2017年07月26日

2017 7月第5週海外GⅠなど レース回顧 

 今週は週中にもポツポツ大きなレース(サセックスSとか)がありますので、その辺はまた金曜日くらいに取り上げるとして、一先ず土日での主要なレース回顧を上げていきます。

**★キングジョージ六世&クイーンエリザベスS [レース映像](https://www.youtube.com/watch?v=ycES4TiXzRw)**

 イギリスの2400m路線における古馬最高峰の格を誇るキングジョージは、唯一の3歳牝馬にして英愛オークスを圧勝してきたイネーブルが、一番人気に応えて好位から危なげなく抜け出し、斤量差も活かして歴戦の古馬をも楽々突き放して圧勝しました。

 当日の馬場はかなりの雨量でほぼ重馬場、という感じだったようで、レースもペースメーカー以外は道中からやや外目の芝のいい部分を通っている様子がうかがえました。
 展開は、ペースメーカーのすぐ後ろに、いつもスタートはすごくいいイネーブルがスッとつけ、内枠からだったハイランドリールは一旦少し下げて、イネーブルの外に出してからじわじわとポジションを上げるプランを選びました。
 イネーブルのすぐ後ろに僚馬で人気の一角、ジャックホブスがつけて、中団よりやや前にエクリプスSを勝ったユリシスがいましたね。

 全体のペースはわからないですが、勝ち時計2,36,22は過去20年でももっとも遅い時計であり、表記以上に馬場が悪く、巧拙を強く問われたレースになっていたのではないか、と感じます。
 
 勝ったイネーブルはそれは強い競馬でしたが、英・愛オークスに続いてここでも道悪の状況となり、かなり時計がかかったのは確実にプラスだったとは思います。
 とにかくパワーがありバテない、というタイプで、直線でも一気に抜け出す、というよりはじわじわ最後まで差をつけ続けた、という感じで、これがより切れ味を問われたり、レース全体がスピード決着になった時の不安はあります。

 ただ3年前のタグルーダに比べても、愛オークスから中1週でここを使っての圧勝、というのは競走馬としての圧倒的なスケール感、タフさを感じさせますし、当然斤量面の優位も続く上、ポジショニングがとても上手な馬ですので、凱旋門賞でも期待される1頭になるのは間違いありません。
 去年のようにハイペースからの消耗戦になった時に、スピード不足が露呈しなければ強そうなイメージも持てますし、この後はヨークシャーオークスから凱旋門賞と確実に2400mに拘ったローテになりそうですが、本番まで勝ち続けていって欲しいですね。

 2着のユリシスも、ここにきて一気に充実期と見るべきか、初GⅠ制覇となったエクリプスSに続いて、2400mのここでもしっかり結果を出してきましたね。
 着差を見れば完敗なのは確かですが、他の有力馬は楽に振り切りましたし、この馬自身は前走も含め、前半ゆったり入れる方が噛み合いそうですので、2400m路線の方が今なら面白いのかもしれません。
 前走の切れ味を見ても、良馬場の方がパフォーマンスは高くなると思いますので、益々今後が楽しみになるとともに、凱旋門賞でも勝つチャンスのある一角に入ってきたのではないか、と感じるレースぶりでした。

 ハイランドリールはこういう馬場は完全に苦手ですので度外視でいいと思います。
 ジャックホブスはドバイ勝った時のイメージからですと、そんなに道悪は苦にしない気がしていたのですが、この日は最初から走りのバランスが悪かったですね。どうも馬の調子自体が完全に崩れてしまっているようで、同厩のイネーブルと直線入り口では並んでいたのに、くっきり明暗が分かれる形になってしまいましたし、ちょっとすぐに本領発揮、というイメージを持ちにくい負け方でしたね。

**★ハスケル招待S [レース映像](https://www.youtube.com/watch?v=Q0nQSFjV0tk)**

 真夏のダービー、トラヴァースSの前哨戦になるGⅠ、ハスケル招待Sは、ややハイ気味の流れの中、後方待機のガーヴィンが先に抜け出したマックラーケンをしぶとく差し切って、嬉しい初GⅠ制覇を成し遂げました。

 人気は4戦無敗のタイムライン、ベルモントS2着のアイリッシュウォークライ、堅実なプラクティカルジョークと続いていましたが、レースは人気2頭が先行、特にタイムラインがやや引っかかり気味に前を主張した事で、道中のペースが速くなります。
 ラップが23,93-23,41-23,91-24,40-12,70=1,48,35という推移は、アメリカ競馬としては最序盤は速くないですが、400-800地点が最速で、ここで前が少し離し、後続はラップが落ち始めた残り4F地点くらいから押し上げる競馬をしていて、力関係が拮抗しているメンバー構成で、少し前が無理をする中で、道中の立ち回りの差が出た格好ですね。

 ガーヴィンは元々ダービートライアル路線でベルモントS勝ち馬のパッチを破っていたりと、素材面では評価されていた馬でしたが、ケンタッキーダービーの惨敗から一度立て直して、しっかり結果を出してきましたね。
 展開としては噛み合ったとは思いますし、次は1F延長が鍵になりそうですが、クラシック上位馬が悉く当てにならない状況の中で、次も楽しみな一頭です。
 マックラーケンもダービー後別路線でしっかり結果を出して、ここでも早めに抜け出す強い競馬を見せましたが、もう一押し足りませんでしたね。
 プラクティカルジョークは道中内々から外に出すのにロスがあったものの、そこからはしぶとく伸び、改めて堅実さを見せてきましたが、やっぱりここで勝ち切れないのがキャラ、という感じでしょうか。

 アイリッシュウォークライはやっぱり前半リズム良くいけないと厳しいのかなぁと。タイムラインにリズムを崩されたところもあるでしょうし、早めに抜け出して勝ちに行ったもののラストは明確に甘くなっていて、この馬の場合は距離延長はプラスに感じるので巻き返しはあるかもですが、どうあれ枠と逃げ馬同士での相性がポイントですかね。

**★クレメント・L・ハーシュS [レース映像](https://www.youtube.com/watch?v=0-KgpF1L0ws)**

 ビホルダーマイルに続き、ステラウインドとヴェールドリの一騎打ちになりました。
 ステラウインドは去年のこのレースで、ハイペースで逃げるビホルダーを撃破する大金星を挙げて一線級に台頭してきましたが、今年は牝馬のチャンピオンとして迎え撃つレース、その中でややスロー気味にコントロールされた分、斤量差も含めて苦戦したのかな、というイメージです。

