラーレウーノとダンビュライトがどういう競馬をするか、田辺Jや北村友Jあたりがしっかり持ち味を引き出すタフ寄りの競馬を意識的に作れるようになってくれば、ここまで外国人ジョッキーにやられっぱなし、という事もないはずなので頑張って欲しいところです。
Posted by clover at 2019年01月19日 16:09
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