 今年は僅差勝ちのレースが多いですが、おそらくこの馬は明確に前傾型で、ペースが上がるほど強いと思うので、むしろこのくらいのイーブンペースにコントロールされても捻じ伏せる強さを見せているのは大したものだと思います。
 一応まだ今年無敗ですし、ソングバードやアベルタスマンと対決するまでは負けて欲しくないですね。

 ヴェールドリもやはりすごくいい馬だなぁとは思いますが、この馬はペースをコントロールしたいタイプと思えるので、多頭数になって先行争いが激化した時にどうなるか、はポイントでしょうね。

**★ジムダンディS [レース映像](https://www.youtube.com/watch?v=obX_N6pphUo)**

 こちらはGⅡですが、トラヴァースSの前哨戦でもあり、ケンタッキーダービー馬のオールウェイズドリーミングと、プリークネスS馬のクラウドコンピューティングが出てきたので取り上げておきます。
 レースは序盤から人気二頭が先頭二番手で淀みない流れを作っていきますが、極端に速いというほどではありませんでした。
 しかし3コーナーあたりから2強の手応えはやや怪しく、コーナーで後続の伏兵たちも取り付いて直線は一時横一線の激戦になったものの、最後は大外から伏兵グットサマリタンが楽々突き抜け快勝しました。

 この馬はどうやらこのレースがはじめてのダート戦だったようで、前半は画面から消えてしまうくらい離されていたものの、エンジンがかかってからの脚と最後の持久力は中々のものがありましたね。これは距離延長しても楽しみが大きそうです。
 それにひきかえ、2強のだらしないレースぶりはなんとも言えませんね。
 特にオールウェイズドリーミングは、このペースで潰れるくらいならケンタッキーダービーやフロリダダービーはなんだったんだ、というくらいですし、なんとか立て直して本来の輝きを取り戻して欲しいものです。
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2017 クイーンS・アイビスサマーダッシュ レース回顧

**★クイーンS**

 夏の北都牝馬チャンピオン決戦は、好スタートからまさかの大逃げを敢行したアエロリットが、そのまま後続を全く寄せ付けずにタイレコードで完勝しました。レースを振り返っていきましょう。

 馬場は7Rの500万下が36,0-35,8-35,5=1,47,3という推移で、平均ペースで好時計が出ており、昨日に引き続き絶好のコンディションだったと見ていいと思います。
 その中での展開ですが、内からアエロリットとシャルールが好スタートを切り、クロコスミアとヤマカツグレースもまずまずでしたが、二頭ともに無理に逃げる形には拘らず、もう一頭の逃げ候補のノットフォーマルはやや立ち遅れてしまいました。
 シャルールがかなり積極的にポジションを取りに行くのに対し、内のアエロリットもそれで包まれるよりは、と枠の差を利してしっかり抵抗し、それでもコーナーまでフラットに入っていきつつ、そのままペースを落とさずにマイペースの逃げに持ち込みます。

 2番手にシャルール、ポケットにはヤマカツが潜り込みその外にクロコスミアがいて、トーセンビクトリー、パールコードあたりが内外離れて中団のやや前目、という感じで入っていきます。
 やや立ち遅れたクインズミラーグロはトーセンの後ろ、やっぱりスタートダッシュで負けて挟まれる格好になったマキシマムドパリは後方で、アドマイヤリードもその外、後方二番手あたりの追走になりました。

 ラップは35,2(11,73)-35,0(11,67)-35,5(11,83)=1,45,7(11,61)という推移でした。
 バランス的にはややハイ気味の平均で、中盤もほぼ緩むことなく、絶対的なスピードの違いで押し切ったレースにはなっていて、ただ細かく見ると色々と凄みがあるのでその辺は後述します。
 実際のところ、逃げたアエロリットと後続は全く違う競馬をしており、後ろの馬は1000m通過が推定59,7~8で、そこから長いコーナーを使って押し上げ、後半4F46秒ちょっと、という内容です。
 ラスト4Fが11,9-12,1-11,5-11,9で、800-400m地点のコーナー部分で後続はかなり差を詰めてきていますので、おそらく11,5前後を3F続けて、ラストは少し落ち込むスローロンスパ持続戦ぎみの展開ではないか、と思っていて、その場合当然ながら外々を回せばそれだけロスが大きいので、インを上手く立ち回ったトーセン・クインズが2、3着、というのは比較的納得の結果ではありますね。

 ただ本当に勝ったアエロリットは後続の思惑など全く関係ない、自分との戦いで楽に勝ち切ってくれましたね。
 基本的に追走力が高く、ハイペースからでも足を使える馬ですので、こういう大逃げの形になった時点で勝ったな、と結構安心して見ていたんですけど、それでも休み明け+18kgでありながら、期待以上に強い競馬を見せてくれました。

 レースラップ通りに道中1000mまでは特に息を入れず気分良く走れるペースで飛ばし、後続とのリードをしっかり作ってから2F息を入れ、そこからまた11,5-11,9と再加速し、ラストも11秒台でまとめてくるパフォーマンスは、いかに52kgとはいえ並の馬に出来る芸当ではありません。
 ちょっと大袈裟に言えばサイレンススズカ的な競馬をしていて、前半他の馬ではついていくと後半の脚を確実に削がれるペースを作りつつも、きちんと息さえ入れられればそこからもう一段加速できるのは、今後の距離延長を考えた時に非常に強みになってくるなと感じました。

 また今までは逃げる競馬はしてきませんでしたが、距離が伸びた時に周りのペースに合わせてしまうと、折り合いの不安や、前半の良さを生かせない、という可能性はありましたので、流れないなら自分で逃げてもいい、というオプションをここで付け足せたのは本当に今後に楽しみしかない、と感じさせる内容でした。
 この競馬でラスト1Fは後続を全く寄せ付けていませんし、本当に最後の持続力・踏ん張りの良さが顕著に見られる馬なので、2000mくらいまでならこういうスピードを十全に生かす強気の競馬を作っていければまず崩れることはないかなと感じます。これは本当に秋華賞が楽しみになる競馬でしたし、その後マイル路線に戻すにせよ、2000m路線を継続するにせよ、古馬一線級とでも充分に渡り合えるイメージを持てる強さでした。

 2着のトーセンビクトリーは、今回に限って言うと馬群全体がついていかずに実質スローで入れたことと、コーナーいっぱいを使っての持続戦で最内を楽に立ち回れる枠だったのが良かったですね。
 私の予想としては、もう少し馬群全体が早い流れに付き合うイメージでいましたので、追走面で危うさがあるこの馬に印を回せませんでしたが、序盤の展開もアエロリットとシャルールが出していってくれて、出足そのものは足りなくても前にスペースがある中で楽に3列目までリカバー出来ました。
 これが外主導だともう一列は後ろになっていたわけですから、その点でも恵まれたと思いますし、ちょっと展開面で読みがズレたなぁ、と反省です。

 馬自身は洋芝も合うでしょうし、持続戦そのものはべストとは思いませんが、あれだけ綺麗にインを立ち回って、スムーズに外に出せればそれは余力はあるでしょう。
 ややシャルールが下がっていく中で、外に持ち出すのが一瞬早過ぎて交錯しかかった危うさもありましたが、あそこで待ち過ぎるとクインズミラーグロに先に入られてインで詰まる可能性もありましたし、ギリギリではありますが勝負に拘った捌きではあった、と見做したいですかね。ただ騎乗停止事案になってますから、福永Jらしからぬ焦った進路取りではあったと思います。

 3着のクインズミラーグロも、解釈としてはほぼトーセンと同様なんですよね。
 単純に序盤のポジショニングの差で一列下がった分、勝負所での立ち回りも少し後手になりましたし、実質中山牝馬Sの時と同じ形でちょい負けと、その辺からするとこの2頭は展開を味方につけた上で実力は引き出しきれている、と見ていいのかなと思います。
 やっぱりこの馬の場合どうしても後半要素ではちょっと足りないですし、といって序盤で前目を楽に取れるタイプでもないから苦労しますよね。それでもこれで5戦連続馬券圏内と、本当に堅実さには頭の下がるところです。

 4着クロコスミアに関しては、ちょっとバランス的に中途半端だったかな、という気はしましたね。
 序盤からある程度位置を志向しつつも、結果的に2列目の2頭分外目で我慢する形になりましたが、この馬自身アエロリットのハイペースについていったら厳しいにせよ、もう少しペースを上げて2番手、実質単騎という形まではもっていっても良かったんじゃないかなと思いました。
 結局この馬の後半の武器は加速力と一瞬の切れ味ですので、コーナーで延々2頭分外から押し上げさせられた分、どうしてもその一番の速い脚をそこで使い切ってしまう形になっていて、ラスト1Fは2~3着争いの中で見ても失速気味、持続力の足りなさを顕著に見せてしまっています。
 
 前走は自身が逃げて内目を立ち回った分、トップギアに入れ切らずにじわじわ、という形で良さを出せましたが、外から追い掛ける形ではどうしてもそういう脚の使い方は難しかったですし、バランスの取り方が難しい馬ではありますね。
 ただ噛み合えば牝馬重賞のひとつくらいは勝てる素材と思っているので、改めて自分の形に持ち込めそうな舞台では期待したいところです。

 6着アドマイヤリードはまぁ仕方ない、と言えば仕方ない負け方ですね。
 まず単純に、自身6F通過が1,12,0とぴったりハロン12秒ペースであり、この馬にとってはもう少しゆったり入りたかった、という部分はあるでしょう。VMでも自身前半5F60,5とかなりのんびりと入れましたし、後半要素を無理なく引き出せる幅がそんなに広くないのは間違いないと思います。

 かつ道中もずっと枠なりに外々で、コーナーで押し上げていくところでも4~5頭分外を通さざるを得ませんでした。
 この馬自身後半要素は全て高いレベルで保持はしていますが、突き詰めれば最大の武器は一瞬の切れで、持続力は超一級品ではないと思っていまして、その馬が実質11,5-11,5-11,5くらいの地点でずっと外々を押し上げるとなると、数字以上に速い脚をコーナーの入り口から求められてしまっており、その分ラストまで落とさず持続する、というだけの威力は引き出せなかったと考えます。

 やはりマイル2戦の好走はペースの緩さと馬場、その上にコースロスを最小限にした好騎乗が噛み合ってのもので、良馬場で流れてしまうと1800mでも総合スピード不足、と感じます。まだワンターンなら対応出来るでしょうが、1周コースではより厳しいかな、と。
 裏を返せば、今なら距離延長はマイナスにならない可能性は高く、スローからの切れ味勝負になりやすいエリ女は絶好の舞台だと思っていますので、しっかりそこを目標に作っていって欲しいなと思います。

 7着マキシマムドパリも文脈的には同じような負け方ですね。
 ただこの馬の場合、過去秋華賞でもかなり速いペースを前々から追走して粘り込む競馬を見せていたり、追走力自体は持っているので、こういう競馬でも位置さえ取れていればもっとやれたとは思っています。
 でも今日は絶対的に枠の並びが悪かったですし、前走のようにせめて外枠から早め早めにリカバー出来る形なら3着争いくらいまではこれたと思うんですけどね。兎にも角にも出足が良くないので、それでも前を取れる、という条件でのみ狙うべき馬だと考えます。

**★アイビスサマーダッシュ**

 新潟は心配された雨もなく、こちらも夏の強い日差しに照らされた綺麗なグリーンベルトの上での決戦となり、序盤からスピード自慢の激しい競り合いになる中で、最後はラインミーティアが無欲の一閃を決めて見事に初重賞制覇を飾りました。レースを振り返りましょう。

 こちらも馬場は超高速に近い条件で、直前の9Rの1400m戦でも34,9-11,5-35,0とほぼ平均ペースで1,20,4が出ていて、確実に54秒そこそこの凌ぎ合いになることは予想出来ましたし、実際に54,2は近年の平均タイムにピッタリ嵌る数字でしたね。
 展開は、フィドゥーシアが好スタートを決めてすぐに外埒の方に誘導、アクティブミノルとレジーナフォルテもまずまずダッシュが効いて先頭列に入っていきます。
 ネロはやはり斤量が厳しかったか、ダッシュ一息で外にも壁が出来てしまい半端な位置取り、内の馬も少しずつ外に寄せてくる中で、ラインミーティアはその争いに我関せず、とばかりに外枠を利して外埒沿いの後方をゆったり追走する形でした。

 ラップは21,8(10,9)-10,4-22,0(11,0)=54,2(10,84)という推移でした。
 というより5Fくらいなら全部乗せろ、という話で、11,8-10,0-10,4-10,3-11,7という流れ、これは細かく見ると残り400-200m地点で微差の加速は見せているものの、前後半のバランスとしてもやや前傾で、かつ緩みもないので、息がしっかり入る、というペースではなかったのかなと感じます。
 その分ラストは11,7とそこそこ消耗していて、漁夫の利を狙っていたラインミーティアの差しがズバリ嵌った感はありますが、それにしてもこの馬かぁ、というのは正直なところです。

 実際ラインミーティアは直線巧者なのは確かでも、これだけ1000m戦のキャリアがあって最速は54,5止まり、かつ前走は上がり31,6は素晴らしいとはいえ52kgで完敗でしたので、この4kg増の舞台で7歳馬が時計を詰めて勝ち切るところまでは考えにくかったですね。
 ただやや前掛かりになって差しが嵌る可能性そのものは結構有り得ると見ていたので、重い印はともかくヒモで拾うかはそこそこ考えて止めた経緯があるので、色々含めて反省です。

 結局この舞台はやっぱり後傾の方が時計を出しやすい、ってのは確実にある上で、それでも後半の持続力や切れ味の面で上がり時計に限界のある馬は当然いるので、今回も31,6という究極の上がりが示すように、こういう特別な武器がある馬はその他のマイナスファクターを脇に置いても狙う価値はある、ということなのでしょう。
 形としては本当に完璧に嵌っていて、序盤の位置取りも良く、全く左右に進路を選ぶ必要もなく真っ直ぐ走ってこられましたし、とはいえ実際に時計も詰めてきたのですから完全にフロック、とは言えない、この馬の良さが最大限に発揮された結果と見るべきでしょうね。流石に直千巧者の西田Jの面目躍如、というべきでしょうか。

 2着フィドゥーシアも、前目から強気の競馬で堂々勝ちに行っての2着ですし、時計も0,1秒とはいえ詰めているので悪くはない、のですが、結果論的に言えばもう少しゆったり入れていたらどうだったかなぁ?というのはありますね。
 今回は外目に速い馬が揃っていて、あまりゆったりしていると半端なところを通らされる、という懸念は、ネロを見ても決して悲観論ではなかったと思うので、スタートダッシュを完璧に決めて外に誘導したこと自体はべストだったと思います。

 ただミノルやレジーナが追いかけてくる中で、この2頭より前には入り切れませんでしたし、ミノルもかなり出してきたので抵抗して息を入れるラップに落とし切れなかったのは勿体ない所でした。
 前走0,5秒の後傾ラップで息を入れて、ラスト1Fを11,2でまとめてきたように、微差程度でも前傾で入ってしまうと甘くなる、というのが今日は出てしまった感じで、意思は感じたもののちょっと形を決めつけ過ぎたのが最後の最後で明暗を分けたのかな、という気はしています。
 この馬自身は1200mでも時計勝負ならかなりやれそうですし、それでも後傾戦の方が、というのはあるのでスプリンターズS、というイメージではないですが、京都1200mなどで内枠を引いてきたら、まずかなり強い競馬を見せてくると思いますね。

 3着のレジーナフォルテも、現状の力は出せたんじゃないかなと思います。
 スタートダッシュもまずまずで、ポジションも取れましたし、特に不利もなく進められましたけど、強いて言えば後半の最速地点でやや置かれて、ラスト1Fは失速しそうに見えて粘っていた、というあたり、タイプとしては消耗戦向きなんだろうなぁ、とは思いました。
 ただこの舞台でこのレベルになると、消耗ラップで勝ち切るのは厳しい、ということでしょうし、この斤量でも切れ味で劣った、というのは、後半要素に限界がある可能性は高いので、これ以上時計を詰めるのが地味に難しいタイプかも、とは感じました。
 今後もこの条件では確実に走ってくるとは思いますけど、勝ち切れないパターンは常に想定しておいた方がいいかもしれませんね。

 4着アクティブミノルも、理想を言えばもう少し前半ゆったり入りたかったですし、ブリンカー効果があり過ぎて前向きになり過ぎるからこの舞台だと、というのは感じますね。
 前傾でもCBC賞ほど極端ではなく、1秒程度の前傾でならもう少し粘りも増してくるかなと思いますし、北九州記念は逃げ争い次第の面もありますが、コース的にはかなり噛み合うと思いますので、この夏は好調を維持していますし出てきたら引き続き注意、ですね。

 ネロはこの枠でダッシュが効かない時点で流石に無理ですね。やはり58kgは鬼門のようです。
 予想としては正直こうなる確率はかなり高いと踏んでいたので、はっきり消して穴馬に印回すべきだったのに、そうしきれないのが予想ベタの真骨頂というか。馬券買わないくせに本命党の気質から脱却できないのは度し難いなぁ、と思いつつ、大抵それで人気馬バッサリするとあっさり裏目を引くから困っちゃうんですよね。。。
 ともあれこの馬自身は使ってから、でしょうし、去年も押せ押せの中でスプリンターズS路線で健闘していましたし、そこにピークをぶつけられるなら面白さはある馬だと思っていますので、改めて次走の巻き返しに期待ですね。
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私的名馬列伝 第九話 グラスワンダー

**★はじめに**

 ちょっと宝塚記念からタイミングがずれてしまいましたが、今回取り上げるのは栗毛の怪物と称され、エルコンドルパサー・スペシャルウィークなどと最強の座をかけて鎬を削った最強世代の一角、グラスワンダーです。

 デビュー前に怪物、と叫ばれる馬は多いものの、いざデビューしてみると案外、などという事もしょっちゅうの競馬シーンですが、この馬はその中でも希少種の、デビュー前の期待をその走りで更に上回ってきた名馬でした。
 [生涯通算成績](https://keiba.yahoo.co.jp/directory/horse/1995108676/)は15戦9勝、勝つときは本当に強いながら、負ける時は淡泊に馬群に沈むような極端さもあり、その体質の弱さも相俟って掴みどころのない馬とも言えます。
 最初の骨折以降は、万全の状態でレースに出られたことがない、など嘯かれながらも、グランプリレース3連勝などの輝かしい偉業を成し遂げた当馬の波乱万丈な競走馬の歴史、その能力の神髄を、当時の印象などと併せて改めて振り返っていきたいと思います。
 
 なお、年齢表記は当時の基準に従っています。

**★新馬~朝日杯3歳S <怪物の名を恣に>**

 今にして思えば、いわゆるマル外、と呼ばれる外国産馬が国内の大レースで猛威を振るったのは、この馬とエルコンドルパサーが活躍した時期が最後だったようにも思えます。
 勿論その後もクロフネやアグネスデジタルなど、散発的に強い外国産馬は出てきましたが、それ以上にサンデーの出現で国内産の血統、能力レベルが底上げされて、規制を掛けないと太刀打ちできない、というほどの強さを発揮する馬は出てこなくなりました。

 そんなマル外全盛時代の掉尾を飾る1頭のグラスワンダーは、デビュー前から調教などで抜群の動きを見せ、これは規格外の馬ではないか、と巷間で囁かれるほどにその存在が際立っていました。
 デビュー戦は中山の1800m戦、この時代はまだ折り返しの新馬戦、という言葉が死語でない時代ですので、相手の中にはレース経験馬もいましたが、そんなものは全く関係ない、とばかりに、やや出遅れるものの素早くリカバーし2番手からレースを進め、直線坂地点であっさり抜け出して3馬身差と、評判に違わぬ強さを見せつけます。

 そして、いよいよこの馬は本物だと盛り上がったのが2戦目のアイビーSでした。
 ここでもやや立ち遅れて中団より後ろからの競馬になったグラスワンダーですが、直線を向くと豪脚を発揮し、坂地点で楽々先頭に立つと後は突き放す一方、5馬身差の圧勝でその強さを誇示し、このあたりから怪物、という呼称が定着していきます。

 次走の京王杯3歳Sでは、新潟と小倉の3歳ステークスチャンピオンなどを向こうに回しながらも圧倒的な人気となり、このレースでは内枠からしっかりスタートも決めて楽々2番手を確保、直線もほぼ追うところなしに楽に突き抜けて6馬身差と、手に負えない強さで3歳チャンピオン決定戦の[朝日杯3歳S](https://www.youtube.com/watch?v=G4m3yYoDi5Y)に駒を進めます。
 ここでも、マイネルラヴ、アグネスワールド、ボールドエンペラーなどの後々の活躍馬を向こうに回し、まずまずのスタートから中団を追走、前半1000m57,1の激流にも戸惑うことなく4コーナーでは抜群の手応えで上がっていき、直線で先に抜け出したマイネルラヴを楽に捕まえての圧勝でした。

 このレースは同時に、はじめて3歳馬がマイル戦で1分34秒の壁を超えたレースとしても記憶されます。
 この時計が決して馬場に恵まれたものではないのは、同日1600万下のマイル戦が、やはりそれなりの急流でありながら1,34,3止まりだったことでも間接的に証明されます。
 この若駒の時点で、数字的にも明らかに古馬重賞クラスの走りを見せてきたグラスワンダーが、今になっても史上最強の3歳(現2歳)馬と呼ばれるのも決して違和感はない、記憶にも記録にも残る走りでファンを魅了したものでした。

 しかし、好事魔多し。
 翌年春の飛躍を期待され、まずはNHKマイルCに向けて調整されていたグラスワンダーですが、春先に骨折が発覚し、無念の戦線離脱となったのです。
 この年のNHKマイルCは、こちらも規格外の化け物だったエルコンドルパサーが、4角からの早仕掛けをものともせず押し切る凄みのある競馬を見せていて、この時点でグラスワンダーと対決していたらどちらが強かったのか?また的場Jがどちらを選んでいたのか?というのは、今になって考えてもワクワクするファクターです。
 私見としては、この2頭は最適距離が違ったと思っているので、基本マイルならグラスの方が強かったとは思っています。ただし府中というコース自体は持続力に長けたエルコンドルパサー向きなので、結局結論の出ない話ではありますね。

**★毎日王冠~有馬記念 <挫折からの鮮烈な復活>**

 骨折も癒えて、満を持してターフに戻ってきたグラスワンダーが復帰初戦に選んだのは、前回サイレンススズカの項でも紹介した、伝説のGⅡと語り継がれるあの毎日王冠でした。
 このレースを選んだ経緯としては、後々の事を考えて早めにエルコンドルパサーとぶつけて、主戦確保をはっきりさせたいという思惑があったとかも噂されましたが、渦中の的場Jはグラスワンダーを選択し、エルコンドルパサーの鞍上には新たに蛯名Jが迎えられての一戦になりました。

 そのあたりの事情も含めてか、このレースのグラスワンダーは、最強の逃げ馬であるサイレンススズカに対し真っ向勝負を仕掛けていきます。
 前半1000m57,7の速い流れを前目で追走し、4コーナーで一気に進出して射程圏に捉え、いざ直線どれだけ弾けるか!?と多くのファンが復活を期待しましたが、現実はそう甘くはありませんでした。
 流石に骨折明けの影響が大きかったのか、いつもならグンと加速する坂地点で伸びあぐね失速、当面のライバルエルコンドルパサーには勿論、最後は伏兵勢にも交わされて5着と、生涯はじめての敗戦を喫する事になります。

 しかし敗れたとはいえ、古馬最強のサイレンススズカに果敢に挑んだレースぶりは評価され、怪物の片鱗は見せた、とフォローされる形で、その能力に対する信頼は揺るがず、次走に選んだ一気の距離延長となるアルゼンチン共和国杯でも1番人気に支持されます。
 陣営も叩き2戦目のここは落とせない、と背水の陣を引いて臨んだ一戦でしたが、しかし好位の3~4番手からレースを進めたグラスワンダーは、一時は馬群から抜け出してくるものの、直線坂上でパタリと足が止まってしまい、ゴール前で外差し勢に一気に飲み込まれてしまって6着と、3歳時の圧倒的な走りを知るものからすればなんとも不甲斐無い、もどかしい結果に終わってしまいます。

 流石にこの敗戦で神話も翳りを見せ、或いはグラスワンダーはただの早熟馬だったのではないか?と囁かれるようになる中、それでも陣営は復活を信じ、年末のグランプリ、[有馬記念](https://www.youtube.com/watch?v=qs6wSEhqdOs)への参戦を決意します。
 錚々たる名馬が出揃ったここでは、いかにグラスワンダーでも人気を落として4番人気での出走となりますが、その見限りぶりを嘲笑うかのように、ここでは鮮やかなレースぶりを見せます。

 中山2500mでは有利になる2番枠からいいスタートを決めたグラスワンダーは、他馬が荒れた内を嫌って外目外目を走る中、スイスイと内目のコースから楽に追走していきます。
 菊花賞馬セイウンスカイが大きく離して逃げる展開の中で、3コーナーから徐々に進出を始めたグラスワンダーは、4コーナーでの勢い、手応えも抜群で、坂下で一気に同世代のライバルセイウンスカイを交わし去り、古豪メジロブライトの強襲も楽々凌いで、叩き3戦目の有馬記念という大舞台で高らかに復活の凱歌を上げたのです。

 エルコンドルパサーが楽々JCを勝った中で、それでもこの馬を的場Jが選択した事は決して間違いではなかった、むしろそれはどちらを選んでも正解の極限の選択だったことを、改めて満天下に知らしめて、ここからグラスワンダーの第二次活躍期が幕を上げる事になるのでした。

**★京王杯スプリングC~宝塚記念 <震撼せし最強の証明>**

 明け5歳、鮮烈な復活を遂げて益々の飛躍が期待されたグラスワンダーですが、いくつかの頓挫があり、結局復帰戦は春も盛りを過ぎた5月の京王杯スプリングCまでずれ込んでしまいます。
 有馬記念の2500mから、一気に1100mも距離を短縮しての1400m戦に懸念の声も上がるものの、しかしここでのグラスワンダーは間違いなく3歳時の怪物ぶりを取り戻していました。

 流石に久々の短距離戦でポジショニングは悪くなり、ペースとしてはややスローの中でほぼ中団の位置からの追走になり、結果的に先行した馬が上位を独占する流れの中で、しかしこの馬1頭だけ別次元の末脚を発揮します。
 直線外に持ち出したグラスワンダーは、当時では極限的な上がり33,3の切れ味を駆使し、内で粘る後の安田記念・マイルチャンピオンシップの覇者エアジハードを楽々交わし去ってみせたのです。

 この、古馬になっても距離不問の爆発力を見せつけられたことで、次走の安田記念では更なる一本被りの圧倒的人気に推されますが、しかしここでは思わぬ落とし穴が待ち受けていました。
 中目の枠から中団にポジションを取ったグラスワンダーですが、向こう正面の出口あたりで外国馬と接触し、それをゴーサインと勘違いして早め早めに進出してしまう事になり、直線でも坂下で早くも先頭と、後続の目標にされやすい競馬を強いられます。
 そしてその隙を見逃さなかったのが、前走の雪辱を狙うエアジハードでした。
 きっちりグラスの背後に張り付いていた同馬は、直線坂上からジリジリと追撃を開始し、必死に粘り込みを図るグラスワンダーを最後の最後でハナ差交わし去り、見事ジャイアントキリングを成し遂げたのです。

 結果的に見てエアジハードも、活躍時期が短かったものの歴史的名馬と呼んでいい能力の持ち主でしたが、それでも古馬になっての最盛期と言える5歳時の輝かしい戦歴に唯一土をつけられたのには、レースプランの瓦解、というファクターが大きく作用している事は確かなのでしょう。
 この先グラスワンダーは左回りのレースが嫌いになった、という的場Jの証言が、どこまで的を射ていたのかは何とも言えないところはあります。個人的にはそもそも府中向きの馬ではなかったと考えているのですが、そのあたりは能力分析に回すとして、どうあれ確勝と思われていたレースを落とした影響は、次の[宝塚記念](https://www.youtube.com/watch?v=fRKBeK3Kr4I)での2強対決において、オッズ差に顕著に表れることになります。

 この年のスペシャルウィークは、前年秋の菊花賞・JCの脆さが嘘のような快進撃を続けていました。
 ダービー馬としては異例のAJCCからの始動、その中で今までと違う先行脚質を確立し、春の天皇賞では前を行くライバルセイウンスカイを早々に交わし去り、後ろから漁夫の利を狙うメジロブライトを凌ぎ切るという、前年有馬のグラスワンダーと同じようなパフォーマンスを見せて圧勝して、破竹の勢いを保ったまま宝塚記念に駒を進めてきたのです。
 エルコンドルパサーが海外に渡った今、JCのリベンジの舞台は世界最高峰のレース・凱旋門賞しかないと的を定め、このレースで国内最強を誇示できたなら遠征プランが現実味を帯びる、というところで、安田の捲土重来を図るグラスワンダーにとっても、実力面でも世論的な意味でも大きな壁として立ちはだかっていました。

 最終的にスペシャルウィーク1,5倍、グラスワンダー2,8倍という単勝オッズでのレースになりますが、しかしグラスワンダーという馬は或いは新聞でも読めたのか、人気がない時の方が圧巻の走りを見せるというところがありました。
 或いはそれは、現役時代屈指のマーク屋として名を馳せた的場Jのタクト故かもですが、ここでもスペシャルウィークが前々から強気の競馬を展開する中、それをピタリとマークする戦法に出ます。
 3コーナーから進出し、早め先頭で押し切りを狙うスぺシャルウィークに対し、ただ1頭だけ楽な手応えで追撃してきたグラスワンダーは、直線半ばでライバルを悠々と交わし去り、3馬身という決定的な差をつけて完勝してみせたのです。

 このレースのスペシャルウィークが弱かったわけではないのは、3着の物差し馬ステイゴールドに7馬身の大差をつけているところからも明らかで、それを粉砕したグラスワンダーの圧倒的な破壊力は見たものを震撼させるもので、間違いなく力を出し切れば国内最強はこちらだ、と思わせるに充分なパフォーマンスでした。

**★毎日王冠~有馬記念 <チャンピオンの矜持>**

 宝塚記念の勝利で、スペシャルウィーク陣営の野望も粉砕し、改めて国内最強の座を獲得したグラスワンダーは、秋は古馬王道路線を目指して毎日王冠から始動します。
 ここでは斤量も59kgを背負い、仕上げもそこまで良くはない、と感じさせる中で、直線坂上で抜け出すも、伏兵メイショウオウドウの強襲にハナ差まで迫られる薄氷の勝利となりました。
 同時期に行われた京都大賞典で、スペシャルウィークが不可解な惨敗を喫しているように、宝塚記念の激走のダメージがこの秋シーズンにも影響を及ぼしているのか、と思わせる2強の出だしでしたが、その後立て直して秋天・JCと連勝したスペシャルに対し、こちらはまた足元の不安が出て休養を余儀なくされてしまいます。

 ライバルが改めて王道路線で強さを示し、まだ勝負付けは済んでいないと獅子吼する中で、懸命の調整を続けたグラスワンダーは、万全とは程遠いながらもなんとかディフェンディングチャンピオンとして、[有馬記念](https://www.youtube.com/watch?v=0oc56wcg-TE)の出走に漕ぎ着けます。
 その臨戦過程の不安さもありながら、春の宝塚の圧勝が尾を引いたのか、ここでは僅差ながらグラスワンダーが1番人気に支持され、秋の古馬王道路線3連勝の偉業を目前にしたスペシャルウィークとの2度目の激突が幕を開けます。

 戦前から逃げ馬不在が囁かれる中、レースは空前のスローペースでの展開になり、しかしややスタートで後手を踏んだグラスワンダーは後方3番手あたりからの苦しい競馬になります。
 しかしこのレースでは、そのゆったりした流れの中で、3番という好枠を引いていたスペシャルウィークが、敢えて枠順の利を捨て、最後方に位置した事が観衆にとっても最大の驚きだったでしょう。
 秋天こそ後方差しにスタイルを戻して復活したものの、JCでは中団から堂々抜け出す王者の競馬を見せていただけに、ここもある程度の位置を取ると目されていましたが、武Jは敢えて敵は1頭だけ、どんな流れでも関係ないとばかりに、グラスワンダーをがっちりマークする競馬を選択したのです。

 向こう正面まで淡々とした遅い流れで進み、馬群が凝縮していく中で、3コーナー過ぎからグラスワンダーは、内にいたツルマルツヨシの進出に呼応する形で外々から一気に押し上げていき、4コーナー出口ではほぼ先頭というレースを披露します。
 それを真後ろでピタリとマークしていたスペシャルウィークは、直線坂下から待ってましたとばかりに追い出して、一歩ずつグラスとの差を詰めていきます。
 内でツルマルや、翌年古馬グランドスラムの大偉業を達成するテイエムオペラオーなども粘っている中で、グラスはいつもほどの末脚を見せられずもがくものの、それでもチャンピオンの矜持を見せて最後の最後までしぶとく抵抗します。
 半馬身、首、頭、ハナ――――1完歩ずつ詰まっていくスペシャルとの差、その馬体が完全に並び、差し切られたか、という所でゴール板を迎え、このスローペースにも拘らず後方からワンツーを決めた2強の凄みが改めて満天下に示されるとともに、その最終的な決着は写真判定に持ち込まれます。

 勝利を確信したかのようにウイニングランを敢行するスペシャルウィーク武Jに対し、早々と装鞍所に引き上げてきたグラスワンダー的場Jですが、数分に渡る写真判定の結果は、なんと僅か4cmの差でグラスワンダーに軍配が上がっていました。
 文字通り紙一重の死闘、どちらに天運が転んでも不思議はなかった、素晴らしい名レースでした。
 結果論的に言う事を許されるなら、もしもグラスワンダーという馬がいなければ、スペシャルウィークはオペラオーに先駆けること1年、古馬王道路線完全制覇という偉業を達成していたとも言えて、それだけ伯仲した実力の中で、決して大きな舞台では取りこぼすことなく最強クラスの馬が最強の座を守り続けたことが、この世代を最強世代と長く呼ばせる大きな理由になっているのでしょう。

**★日経賞~宝塚記念 <怪物の黄昏>**

 海を渡り、凱旋門賞で僅差の2着という輝かしい実績を上げたエルコンドルパサー、前年古馬王道路線の絶対的な主役を務め切ったスペシャルウィークが引退する中で、グラスワンダーだけは更に現役生活を延長し、下の世代の高い壁として君臨する、はずでした。

 しかし前年のスペシャルウィークとの死闘で燃え尽きてしまったのか、この6歳春のグラスワンダーは、今までの怪物ぶりが嘘のような凡走を繰り返すことになります。
 復帰戦は有馬記念と同じ舞台の日経賞でしたが、しかしパドックに出てきたグラスワンダーを見て、あちこちから疑義の声が上がったのは今でも鮮明に覚えています。
 なにしろ前年の有馬記念の時点で+12kgとかなり立派に見せていた馬体が、そこから更に+18kgとなっていて、それが成長分、という感じもなく、文字通り完全な太目残りが素人目にも明らかだったのです。

 それこそ「牛」だなどという揶揄すら飛び交う中で、レースでもその印象通り、圧倒的な人気を背負いつつも中団からまるで動けず、伏兵レオリュウホウに楽々逃げ切りを許す、6着惨敗という不甲斐無い結果となってしまいました。
 正直このレースに至るまでの出走経緯まで記憶にないのですが、あの馬体を見る限りはまともに調整できていなかったのは確かでしょうし、それが馬のメンタル面なのか、それとも陣営の傲りだったのか、ともあれグラスワンダーの6歳シーズンにはにわかに暗雲が漂う事となりました。

 流石にあの結果を受けて陣営も立て直しに必死になったのか、次走に選択した京王杯スプリングCでは-20kgと馬体をかなり絞ってきましたが、それでも5歳時は500kg前後の場体重で安定して走っていたこの馬にとってはまだ重め残りだったか、或いはやはりメンタル面や府中苦手要因が重なったか、スタートから行きっぷりも悪く、進路取りにまずさもあったにせよ、前年に見せた鮮やか過ぎる豪脚の面影は片鱗すらも見せられずの9着惨敗でした。

 この敗戦を受けて、それまでデビューからずっと手綱を取り続けてきた的場Jが降板となります。
 カンフル剤としての騎手変更で白羽の矢が立ったのは、エルコンドルパサー絡みでこの馬とも因縁深い蛯名J、そして得意のグランプリの舞台で復活を期し、必死の調整が続けられました。
 かくしてグランプリ4連覇の偉業をかけて臨んだ宝塚記念ですが、しかし一度狂った歯車は最後まで軋みを上げたままでした。

 雨が降りそぼる中の決戦になった宝塚記念は、天皇賞まで3連勝でチャンピオンホースとしての風格を纏ったテイエムオペラオーが中心視される中、先行するこの馬をグラスワンダーお得意のマーク作戦で追走する事になります。
 しかし勝負所の4コーナーで普段の行きっぷりが全く見られず、直線を向いて必死に追われるものの伸びる気配はなく、前年10馬身差をつけていたステイゴールドにも楽々交わされての6着、しかもレース後に蛯名Jが下馬し、骨折が発覚してそのまま引退を余儀なくされるという、これだけの名馬としては非常に寂しい晩年の競争生活となってしまったのです。

 このレースでは骨折さえなければ、と言われる事もありましたが、私見ではもうこの時点で馬自身に活力が残っていなかったのは確かだと思いますし、展開的にもテイエムに勝ち切れるような条件ではなかったなと感じています。
 その辺は能力分析で触れていきますが、ともあれ結果的に蛇足、輝かしい競争生活に傷をつける結果となった6歳シーズン、志半ばで満身創痍のグラスワンダーはターフを去っていったのでした。

**★能力分析**

 この馬に関しては、本当に馬の調子自体が安定していなかった、というのは確かだと思いますので、他の馬に比べてもレース成績そのもので資質を図る、というのが難しいところはあると感じます。
 ただある程度結論的に先出ししてしまえば、この馬はどんな展開でも一定強かったものの、本当に最大級の強さを発揮できるスポット自体はそんなに広くなく、総じて言えば後半型、かつ機動力の高さと瞬発力が最大の武器で、仕掛けどころが遅いほどそれは威力を発揮した、と考えます。

 これは3歳時からある程度その要素は見せていると思っていて、個人的に3歳時で一番強かった印象があるのがアイビーSなのも含めて、前半速い流れに乗っかっていく展開はそこまで得意ではなかったのではないか?という仮説が立てられます。
 朝日杯は確かに強かったですが、でも実のところそこまでの一連のレースをリアルタイムで見ていた人にとっては、あれ?こんなもの?と感じた部分も結構あったのではないか、と思いますし、実際後付けでタイムやらを見れば凄みはあるのですが、もっと強いはずと私は思っていました。

 それも結局のところ、あのレースが自身の通過で58,2(11,64)-35,4(11,8)と、実質的に前傾ラップで走破している故に、最大の武器であるコーナーの機動力とそれに伴う瞬発力が最大限に生かし切れなかった、と考えられます。
 とにかくこの馬はコーナーでの機動力が群を抜いて優れていて、けれどそこでの加速力は凄まじいながら、持続力自体は一線級に入ると絶品、というほどではなく、それだけにレース自体の仕掛けが速い展開ではあまり噛み合わなかった、という見立ては出来るでしょう。

 結果的に府中よりも阪神内回りや中山の方が安定して強かったのも、仕掛けどころのコーナーを抜けてからの直線の短さに起因するところは大きいと思いますし、府中で強いレースが出来ている時は大抵400-200mの坂地点で最速ラップを踏んでいます。
 5歳時の京王杯スプリングCなどは顕著で、自身47,2(11,8)-33,3(11,1)と明確な後傾ラップを刻み、そうやって前半余裕を持って入ることで、後半のレースラップが11,8-10,8-11,5と、坂地点での加速力、切れ味の質が高く問われる展開で、その最速地点ではっきり差を詰めているように、他を凌駕する爆発的な切れ味を引き出すことが出来た、というのがこの馬の最大のえげつなさだと思います。

 加えていかにもアメリカ血統らしく、力の要る馬場になってもその切れ味を削がれる事なく発揮できたのが、グランプリレースで強かった由縁でもあると思います。
 本質的な距離適性としては1600m-2000mあたりにあると考えていて、それは同じ2500mでも、ステイヤータイプの庭であるアルゼンチン共和国杯でベストなペースバランス、ポジショニングから伸び切れていない所からもある程度推察できます。
 けれど中山の2500mはコーナー6回回る特殊なコースで、距離の誤魔化しが効きやすい屈指のコースでもあり、かつ2年共に実質的にはかなりのスローペースから、コーナーの機動力を強く問われる展開になっていて、そのあたりで噛み合ったからこそ、というのはあると感じます。

 特に2年目の有馬などは、レースラップが12,4-11,0-11,9と激しい加速力がコーナーで問われていて、オペラオーの敗因はそこでのギアチェンジ面の拙さに尽きる、と感じるレースの中で、あれだけ大外を回し、実質的には10秒台半ばくらいのラップで一気に先頭まで押し上げられた、そこの機動力の凄みが、底力を発揮しにくい体調の中でも勝ち切れた大きな要因になっていたでしょう。

 最初の年の宝塚記念も、レースバランスで言えば61,0-12,1-59,0と実質的にはかなりのスローバランスで入れたこと、そして早仕掛けの展開でも後半コーナー出口の勝負所で11,0という高速ラップを踏む余地があり、そこでの加速力でスペシャルウィークを圧倒してきたことが、最終的な着差にも大きく影響を及ぼしているでしょう。
 実際ラストは12,7とかなり消耗していますし、あのレース自体はスペシャルウィークの適正面からするとやや自爆、というところもあり、それでも異次元に強かったのは間違いなくて、その辺は力の要る馬場への抜群の相性もあった、と感じます。

 ちょっと脈絡が取り留めなくなっていますが、なので安田記念などは、前半折り合いを欠いてゆったり入れなかった事と、レース自体がある程度流れていたこと、仕掛けどころも速かったなど、この馬にとって良くない要素が全て積み重なってああなった、と考えられます。
 マイル戦としてはモーリスに似た適正ですね。流れてもある程度強いけれど、脚を溜めて後半型にシフトした方がなお強い、そういうタイプだったと分析できます。骨折明けだったとはいえ、4歳時毎日王冠であれだけ崩れたのもオーバーペース、と考えればしっくりきますね。

 あと、斤量的にも58kgまでは我慢できたけど、59kgは辛かった可能性も考えておいていいと思います。5歳時の毎日王冠は、ラップバランスとしてはこの馬にとって悪くなかったのにあの微妙な勝ち方ですので、無論体調面の不備もあったでしょうが、6歳時の惨敗も含めて馬自身が気力を発揮できない条件になっていた、とも言えるでしょう。
 最後の宝塚記念がまともでも勝てていないだろう、と考えるのも、ペースバランスが60,7-12,1-61,0とやや前掛かりで、かつ600-400m地点最速の持久力戦になっており、前半、後半要素共にこの馬の良さが生きる展開ではなく、逆にオペラオーにとってはお誂え向きの流れだったことからそういう結論を導いています。

**★終わりに**

 当時は強さと脆さが同居する不可思議な馬、というイメージが先行していて、個人的に3強の中では一番贔屓していたこともあって思い入れは強いのですが、いざきちんと検証してみると、存外明確に適性というものが浮かび上がってきましたね。
 あの頃からコーナーでの機動力が凄い、というのは感じていましたが、数字面でもそれが裏付けられましたし、とにかく型に嵌れば凄まじい爆発力を発揮する、実にドラマ性に溢れた魅力的な馬でした。

 当時は走れるレースがなかったとはいえ、多分ペースの上がりにくいレイアウトの小回り2000mとか鬼のように強かったと思います。力の要る馬場も適性が高かったので、今の時代なら香港の2000m戦あたり総なめに出来たかもしれません。
 外国産馬でレース選択の門戸が狭い中、適正面で合致し切らないレースでも素晴らしい強さを発揮した事は流石の一言ですし、本当に当時の3強は、同じ時代に生まれなければもっともっと燦然たる成績を残していたんだろうな、と思わせますね。

posted by clover at 05:10| Comment(0) | 名馬列伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする