2017年06月18日

2017 宝塚記念 プレビュー

**★はじめに**

 いよいよ今週は春のGⅠシリーズ総決算、夏のグランプリ宝塚記念ですね。
 今年は絶対王者キタサンブラックがいるからか、登録時点で11頭と、下手すると一桁頭数でのレースになりそうな寂しい雰囲気です。
 それでも新設初年度からの、キタサンのおそらく達成できれば不朽になりそうな春古馬三冠(今後中距離と長距離の双方であれだけ強い競馬が出来る馬が早々出てくるとは思えません)、それをさせじと牙を研ぐ同期のライバルや4歳の上がり馬など面白い馬や見所は沢山あります。

 加えて前走ああいう強い競馬を見せたキタサンが、去年のリベンジの意味も含めてここでどういうレースプランを立ててくるかも非常に楽しみです。
 現状例年にない高速状態を維持している阪神ですが、それでもキタサンがいる限り、単なる上がりの切れ味勝負ではないレースにはなるでしょうね。

**★レース傾向分析**

 阪神内回り2200mは、スタートから1コーナーまでの距離が長いのが最大の特徴です。
 それこそゴールドシップくらいのズブい馬でも、外枠を引いてその気になれば先行できてしまう舞台でもあり、逃げたい馬が多数いる時はかなり前半のペースが上がっていく傾向にあります。
 また後半も、残り1000mくらいからじわっと上がって、コーナー地点で既に速いラップを踏むパターンがほとんどで、スピードだけでもスタミナだけでも押し切れない、底力を求められるチャンピオンコースのひとつという認識でいいと思います。

 加えて例年このレースは梅雨時開催ですので、非常に馬場が重くなる傾向ですが、今年に関してはやや様相が違っています。
 梅雨入り後も週末の雨が限定的で、その分だけ馬場も高速状態を保つ、どころか週を増すごとに拍車がかかっている現状で、昨日のレースでも500万下の2000m戦で1,57,9、マイルのOP戦も47,1-44,8という超後傾ラップなのに1,31,9とレコード更新していました。
 今週の週間天気は今のところずっと曇りマークと、なんとも言い難い微妙さではありますが、仮にこの高速状態が維持されるのであれば、宝塚記念レコードの2,10,1、2200m日本レコードの2,09,9も視野に入ってくると見ておいた方がいいでしょう。

 なので今年はあまり参考にならないかもですが、一応過去10年の平均ラップを出しておきます。
 3-2-3-3Fで取って、34,8(11,6)-24,8(12,4)-36,8(12,27)-36,1(12,03)=2,12,5(12,04)という推移になっています。
 やはり前半3Fだけが飛び抜けて速く、そこから多少の緩みはあっても極端ではなく、淡々と12秒前半を続けていく感じで、一定の追走力と持久力面がかなり強く問われ、要所の加速力や切れ味、持続力面は最低限あれば、というイメージでいいと思います。
 
 とにかく前半のペースが極端に触れていて、58秒、59秒になる時もあれば、62秒とか異常に遅くなる時もあるので、ペースの決めつけが難しい舞台ではありますが、今年はキタサンがいますので、このキタサン×武Jのこのレースに対する意識をどう読むか、が唯一絶対のポイントになってくるのかな、とは感じています。

 去年のキタサンは、番手勢につつかれた事もあり、稍重馬場の中でかなりのハイペース、59,1-12,4-61,3という前傾2秒の推移で走破してタイム差なしの3着に敗れました。
 ですが、私も含めてこのレースぶりを見て、キタサンブラックってこんなに強かったのか、と、それまで持っていたどこかひ弱なイメージを払拭した人は多かったと思いますし、少なくとも良馬場でなら前半59秒はこの馬にとっては楽にクリアできるペースになっている、と考えていいでしょう。

 その上で今年の馬場ならば、59-12-59=2,10,0くらいは楽に計算できそうな状況でもあり、それならば綺麗な平均ペースに収まります。
 無論ここは春3戦目で、凱旋門賞を視野に入れる上である程度楽に勝ちたい、という思惑もないではないでしょう。
 ただ馬主さん的には海外よりここ、という想いは強そうですし、武Jも強い馬では強い競馬で勝つのを歓びとするタイプですから、今回も「この馬にしか耐えられないペース」で進める確率はかなり高いと踏んでいます。勿論馬場が悪くなればまた別ですが、そのあたりは現状どうにも言えないので、あくまでも今の馬場が維持される前提で、です。

 プラスして考えるに、相手関係としても上記の59秒ペースを作ってしまった方が、勝手にライバル勢が崩れてくれる公算が高い、とも思えていて、今の時点ではこのキタサンの作る時計勝負の流れに乗っていって脚を削がれない馬を強めに狙いたいな、と考えています。

**★有力馬所感**

・キタサンブラック

 まぁある程度上で書いたのであまり繰り返しませんが、去年より明らかにパワーアップしている現状で、いかに天皇賞・春の激走の見えない疲れがあったとしても、ここで圏内から外れるような大崩れをするイメージは全く持てない馬とはなりました。

 敢えて瑕疵を上げるとすれば、春天からの直行馬が近年成績が良くない事と、あとレース的に逃げ先行よりは、コーナー最速の持続戦・持久戦になるというメカニズム上、差し馬の方が優位性が高い舞台という所ですが、今の高速馬場のままであれば前に行けるアドバンテージは圧倒的だと考えます。

 この馬自身この距離での高速決着が未知数と言えばそうですが、大阪杯もあの時計で走れていますし、ちょっとやそっとのペースでは追走面で削がれない力感を手にしているので、懸念するほどではないと思います。
 これがペースに左右される差し馬ならともかく、百戦錬磨の武Jが駆るキタサンブラックという時点でペース配分を間違える可能性はほぼ考えなくていいですし、逃げて誰もが追走で汲々とするペースで飛ばし、そのまま押し切る、アーネストリーのような競馬を見せてくれる蓋然性は高いだろうと考えます。流石に今の時点で、他の馬に本命を打つ気は一切ありません。

・シュヴァルグラン

 天皇賞・春は、高速馬場で速い流れに自分から入っていった時にどうかな?という懸念を持っていましたが、結果的にはかなり強い競馬を見せてくれました。
 あのレースではキタサンの位置で1000m60秒を切っており、それをピタリマークしていたこの馬も60秒前後では通過していて、その点で最低限の追走力は担保、以前より前半要素を高められるようになってきたかなと感じています。

 前走はスタートも良かったですし、この距離でもある程度ポジションを取ってキタサンマークに持ち込める可能性はあるので、あながち今年は高速決着になりそうだから、という理由で嫌うのは安直かな、と考えています。
 こちらも当然激走の反動は考えないといけませんが、去年のように追走で手一杯、という事にはならないと思いますし、去年も番手勢が下がってくる煽りをもろに受けて追えなかったのが原因の部分もあるので、徹底マークでキタサンに勝てるか、という視座では流石に心許ないものの、2番手グループの中では比較的計算できる1頭になるのではと見ています。

・サトノクラウン

 結論から言えば、大阪杯に続きズブズブの不良にでもならない限り一切狙う気はありません。
 この馬はどうしても追走力に大きな課題がありますし、加えて後半要素としても、切れ味の質や坂加速性能など、ネックになる点がかなり多いです。
 去年もこの馬にとっては悪くない稍重馬場でしたが、どうしても前半追走に苦慮していて、その分後半の持久力面もはっきり削がれていて、あれを見る限りキタサンの作るペースの中ではどうあっても好走は厳しいだろうと思います。
 
 特にデムーロJですから、今回も積極的にキタサンを追い掛ける競馬をしそうで、それを含めて最後の200mで一気に甘くなるイメージですね。

・シャケトラ

 この馬は高速適正が今のところ完全に未知数です。
 今までのレースでも、平均ラップでハロン12を切ってきたレースすら一度もないので、ここで2,10,0前後の高速決着を考えた場合、前半の追走力とレース全体での総合スピード能力が足りるかは大きな課題になります。
 天皇賞でもう少しまともな競馬が出来ていれば指標にもなったのですが、出遅れて一気に流れの速いところでリカバー、というちぐはぐな競馬をしている分、追走力の面でどこまで耐えられるか正直まだわからない、というのが素直なところです。

 それだけに未知の可能性はある、と言いたいですが、後半要素でも持久力面は日経賞で確かなものを見せているものの、切れ味や持続力面ではやはりちょっと足りない印象を残しています。
 この馬場のままですと、当然後半の推移も12,1-11,9-11,3-11,5-12,2くらいは見込めてしまうわけで、コーナーの最速地点でしっかり押し上げる、それ以上に速い脚を使えるかもやってみないとわかりません。日経賞はコーナーで動けてましたけど、あれはレースラップが12秒そこそこの中で、ですから、自身11,5くらいの、持久力水準での最高速度的な面はあったと思うので。

 諸々考えると、ルメールJで人気するのは必定の中、それに見合う安定感はない、とは思います。
 少なくとも前半は折り合いに専念しつつ中団くらいまででしっかり前を見据えて、そこからキタサンより更に速くロングスパートを仕掛けて持久力面で勝負するのが、キタサンを撃破するという観点では一番可能性が高そうですが、果たして馬がそこまで強いか、判断に悩むところですね。
 サトノと違って無印にするつもりはないですが、重い印は多分打たないと思います。

・ゴールドアクター

 春天では出遅れで何も出来なかったゴルアク×横山Jのコンビが、梅雨の仁川で捲土重来を目指しますが、これも簡単ではないと感じます。
 元々先行力はある馬ですが、実のところこの馬が先行して勝ったレースは大抵がスローで、追走力面ではっきりタフなレースで結果を出している、という担保はない馬だったりします。
 また、この距離での高速決着にも一抹の不安はありますし、今回も輸送のリスクがあると考えれば、先行できるメリットを差し引いても強くは狙い辛い1頭になってしまったかな、と感じています。

 この馬としては去年くらいに渋って、その上でインベタで上手く脚を溜める競馬が出来れば、くらいの条件が欲しい感じがしますし、良馬場で速いペースについていく、或いはキタサンの機先を制しての奇襲逃げなどを敢行すると、昨日のシュウジではないですがオーバーペースになってしまう懸念が強いかなと思うので、現状取捨の当落線上、というところです。

・レインボーライン

 この馬は前走こそ超高速決着の中で何も出来ずに後方まま、とらしくない競馬でしたが、基本的には堅実さが売りで、後半要素としては持続力面が一番評価できる馬です。
 加えて元々マイル戦でも結果を出せていたように、このメンバーの中では確実に追走力面での不安はなく、渋って持久力戦の様相を強くしても、札幌記念のラストの脚からしてまず問題ないでしょう。

 今回は岩田Jなのでタイトなコース取りを意識してくるかな、と思いますし、2番手グループの有力馬が押し上げていく展開の中で上手く内内を立ち回れば、直線でスッと伸びてこられるイメージを持ちやすい馬です。
 特に内枠を引けば面白いと思いますし、現状対抗候補の筆頭、という位置づけですね。

・ミッキークイーン

 この馬もこの条件はかなり面白いと思っています。
 元々マイル戦の高速決着では足りない、と言い続けていた馬で、前走の大敗も陣営コメントのように怪我の影響・左回りの部分もあったのかもですが、個人的にはもっとシンプルに最速地点での加速力・切れ味が足りなかっただけで、度外視していい負け方と思っています。

 当然この馬もマイル戦で余裕で勝ち切れる追走力があるのでここなら大威張りですし、また後半要素で最大の武器は絶対的に持続力、というのも、コーナー最速になりやすいこのレースの傾向にバッチリ噛み合うと思います。
 時計勝負になっても秋華賞の内容から全く不安はないですし、純粋に全ての馬が能力フルスロットルでこのメンバー、というなら辛いかもですが、キタサンのペースで追走力を要求されて脚を削がれる馬が多く出る、というイメージの中では、ラストにきっちり台頭してくる1頭になるのではないか、と感じています。

 ここ数年はディープの牝馬がよく圏内に飛び込んでくるイメージですし、枠の並び次第では対抗まで考えています。

・ミッキーロケット

 この馬も大阪杯でサトノクラウンとセットにしたように、サトノほどではないですけど前半の追走力に課題はあります。
 少しでも距離が延びるのはプラスに見えつつ、実際はこの舞台の方がペースが上がるのでその点でやや厳しいと思いますし、加えてこの馬には出負け癖があります。
 スタートを決めて前に行ければ追走で苦しく、出遅れて後ろからですと後半要素の絶対量で足りない、という感じで、どう乗っても現状でこの距離では1枚足りないと思うので、基本的にはこの馬も軽視のスタンスですね。やっぱり2400mは欲しい馬で、内枠引いた有馬とかすごく面白そうなんですけどね。

・クラリティシチー

 中1週で本当に出てくるの?というのはありますが、鞍上も松山Jに決まったようですし、一応出走する方向なのでしょう。
 基本的にこれまで2000m以上のレースで全く良績がなく、重賞実績も足りないのでまずいらない、とは思うのですが、一縷の望みがあるとすれば超高速馬場ですね。
 エプソムカップの回顧でも触れたように、超高速馬場で後半要素を適度に問われる展開はベストなのかな、と思っていて、その意味でキタサンの59-59の流れをイメージするなら合致してくる部分はあります。

 内枠から前半上手く死んだふりでインベタに徹して、漁夫の利を狙う形でなら、他の馬が追走や押し上げで足を使い過ぎて崩れていく中、ひょいっと最後にギリギリ3着飛び込みくらいはあってもいいかも、とは思います。印まで回すかは並び次第ですけど。

・スピリッツミノル

 流石にこの距離に入ると前半の先行力も足りませんし、後半要素でも不器用さが目立ってしまうので難しいですね。
 サトノクラウン同様、ズブズブの不良馬場とかで持久力特化戦になれば一考の余地はありますが、基本的には軽視でいいでしょう。

・ヒットザターゲット

 元々超高速馬場巧者で、インを上手く立ち回っての持続力戦で強さを発揮する馬でした。
 なので往年の力があれば、この条件は内枠引ければ結構面白い、と思えるのですが、流石に近走の結果が酷過ぎて、ここで一気にガラッと変わってくるイメージは持ち辛いものはあります。

 ただ超細かく見れば、金鯱賞や京都大賞典は枠番的に恵まれなかった中でそこそこの時計差まで詰めており、目黒記念も外枠でインに潜り込めなかったと考えれば、ここでインベタ、ロンスパ持続力戦になった時にワンチャあるかも?と一縷の希望を持てる要素はなくはない、くらいですかね。流石にちょっと無理筋に思えますが、条件自体は相当噛み合うと思っていいです。

**★思い出の宝塚記念**

 他の記事でコメントもいただきましたが、グラスワンダーの宝塚記念は強烈に印象に焼き付いていますね。
 あの時は安田記念からの参戦で、あまり調子も良くないと囁かれていて、古馬になり先行力を身につけて絶好調だったスペシャルウィークに人気では水を空けられる形でしたが、結果は恐ろしいほどの強さでの完勝でした。

 あの日の馬場は非常に時計がかかっていて、それなのに前半も速く、中盤も緩みなく、かつスペシャルウィークが早仕掛けの捲りを敢行してロンスパになって、最速11,0というえげつないラップを後半で踏んでいる凄まじいレースでしたが、そのコーナー出口から直線前半の11,0地点で悠々馬体を並びかけていったあの迫力は、今でも思い出すだけで身震いするほど圧倒的でした。
 基本的に常に自分の力は出すステイゴールドがあれだけ千切られた事からも、このレースの破格のレベルは明らかですし、本当にしっかり能力を発揮できた時の爆発力は凄まじかったなと思います。

 そして、そのグラスの仔であるアーネストリーの一戦も鮮明に記憶に残っています。
 ラップ的に58,7-12,1-59,3という高速条件での綺麗な平均ペースの中、番手から直線早め先頭で堂々抜け出す、総合的なスピード能力をフルに生かしたレースぶりは凄みがありましたし、文字通り誰も追いつけない状況に持ち込む胆力も含めて名レースだったと思います。
 
posted by clover at 04:07| Comment(0) | 雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017 函館スプリントS・ユニコーンS レース回顧

**★函館スプリントS**

 サマースプリントシリーズの開幕戦にもなる函館スプリントSは、稀に見る超高速馬場決戦の中、50kgの恵量を存分に生かしてジューヌエコールが楽々突き抜け、圧巻のレコード勝ちを収めました。レースを振り返っていきましょう。

 まず馬場ですが、昨日の時点で超高速なのはわかっていましたけど、それでもなんだかんだ函館だしなぁ、と甘く見積もっているところはありました。
 しかし蓋を開けて見ると、8Rの500万下で32,7-34,8の猛烈な前傾消耗ラップでの逃げ切りで1,07,5と、昨日のレコードが早速更新される事になり、そしてこのレース逃げて勝ったのが武Jだったのを見た時は、あーこれシュウジも逃げるのかな?と、その時点で展開予想が外れることを観念しましたね。。。

 その懸念通り、絶好のスタートを切ったシュウジが出足も鋭くすんなりとハナを取り切り、それをセイウンコウセイもピッタリマークするように2番手追走と、予想外に外主導での先行争いが展開される事になりました。
 イッテツやクリスマスもスタートは五分でしたがテンの速さが違いましたし、ノボは大きく伸びあがっての最後方からとなります。
 レヴァンテ、ブランあたりも外枠主導の流れに乗って比較的前を追い掛け、ジューヌエコールは一度その隊列からスッと下げて中団やや前くらいでの追走となり、それをキングハート、エボワスあたりがマークする形で進んでいきます。

 ラップは驚愕の32,2(10,73)-34,6(11,53)=1,06,8(11,14)という推移でした。地味にこのブログスタートしてから、区間平均ラップ10秒台って初めて書いた気がします。
 とにかく、多少なり上り坂スタートの函館1200mなのに、下り坂スタートのスプリンターズSでも出さないような強烈なテン3F推移で、こんな数字はたまーに小倉1200m(やっぱり下り坂スタート)で見るくらいですね。改めてシュウジという馬の天性のスピードには驚きますが、でもそれじゃダメなんですよねぇどうしても。その辺は後程触れます。

 ともあれ、折角なのでレース全部のラップを見ていくと、11,7-10,1-10,4-11,0-11,4-12,2となっていて、テン3Fはどの地点も鬼のように速く、前半から勝負所にかけて、後続の馬も大半が手綱を扱いて促していかないと追走できない、函館らしからぬ縦長の展開になりました。
 当然一貫しての消耗戦ですので、要所の動き出しなどは全く問われず、ただひたすらに追走力面特化、速い時計に対応できる馬でないと手も足も出なかった展開だと考えます。

 しかしそんな超激流の中、勝ったジューヌエコールだけは追走に全く汲々とすることなく、むしろ少し抑えているくらいの手応えで、4コーナーでもスーッと楽に外目を回して前との差を詰めてきます。
 直線でセイウンコウセイが抜けだしを図るところにあっさり取り付いて抜け出すと、後は軽快に脚を伸ばして引き離す一方と、斤量差を鑑みてもちょっと桁の違うえげつないスプリント能力を見せつけた、と言っていいでしょう。

 正直なところ、どんな展開でも詰まらない限り多分勝つ、と思っていたのですけど、それにしても予想以上に強かったです。
 この馬自身は32,9-33,9と前傾きっかり1秒での走破になっていますが、前半33秒を切る流れを追走して全く後半要素に陰りなく、11,4と減速が著しくなってきた時点で11,0、ラストが11,9くらいで駆け抜けている計算になります。
 元々2歳時から、マイル戦で後半要素が問われても一定戦えていた馬ですが、成長とともによりスプリント色が強くなってきた、と見ていいでしょうね。追走力の高さが他の馬とは段違いの性能でしたし、これなら常にこの路線では前目に入っていって強気に勝負できるでしょう。

 スプリントの強い馬を育てるのには多大なノウハウがある安田厩舎の管理馬ですし、この高速馬場での勝超前傾戦を勝ち切ったことで、一躍秋のスプリンターズSの主役候補になったと言っても過言ではないと思います。
 勿論今日は50kgでしたので、定量戦で同じように、とは簡単ではないかもしれませんが、やはり去年のソルヴェイグよりスプリンターとしての器は1枚上に感じるので、この感触は大事に保ちつつ、なんとか本番のゲートに入って、かつ勝負できるようなローテーションを組んで欲しいものです。

 2着のキングハートは、まぁこれだけ流れて隊列がばらければ、失礼ながら中谷Jでも捌けるよね、というところはあります。
 この馬も実力は認めていたんですが、どうしてもこのコースで内枠から捌けるイメージが持てなくて軽視したわけで、しかしペース判断からまるっきり間違えていたので、食い込まれても仕方ないか、とは感じます。

 あと適性面でも、少しこの馬の成長力を低く見積もっていたかなぁと反省しています。
 前走の京都1200m戦で、外目の枠から長くいい脚で伸びてきたのは強い競馬であり、かつ今日に関してはこの馬自身33,0-34,2で走破しています。
 近走の充実を支えていたイメージですと、ポジションを下げて後傾型にシフトした事で良さが出た、という感触で、その点もここで狙い辛い要因ではあったのですが、ここまで前傾ラップを踏んで、最後までしっかり食い込んでこられたなら、好走スポットを広げてきていると考えていいですし、今後の展望も大きく広がると思います。

 しかしこの血統、渋いですよねぇ。オレハマッテルゼにマイネルラヴとか、どちらもスプリントGⅠ勝ち馬ですけどひっじょ~に印象が地味ですし(マイネルはタイキシャトルを破った、という意味ではインパクト大きいですけど)、こういう馬が現代のスピード勝負の競馬で台頭できるのだから本当に面白いものです。
 この感じですと、今後も極端なスローペースに嵌らない限りは、ある程度どんな流れでも伸びてくる絵図を描けますし、高速馬場巧者の感も強まったので、そのあたりは注視していきたいですね。

 3着エポワスも、北海道1200m戦での安定度は買いつつ、それでもこの年で、かつ内枠だと綺麗に捌けても掲示板までかな、と甘く見てしまいました。
 しかし流石に百戦錬磨と言うべきか、このペースにも動じることなくしっかり自分の足は引き出してきましたし、9歳にしてなお意気軒昂ですね。
 今後も北海道1200m路線でしょうし、常に圏内に飛び込んでこられるかは展開面で心許ないですけど、紐で押さえておいて損はない、というタイプの馬でしょう。

 4着セイウンコウセイに関しては、戦前の懸念が半分当たり、半分は外れたというイメージです。
 まずスタートからのダッシュに関しては予想以上に鋭く、この超激流をシュウジの2番手で追走出来るとはちょっと思っていませんでしたので、ここで外を回される懸念はあっさり払拭されました。
 しかしもうひとつの、決定的な時計勝負になった場合の対処と、ハイペース耐性という点については、悪くはないけどやはりベストではない、という印象を受けましたね。少なくともここで圏内を外した以上、スプリンターズSでの乗り方には一工夫がいる、というのは確かになってくると思います。

 自身のラップとしては32,6-34,7と、都合2秒超えの前傾ラップを踏んでいて、流石にこれはややオーバーペースだったと言えると思います。
 強かった高松宮記念も自身は34,2-34,5とほぼフラットで、それまでのレースも自身は極端ではない平均寄りの後傾ラップを踏んで、直線での動き出しの良さや、コーナリングの良さで総合的に勝負してきた馬ですので、ここまで流れるとその長所が生かせなかったのは確かではないでしょうか。

 とはいえスプリント王者としては、一度はこういうガンガン飛ばす流れに付き合う競馬を試みる必要はあったと思いますし、まさか函館がここまで高速化するとは、という誤算はあったにせよ、少なくとも恥ずかしい負け方はしていないと思うので、当然巻き返しには期待ですね。
 むしろここで厳しいペースを経験した事で、更に一段強くなる可能性もありますし、ポジショニングは上手な馬ですから、流れとのバランスを上手く取っていければまず大崩れはしないタイプになっていくでしょう。

 シュウジに関しては、とにかく気分よく生かせるとスピードがあり過ぎるくらいあるのは確かなんですが、でもそれを前半で使ってしまうと後半の良さがまるで出ない、という部分が今日もはっきり露呈してしまったと感じます。
 自身32,2-35,5ですから明らかにオーバーペースですし、結局1200mですとどうしてもそろっと入っていけないと厳しいし、全体の流れが比較的落ち着いてくれないと、という意味で、そのスピード能力がスプリンターの資質と結びついていないように思えます。
 まあ今日は改めての真っ向勝負でしたし、これで結果が出ない以上また違う戦法を試すしかないでしょう。でも後ろからなら後ろからで、基本ちょっと足りないタイプとは思うんですよね。勝ち切る時は阪神Cのように馬場が渋っているとか、特殊条件が必要になってくるのかもしれません。でもまだ4歳ですし、長い目で見ていきたいですね。

 あとラストノボバカラが凄い脚で伸びてきててちょっとビビりました。。。
 今後ヒルノデイバロー2世になっていくのか、それともダート路線に戻すのか、正直今のダートスプリント路線は手薄なので、そちらの方が堅実とは思いますけどね。

 …………にしても、この函館の馬場本気で速過ぎますね。
 今ちらっと最終の結果見てきたら、まさかの野芝時代のボールドノースマンの不朽のレコードが、およそ30年ぶりに更新されているという事実に唖然です。しかも条件戦で、クロコスミアクラスの馬にですからねぇ。
 この馬場が今後も続くようなら、サッカーボーイの不滅の1,57,8まで破られてしまうかもしれませんね。

 ちなみに更に余談ですが、阪神も地味に超高速馬場なんですよねぇ。ブラックムーンの後半4F推定43,8ってなんじゃそら。まぁこういう馬場であれが出来るから魅力のある馬なんですけど。
 こんなに高速馬場のままで宝塚週、ってのも記憶にないですし、キタサンが淡々と刻んでいったらまたレコード更新してしまうかもしれませんね、今後の天気次第とは思いますけど。馬場が軽いのも面白さはありますけど善し悪しですよねぇ。

**★ユニコーンS**

 閑話休題。改めてユニコーンS回顧に移りましょう。

 まず今日の馬場ですが、昨日同様重そうですが時計はそこそこ出ているかな?というイメージで、どうにも掴みにくいのは確かなんですよね。
 7Rの500万下が36,3-12,3-36,7の平均ペースで1,25,3、注目の青梅特別が、アディラートが逃げて48,2-49,2とやや前傾の中1,37,4と平凡な数字でしたので、ここもそんなに時計が出るイメージは持ち辛かったです。
 ただ9R直後くらいから激しい雨が降ってきて、表記は良のままでしたが、ある程度表面が湿って走りやすい馬場に変貌していた可能性はあり、時計面からの優劣は明確には付け難いですね。とはいえ勝ち馬は圧倒的でしたが。

 展開としては、外から予想通りにテイエムが出していき、それに内から、大野J負傷で急遽内田Jに乗り替わったリエノテソーロが果敢についていきます。
 更にその内からシゲルコングが押して押して結果的にハナを取り切り、テイエムが番手外、その後ろにリエノとタガノ、という隊列になります。
 サンライズソアはその直後で虎視眈々、サヴィ、アンティノウス、ラユロットあたりが中団を形成して、やや一歩目が甘かったサンライズノヴァは中団のやや後ろ、外目からの追走になります。
 明確に出遅れたハルクンは後方インでじっと足を溜め、ウォーターマーズやサンオークランドあたりも後ろからのレースを選択しました。

 レースラップは34,1(11,37)-25,1(12,55)-36,7(12,23)=1,35,9(11,99)という推移でした。
 ハーフで見ると46,4-49,5と極端な前傾ラップで、青梅特別より2秒近く早い前半になっており、そこから12,8-12,7と大きく緩むも、この地点では後続はじわっと差を詰めている区間になります。
 その上でラスト2Fが12,1-11,9とラスト200m最速なのは、それだけサンライズノヴァが桁違いの脚で突き抜けたからですね。
 2着馬基準で見ればラスト1F12,6くらいにはなると思いますので、そこで見れば極端な前傾戦で、追走で削がれず一脚をしっかり使えた馬が台頭してきた、と言えるのですが、その上でノヴァは自身平均で入る事で切れ味と持続力まで引き出してきたわけで、これは本当に強い競馬でした。

 今まではある程度ポジションを取って入っていっていましたが、今日はやや出負けした事もありじっくり中団から、というのがまず良かったのかなと思います。
 自身の推定としては47,9-48,0くらいに見えて、それでもハロン12秒の最低限の追走力は問われていますが、これくらいで入っていくことと、後半じんわりエンジンをかけていくことで、後半要素を今までにないほど高めてきました。
 
 凄かったのは、コーナーの立ち回りはむしろ不器用な感じに大外を回されて、道中後ろにいたハルクンにそこでポジションを逆転されているくらいなのですが、そこから仕掛けて即座の反応の良さと、この重めの馬場での圧巻の切れ味です。
 残り400m地点で前との差は4馬身近くあり、レースラップが12,1なので、おそらくここでこの馬は11,4くらいの切れ味を引き出していると思えます。
 ラスト3Fは残り200mでもう先頭でしたのでラスト1Fはレースラップ通りと見て、大体12,1-11,4-11,9くらいで駆け抜けており、この切れ味と、ラストも11秒台を維持する持続力はちょっと破格です。カフジテイクを少し彷彿とさせる圧巻の差し切りでした。

 今の馬場で、多少雨が降ってかつ前傾戦とはいえ、36秒を切ってくるのも凄みがありますし、この競馬を見る限り距離延長にはさほど不安がないので、これはJDDに出てくるようなら不動の本命でいいのかなと感じます。大井の直線再加速パターンにバッチリ噛み合う脚の使い方が出来るタイプですし、その割にポジションにもある程度自在性があるので、これは本当に先が楽しみです。
 ただこれだけの馬が今まで勝ち切れていなかった面を踏まえると、機動力があるからと言って余計な動きをさせない方が当然ベター、というところはあるでしょうし、前傾戦の流れに自分から入っていく形ですとウォーターマーズにも負けている馬なので、その意味でも距離延長で追走面の不安を払拭しておく方が、とは思いますね。

 2着のハルクンノテソーロは、出遅れは痛かったですがそこからのリカバーは完璧に近かったと思います。
 道中かなり流れる中で序盤は無理せず後方、中盤の緩みに乗じてじわじわ内からポジションを上げつつ、コーナー出口でスッと馬群を上手く捌いて外目に進路を取り切ったのは実に田辺Jらしい機動性を重視したコース取りだったなと感じます。
 実際この分のプラスファクターで前走敗れたサンライズソアは撃破できていますし、この馬でも時計面ではまだ優秀な部類に思えますが、ちょっと今日は勝ち馬が破格でしたね。

 直線向いてからのどの地点でもノヴァには完敗ですし、器用さがある感じでも、切れ味が鋭いところもないので、距離延長は悪くないでしょう。
 ただ脚質的にどうしても勝ち切るには色々助けがいると思いますし、自分より前で競馬が出来て、後半要素の全てで上位のノヴァの牙城は当分重く圧し掛かるでしょうね。

 3着サンライズソアも、プレッシャーのかかる中で最低限の自分の競馬は出来たのかなと思います。
 結果的にかなり流れた中でやや強気に前を取り過ぎた、とは言えますがそれも結果論ですし、この馬の今までの好走パターンを踏まえれば王道の競馬は出来ているので、この力の要る馬場での前傾戦、という条件では上位2頭に完敗、と見做していいのでしょう。
 この馬も前走を見る限り最大の武器は軽い条件での持続力なのかな、と感じますし、ペース的には平均くらいの方が良さが出るでしょう。堅実さもあるので噛み合えば重賞のひとつくらいは手が届く素材ではあると思います。

 4着サンオークランドも中々面白い競馬をしたな、と思います。
 スタートからもっさりで道中も追走で手一杯ではありましたが、コーナーで外を回してノヴァの真後ろから追い出し、切れ味の差で一気に突き放されるものの、しかしラスト1Fはしぶとく伸びていて、もう少しでソアを食えるところまで食い込んできました。
 この感じですと絶対的な切れ味は足りないながら、持久力/持続力面で中々にいいものを持っているな、と思いますし、前走も中盤最速のタフな流れで早めの競馬からウォーターマーズを撃破しており、ラストみんながバテる中での差し込み力は今後も注意が必要かなと思います。
 ただしマイルでは決定的にスピード負けするので、距離は最低1800mは欲しいかなと思いますね。京都の1900mや阪神2000mで、極端に緩みがないパターンとか強そうです。

 5着タガノカトレアも、流石に前走は酷い競馬だったので、ここで改めて実力は見せてくれたかなと思います。
 このハイペースを前目で追走しつつも最後まで決定的にはバテていないですし、スタートからのポジショニングも上手いので、この馬は1400m路線で今後楽しめそうですね。
 もしくは1200mでも、ある程度位置でバランスを取れれば戦える素地はありそうですし、ただ今日はスピード型に不利な馬場にはなっていたと思うので、その中で同位置のリエノテソーロは撃破できているのだからまずまず、だと感じます。

 リエノテソーロは、枠の時点で難しい競馬になりましたし、積極的な内田J鞍上に替わって包まれないようにポジションを取りに行ったのは間違いではない、と思います。
 ただこの馬、アネモネSでもそうでしたけど、意外と前傾ラップに耐性がないのかな、という印象です。
 
 地方のダート2戦は流石に前傾戦でしたけど、結果的に相手関係がかなり楽なのはありましたし、芝でもすずらん賞もNHKマイルも、自身は後傾で入ることで一足鋭さを見せている、というところから、中央の軽めの馬場で高い追走力を求められると良さが出ないタイプ、と考えていいのではないかと思います。
 そうなると、中央のダート戦ですと狙い目が難しくなりますね。
 おそらく馬群の中からでも競馬は出来る素直なタイプとは思うので、どちらかと言えば序盤はゆったり入って後半の良さを引き出すバランスを模索しないと、とは感じますし、距離的にもマイルがギリギリ、というのはありそうです。
 追走面でタガノの方が上、というのが如実に結果に出ていますし、このあたりをどう糊塗していくか、またどういう路線を選択するかもポイントになってくるでしょう。少なくとも現状の追走力ですと、フェブラリーレベルで云々言える馬では決してない、とは付言しておきます。
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私的名馬列伝 第八話 サイレンススズカ

**★はじめに**

 もうすぐ宝塚記念、というのと、リクエストもいただきましたので、今回は稀代の快速馬、サイレンススズカの実像に今の視点から迫ってみたいと思います。
 20年近い年月を経ても、今なお色褪せない鮮烈な記憶と、非常に多くのファンかいる馬で、映像検索などしていても予想以上に沢山のレースを改めて見ることが出来、本当にその惚れ惚れするスピード感に酔い痴れました。

 3歳時と4歳時ではまるで別の馬、という部分もありますし、色々難しい部分もありますが、あくまで当時の私が見ていたサイレンススズカという馬の実像と、今の視点、特にラップ面から見たこの馬の特徴、強さに絞って語っていこうと思います。

 同馬の[生涯通算成績](https://keiba.yahoo.co.jp/directory/horse/1994103997/)16戦9勝2着1回で、この数字だけ見ると逃げ馬らしい強さと脆さが同居しているようですが、4歳時の成績は7戦6勝と、最後の競争中止を除けばパーフェクトな戦績で、それだけ馬自身が自分の能力を持て余してしまう性能を持っており、3歳時はそれを発揮し切れなかったのが伝わってきます。

 丁度[全レース収録した映像](https://www.youtube.com/watch?v=_jY54-dSuzQ)を見つけましたので、個々に貼るよりは、と思い先に出しておきますが、これを見ていても、新馬戦の頃、そして神戸新聞杯あたりでもまだ体つきには華奢さが目立っていて、それに比べて毎日王冠時の力感ときたら半端なく、冗談抜きでオーラが立ち昇っているように見えます。
 そういう馬体面、精神面での成長が、どのようにレースに影響を及ぼしていったかも考えながら、まずはレースぶりを追い掛けていきましょう。

**★新馬戦~ダービー <紙一重の天才性>**

 前回メジロドーベルの項でも触れましたが、このサイレンススズカがデビューした1997年は、たった2年で日本の競馬絵図をガラリと塗り替えてしまったサンデーサイレンス産駒の、その猛旋風がはじまる前に種付けされた最後の世代(=まだ評価が確定していない中で、種付け頭数や繁殖の質でも高くなかったと推測できるわけですね)になります。
 それ故にかこの世代には年が明けても、クラシック路線に目立ったサンデー産駒の台頭がなく、その中で遅れてきた大物ではないか、とデビュー前から囁かれていたのがこの馬でした。

 じっくり調整を進められ、2月初頭の京都1600m戦でデビューしたサイレンススズカは、その期待を遥かに上回るパフォーマンスを披露します。
 最内枠からポンッとスピードの違いでハナを取り切り、そのまま道中マイペースで逃げるも後続は追走に手一杯、直線は馬場の真ん中に持ち出して鞍上がターフビジョンを振り返る余裕があり、そのまま馬なりで7馬身差の圧勝を見せたのです。
 当時としては勝ちタイムの1,35,2は、新馬としては中々素晴らしいものでしたし、何より7馬身離した2着馬が、その後重賞2着3回といぶし銀の活躍を見せたパルスビートという点でも、この馬の傑出した能力が伝わってくるというものです。

 この勝利で、やや低レベルと見られていたクラシック戦線に真打ち登場、と騒がれる事になります。
 空気感としては今年の皐月賞前のファンディーナに向けられた期待に近いものがあるというか、底知れない強さで停滞感を打ち払ってくれるのでは、という期待感をたった一戦で誰しもに思わせる、そんな素晴らしい走りでした。

 その空気感に押されるように、サイレンススズカは2戦目に、牡馬クラシックの最大の登竜門、弥生賞に姿を見せます。
 しかしここでは、はじめての輸送などでレース前からナーバスになっており、若駒らしい脆さを露呈する事になってしまいました。

 スタート前にゲートで暴れて下から潜ってしまい、結果的に外枠発走に切り替えられたものの、そこでも地団駄を踏むように出を渋って、結局10馬身近い遅れをスタートで喫してしまうのです。
 それでもそこから天性のスピードですぐにリカバーし、勝ち馬ランニングゲイルが残り800mから捲っていくのについていって、4コーナー入り口では2番手集団まで上がってきて場内をどよめかせますが、流石に前半の無理が祟って最後は失速、8着に敗れてしまいました。

 この敗戦で皐月賞は断念となり、目標をダービーに切り替えての地元500万戦は、雨で渋る馬場をものともせずに楽々逃げ切って、改めて素質の違いを見せます。
 しかし、この年は皐月賞をサニーブライアンが逃げて勝った、というところも背景にあったか、ダービーまで逃げ一辺倒で共倒れになるより、距離伸ばす中で番手での競馬も出来るようにならねば、という思いが陣営にあったのか、次走のダービートライアル・プリンシパルSでは敢えてスタートから控えることになります。
 やはりそうなると道中走りに力みが抜けない感じもあり、直線向いてスッと一脚を使って先頭に躍り出るものの、内を掬った後の菊花賞馬マチカネフクキタルや、外から追撃してきたランニングゲイルにかなり際どく肉薄される薄氷の勝利でした。

 とはいえなんとかダービーのゲートインに漕ぎ着けることは出来ましたが、この時期の3歳馬に短期間に2度の東上は厳しい、と今でも言われるように、ダービーのこの馬も色々な意味で不完全燃焼なレースになります。
 中目の枠から好スタートを決めるものの、大外からなにがなんでも逃げる、と敢然とハナを主張した大西Jが駆るサニーブライアンの覇気に怯むようにスッと下げ、はじめて2列目ポケット、馬群の中での競馬を試みることになります。

 しかしそれだとどうしても力みが抜けるところもなく、直線坂地点でサニーブライアンが一気に引き離すところでもう余力なく、流れ込むだけの9着と、デビュー戦の時にかけられた期待感からすると尻すぼみの結果になってしまいました。
 このレースは本当に今から考えても、もしこの馬がハナを譲らなかったらどうなっていたか、というif話のネタとしては凄く面白いものがあります。
 絶対的なテンのスピードは確実にサイレンススズカの方が上だったはずですが、例えばそれで譲らず逃げたとして、この時点の完成度のこの馬が、適正面でもやや長い2400mを逃げ切れたとは流石に思いません。
 ただレースの流れは確実に変わったでしょうし、ハナを切れなかったサニーブライアンが、番手外からでも同じような走りが出来たかも未知数で、当時はメジロブライト贔屓だった私としては、もっとガンガン逃げてハイペースにしてくれよ~、と恨み節をぶつけた記憶があります(笑)。

 ともあれサイレンススズカの3歳春は、折々に素質の一端を煌かせつつも、それが噛み合うことなく終わってしまった、と言えるでしょう。

**★神戸新聞杯~香港カップ <試行錯誤の先の光明>**

 夏を充電に充てたサイレンススズカは、この秋こそその才能を満天に示すために、まずは同期を相手に重賞制覇を目論見、当時は2000m戦だった神戸新聞杯に出走します。
 ここでは好スタートからハナを切る本来のスタイルに戻し、休み明けで馬も気分良く逃げており、直線で後続をスッと引き離した時には完勝に思えました。

 鞍上上村Jもそう考えたのか、残り200mあたりからそこまで必死に追っていない感もあったのですが、しかしそれは大きな油断で、外から1頭、矢のような勢いでマチカネフクキタルが飛んできます。
 それを見て慌てて追い出すも勢いの差は歴然で、ゴール前で一気に差し込まれて2着となり、惜しくも初重賞制覇を逃す形になります。
 これが今の時代の観点で油断騎乗になるかは見解は分かれると思いますが、少なくともこのレース以降、上村Jがこの馬に乗ることはなかったのを鑑みると、とは思います。当時も結構パッシングがあった気がしますしね。

 しかし、馬自身は夏を超えて一回り成長した感を見せ、これならと陣営は強気に、勇躍適距離を求めて古馬相手の秋の天皇賞挑戦を決めます。
 結果的にエアグルーヴとバブルガムフェローの死闘になったこのレースで、サイレンススズカは外連味のない逃げを打ち、直線入り口まで大きく差を広げて場内をどよめかせるものの、残り200mで力尽き6着と、健闘虚しく掲示板を外す結果となりました。
 このレースに関しては、後で触れますがラップ的な観点からはあれっ?と思うところはあり、その違和感がこの馬の古馬になってからの成長の意味を考える上でも大切になるかなと考えています。

 ともあれ、古馬最高峰への挑戦は玉砕に終わり、ならばそのスピードを生かす上でマイル戦はどうだろうと、マイルチャンピオンシップへの出走を決めます。
 しかしここには、天敵とも言うべき天才的な前傾型スプリンター・キョウエイマーチがいました。
 相手の方が外枠だったにも拘らず、最初の数完歩で楽に前に出られてしまい、内外を入れ替える形で二番手追走を余儀なくされますが、この時のキョウエイマーチが刻んだラップはえげつないものでした。
 半マイル通過44,6という、スプリント戦でも中々見ないレベルの猛ラップをピッタリマークしていった事で、サイレンススズカは直線を向く前にもう余力なく、ズルズルと馬群に沈み生涯最悪着順の15着でゴールするのがやっとでした。

 しかし今見ても、このレースで4番手追走から余裕綽々で抜け出したタイキシャトルって化け物だよなぁとつくづく思います。
 追走力の高さ、という観点ではここからも色々考える余地はありそうで、そのあたりの能力分析は最後にまとめてやりますが、少なくとも前傾のマイル戦で、完全に息の入らない流れになってはサイレンススズカには苦しかった、と見ていいでしょう。
 そしてこのGⅠ2戦はベテラン河内Jの手綱でしたが、次走の香港遠征から、最高のパートナーになる武Jに手綱が委ねられることになります。

 その香港カップに関しては、まさか今の時代で動画が見られるとは思ってなかったので(というか当時もちゃんと見た記憶はない)嬉しい限りですが、ラップが出ないので正確なところはなんともですけど、少なからずその後の快進撃を予感させる、この馬なりにバランスのいい走りは出来ているなと感じます。

 スッとハナを取り、前半はスピードに任せて進めて、コーナーで少し引き付けつつ直線入り口でしっかりもう一足を使えており、ラスト100mまでは先頭でしたが、最後はバテて一気に差し込まれ5着という結果、しかし世界の強豪相手にこれは、この時期のサイレンススズカとしては健闘と呼べる走りだったのではないかと思います。
 実際に記憶はあやふやですが、このレース後に武Jが、この馬の乗り方がわかった、という趣旨の発言をしていたと思いますし、そして1998年の競馬史には、そのサイレンススズカの乗り方に徹した事による栄光の軌跡が刻まれる事になるのです。  

**★バレンタインS~小倉大賞典 <ベストの中のベストを求めて>**

 サイレンススズカの古馬シーズンは、寒風吹きすさぶ2月のOP特別から始まりました。
 …………というか、またちょっと余談ですけど、この馬って本当に能力が有り余っていたというべきなのか、すごくタフな馬でもありますよね。
 3歳春デビューでダービーまで5戦、秋も位の高いレースにばかり挑戦し、最後は香港遠征までして4戦、そこから2ヶ月空けずにここに出てきて、この春も5戦する事になるのですから、今の一流馬では中々見られないタイトなローテーションです。それだけ身体能力がスバ抜けていた、という証左でもあるでしょう。

 とにかく、歴戦の疲れも見せずに元気いっぱいのサイレンススズカは、出直しのこのOP特別で素晴らしい逃げを打ちます。
 序盤からぐんぐん飛ばして大きく後続を放し、その上で直線手前でしっかり息を入れて、そこから再加速して後続を4馬身つき放すという、今までとは一味も二味も違う大人のレースを見せたのです。

 かくして、改めてこの馬への期待が高まってきた中で、しかし次走の中山記念は苦戦を強いられます。
 スタートから飛ばしていくのは当然なのですが、このレースでは上手く道中で息を入れるところがなく、直線ではかなりいっぱいいっぱいになっていて、なんとかそこまでのリードで粘り切った、という粗い競馬になってしまいました。
 ラップという観点を持っていなかった当時の印象でも、明らかにこれは暴走してない?と思いましたし、実際に上の映像にレース後コメントが入ってるんですけど、武J自身もこれは上手くいかなかった、という趣旨のコメントを出してます。まだこの時点では、一定のスタイルは確立したけれど、その中での最善を馬自身が体得し切るところまではいっていなかったのかな、と感じますね。

 しかし次走の小倉大賞典では、改めての強さを見せつけました。
 この年は小倉競馬場の回想で代替中京開催でもあり、左回りのコースを求めてここ、という事だったのでしょう。
 外枠から好スタートを決め、最初のコーナーの入りまでそこそこ内の馬に抵抗されるも、それを振り切ってハイペースの逃げを打っていくサイレンススズカは、3~4コーナーで息を入れて直線も余力充分、57,5kgの斤量もものともせず、楽に3馬身突き放してのレコード勝ちを収めたのです。

 そして、ここまで三戦はすべて勝ち切ったとはいえ、全部1800mのレースでした。
 しかしこの年の最大目標を秋の天皇賞に置いている同馬にとって、ここからの距離延長は課題になってきます。
 実際に去年の秋天はラスト1Fで大失速だったり、神戸新聞杯でも最後フクキタルにズバッとやられていたりで、果たしてこれだけスピードのある逃げ馬が、本格化を果たしたと言ってもあと1Fの延長を失速せずに凌ぎ切れるのか?
 次走金鯱賞は好メンバーが揃っていたこともあり、レース前はこの話題で賛否真っ二つ、という感があり、とにかくこの時期、話題性という点では事欠かない個性派の誕生に誰しもが注目していた、と思います。

**★金鯱賞~宝塚記念 <震駭の完成体、無限の可能性>**

 この年から、宝塚記念の前哨戦として金鯱賞がGⅡに格付けが上がり、それだけに出走メンバーも今までのレースとは段違いのものになりました。
 サイレンススズカ同様に連勝を続けてきた上がり馬のミットナイトベット、藤沢ブランドで大器晩成を予感させるタイキエルドラドに、去年の菊花賞以来とはいえ実際にこの距離でサイレンススズカを撃破しているマチカネフクキタル、芝でもダートでも堅実に走る個性派トーヨーレインボーなどが、このレースでサイレンススズカのライバルと目されていました。
 …………なんかこう、いま改めて並べて見ると、後々の成績を考えればそこまで大したメンバーでもないんですけど、この時点ではこれら全ての馬に未知の魅力、大きな可能性が感じられて、戦前非常にワクワクした組み合わせだったことは間違いありません。
 
 しかし、大混戦という戦前の下馬評とは違い、いざレースが始まってしまえばサイレンススズカの独壇場、一人舞台でした。
 迷いなくハナを切ったサイレンススズカは、淡々と自身のペースを刻み、後続を大きく引き離しての逃げを打ちます。
 3~4コーナーでこの馬なりに息は入れるものの、それでも序盤のリードが大きくコーナーでそこまで差が詰まることもなく、そして直線向いてもう一段階の加速を見せたサイレンススズカの完璧な走りの前には、他の8頭は正になす術もなく敗れ去るしかありませんでした。 

 まぁこれも今の観点で見れば、基本的に後ろのメンバーで2000mのスピード勝負で追走面に担保があったのはトーヨーレインボーくらいのものでしたし、けどこの馬ですらある程度追い掛けたことで最後潰れてしまった、と思えば、あの位置取りの差でも後続に足を使うレースをさせてしまっていた、と解釈できますし、その面で足りない馬、もうちょっと距離が欲しい馬ばかりが揃っていた分のあの着差、というのはあると思います。
 それでも、この時代に前傾ハイペースで逃げて、1,57,8という猛烈な時計を出してくるのは異次元レベルだったのは間違いなく、その本格化が極まった走りは、競馬ファンの大半を震駭させた、と言って過言ではないでしょう。これも後で触れますが、明らかに1800mよりは2000mの方が強かったと思います。

 そして、この圧勝の結果を受けてファン投票の支持も高まり、余勢を駆る感もありながら、サイレンススズカは宝塚記念にエントリーする事になります。
 しかしこのレースでは、今年の快進撃を支えていた最愛のパートナーである武Jにエアグルーヴの先約があり、一戦限りの代打としてベテラン南井Jに白羽の矢が立ちました。

 乗り替わりとなり、春5戦目の過酷なローテーションでも、もはや完成されたサイレンススズカは手の付けられない強さを発揮します。
 スタートから自分のリズムでの逃げはいつも通り、コーナーで後続を引き付けて直線でもう一伸びするレースに徹し、最後の坂で少し鈍って追随を許すものの、それでも金鯱賞より更に華やかで豪華なメンバーを相手に堂々の逃げ切りを果たして見せたのです。
 結果的にこの馬が制したGⅠはこのレースだけ、ということになるのですが、本当に戦歴的にはGⅠ1勝馬、とはとても思えない様々な物語性が付随している馬ですよね。
 ここでも乗り替わり、距離延長を見事克服し、まずは大目標の秋の天皇賞に向けて視界良し、その後の無限の可能性を誰しもに高揚と合わせて想像させる、それだけの牽引力を備えたスターホースに、この段階で完全に昇りつめたといっていいでしょう。

**★毎日王冠~天皇賞・秋 <サラブレッドの理想形、スピードの向こう側へ…………>**

 春の宝塚記念で古馬の一線級を一蹴したサイレンススズカに、この天皇賞の前哨戦となる毎日王冠では、2頭のマル外の怪物が虎視眈々と牙を剥いて待ち構えていました。
 上でもチラッと触れたタイキシャトルなど、この時期はマル外の全盛期とすら言える強豪が犇めいていて、当時は出走制限が大きかったのでレース選択にも不自由さはありました。
 春シーズンを怪我で全休していたグラスワンダーも、春のNHKマイルCを破天荒な競馬で圧勝したエルコンドルパサーも、同期との戦いをスキップして、ここで古馬最強のサイレンススズカを倒すことで現役最強を誇示する事が、その鬱憤晴らしに相応しい――――ファンの視点としても、この挑戦はそんな風なイメージを持ちました。

 実際にこのレースは今でも伝説のGⅡ、伝説の毎日王冠と呼ばれ続けていますが、その主役はどこまでもサイレンススズカでした。
 初めての59kgという酷量を背負いつつ、開幕週の府中の良馬場をすいすいと、いつものペースで逃げていくサイレンススズカに、しかしこのレースでは後続が早めに追いかけて、決して楽はさせないと必死のマークを繰り出してきます。
 4コーナー手前では一気にグラスワンダーが追い上げていってプレッシャーをかけますが、しかしそれすらも涼しい風、直線坂地点で鋭く伸びたサイレンススズカは、しぶとく追撃するエルコンドルパサーを楽に2馬身半退けて、圧巻・盤石の勝利で前哨戦を飾りました。

 個人的に、エルコンドルパサーという馬が実際にどのくらいの距離がべストだったのか、というのは今でも掴み切れていないのですが、それでもマイルGⅠの勝ち馬をスピードで楽々振り切る芸当は本当に凄まじく、この時点ではそれこそマイルから2400mまで対応できるのではないか、と思わせる凄みを全身から立ち昇らせていました。
 このレース後の武Jのコメントなどは本当に滑らかで、中山記念の頃とは全く馬が違う、自信に満ち溢れた雰囲気を醸しており、この時点で誰しもが秋の天皇賞の勝利を疑いませんでした。

 そして、1998年11月1日。第118回天皇賞・秋の開催日は絶好の好天でした。
 今以上に外枠不利だった府中の2000mで、逃げ馬にとっては絶好の1枠1番を引いたサイレンススズカは、当然着順も1であることを誰しもに予感させました。
 レース前の武Jのリップサービスも快調で、オーバーペースで飛ばす宣言など、最初から負ける可能性など微塵も考えていないように見えましたし、他陣営もほとんど最初から白旗状態、頭数も12頭立てと寂しいメンバー構成ではありました。
 今年の宝塚なんかでもそうですけど、戦前から圧倒的に強いと思われる馬がいると少頭数になってしまうのは仕方ない事なんでしょうね。

 周囲の思惑はどうあれ、サイレンススズカは自身にすべきことは、ただ自分のリズムで逃げて押し切るだけ、でした。
 ゲートが切られ、前半は宣言通り、いつも以上に大きく後続を離していて、靄にけぶる府中の中、テレビのレース画面の上の全頭カメラが遠望になり過ぎて、どの馬がどこにいるか判別できないくらいの大逃げでした。
 これはきっと金鯱賞の再来、GⅠ史上の歴史に残る圧倒劇になる――――誰しもがそう信じ切っていた大欅の向こう側で、しかし残酷な運命が牙を剥きます。
 突然ガクッと躓いたサイレンススズカは、そのままゴールすることなく立ち止まり、スタンドがレースの結果そっちのけで静まり返り、注視を集める中で、痛々しい姿を曝しながら馬運車で運ばれていったのです。

 それが、ほとんど全てのファンにとって、サイレンススズカの最後の姿になりました。
 あらゆる夢も、希望も、期待も、全てがスピードの向こう側に溶けて消え去ってしまった――――あの日の虚無感は、当時の競馬ファンなら多かれ少なかれ今でも抱き続けるものであり、この馬の幻影を求め続けてしまう要因になっているのでしょう。
 去年のエイシンヒカリの熱狂などもそういう心理が根底にあると思いますし、時代を、世代を超えて愛される名馬だったことは疑いの余地のない事実だと、改めて振り返ってみてしみじみと感じますね。

**★能力分析**

 この馬の能力を分析するには、レース全体のペースバランスから見た追走力という観点と、競走馬にとっての息を入れる、という状態がどのようなもので、どれくらいの緩みを必要とするのか、という部分を改めて考えてみないとならないと思います。
 一応私なりの定義としては、以前書いた[先行力・追走力について](http://www.plus-blog.sportsnavi.com/clover/article/22)と、[息が入る見極めについて](http://www.plus-blog.sportsnavi.com/clover/article/48)の二つの記事を参照していただければ、と思うのですが、この馬はこの観点において、極限まで高い能力を有していた、と私は考えます。
 加えて、プラスアルファというか第二の武器として、加速力の高さも上げられるでしょう。この辺りの観点で、この馬の3歳時からのレース内容には一定の説明が見出せるかなと感じていますので、細かく見ていきましょう。

 まず、古馬になってからの一連のレースラップを見てみると、武J本人が上手くいかなかったと認めている中山記念以外では、かなり顕著に特徴が出ています。
 全部ここに数字を乗せると煩雑ですので、気になる方は戦績リンクからそれぞれ拾って見比べていただければ、と思いますが、特徴的なのは3点あります。
 
 第一に、前半1000mがほぼ57秒台から遅くても58秒半ばまでで集約している事。
 第二に、後半の早い段階で1~2Fは12秒台前半のラップに落として、おそらくここで息を入れている事。
 第三に、直線の再加速は、ほぼ全て残り400-200m地点が最速になるようにコントロールされている事。

 これを個々に紐解いていくと、まず前半のペースは、この馬の持つ追走力をギリギリまで追及した上での数字、という印象です。
 逃げ馬に対して追走、という言葉を使うとやや据わりが悪いのですが、これは以前に定義した通り、レースバランスの中でどのくらいの前傾までなら後半の持ち味を引き出してこられるか否かの、分水嶺を示す指標です。加えて、絶対的な速度面での限界も同時に見ています。

 私の観測ですと、サイレンススズカの追走面でのベストなバランスは前傾2秒くらいで、おそらくこれが2秒後半か、或いは1000m通過で57秒を切ってくると厳しくなる、というところだと思います。
 レースの距離が違うので完全に決めつけにくいですが、1800m戦は真ん中の1Fを抜いて前後半4F、宝塚記念も真ん中を抜いて前後半5Fで見ていくと、バレンタイン2,6、中山記念3,6、小倉大賞典2,6、金鯱賞1,6、宝塚記念2,6、毎日王冠1,1という前傾数値になります。

 こう見ていくと、1800mですとどうしてもある程度他の馬も速い分、前傾の度合いが上がっていて、その分息を入れるタイミングも難しく、結果的にややオーバーペースになっている感があります。
 それでもバレンタイン・小倉はギリギリの範疇ですが、明らかに前傾が強すぎる中山記念がああも危うかったのも、この観点で見ればはっきりするところかなと考えます。

 そう考えると、金鯱賞がやはりペースバランス的にも、後述する息の入れ方にしてもベストだと思えますね。あれだけ強かった毎日王冠は、馬場が良かったこともあり、実はこの馬にとっては前半のペースが緩かった、という結論になりますし、その分だけ他の馬も追走が楽だった、と考えられます。
 宝塚記念に関しても後述しますが、結論だけ先出しすれば息を入れ過ぎてその分ラップが落ち過ぎた、と見ていいと考えており、あのレースもそれ以外のバランスとしてはほぼ完璧だったのかなと思いますね。

 ともあれ、この馬自身のギリギリの前半の入り方を模索していく中で、そのペースが他の馬にとっては確実にオーバーペースであり、序盤で影を踏む事すらほとんど許さなかったというのが、この馬の最大の強みだったのは間違いないでしょう。
 しかしマイル戦線に入っていくと、それこそキョウエイマーチのようにこの馬よりテンのスピードが速い馬はいないわけではないので、その点相手関係に左右される度合いが大きくなったはずです。
 結果的にあのマイルチャンピオンシップで、オーバーペースで惨敗したからこその中距離専念でしたが、もしもあのレースが常識的に46,5-47,0くらいのペースだったとしたら、あの時期のこの馬でもハナを切れていれば結構戦えてしまっていたはずで、そうなるとその後の路線も変わっていた可能性も否めず、ここは文字通りキョウエイマーチの隠れた功績なんじゃないかと思いました。。。

 古馬で完成されてからなら、逃げる競馬に徹すればマイルでも普通に強かったとは思いますが、マイル戦でだと相対的に前傾1,5秒くらいのペースまでしか許容出来なかったのではないか、と思いますし、息を入れるタイミングも1800m以上に難しくなるので、これほど安定した戦績は残せなかっただろうとは感じます。 

 次いで2つ目の、息の入れ方についてですね。
 この観点はおそらく外野の認識と、乗り役や馬に関わる人の観点では大分差異がありそうで、もし詳しい事がわかる人がいれば教えて欲しいくらいですが、あくまで傍から見た限り、ある程度ラップを落とすことで楽走に持ち込み、その間に息を整えて、勝負所の無呼吸スパートに備えることが可能になる、というイメージです。
 ただこの息を入れるバランス、分水嶺ってのは、おそらく馬の個々の能力にも関係してくるところでしょうし、過去記事ではある程度一定の目安を出していますが、トップクラスの馬になればなるほど、その点でも幅は広く持っている、と見ていいと思います。

 この馬に関しては、古馬になってから息の入れ方をようやくまともに覚えてきた、くらいのコメントが出ていましたし、3歳時のレースは多かれ少なかれ力みを感じるところは確かにありましたので、肉体面・精神面での進境がそれを可能にした、という観点は成立すると思いますし、ラップ的な観点で見れば不可解な負け方の、3歳時の秋天などもそれで説明がつくのかなと感じます。
 とにかくこの馬の凄いところは、レース全体を高速化してしまう中で、序盤1000mは一気に飛ばした上で、自身は概ね12秒ちょっとのラップに1~2F落とせば息がしっかり入り、後半の再加速が可能になるという心肺能力の高さです。

 ただ、この観点でも1800mだと少し忙しいところはあります。
 1000m飛ばして、そこからペースを落とすとすぐに勝負所のラスト600mで、あまり引き付け過ぎると後続に隙を与えてしまうので、どうしても1F~1,5Fくらいしか息を入れられず、それだと後半要素を完璧に引き出すのはやや難しい、というところはあったと感じます。
 バレンタインSなどもラストの落ち幅が大きめですし、小倉大賞典は逆に、中山記念の暴走の後で慎重に、というのもあり、2F息を入れて引き付けてのラスト200mが最速ラップ、というやや変則パターンを刻んでおり、けれどこれが次の金鯱賞の伏線になっています。

 要するに金鯱賞は2000mで小倉大賞典のラップ推移をより研ぎ澄ませて再現した、と言えるでしょう。
 1000mはしっかり飛ばしてリードを作り、そこから2F最低限ラップを落とし、けどそれでしっかり息を入れて、400-200m地点でしっかり加速しこの馬の脚を存分に出し切った結果があの大差勝ちであり、そりゃゴール前でガッツポーズするわ、と思わざるを得ないほどに見事な、この馬の為のベストのラップになっていると思います。

 宝塚記念に関しては、後半5Fが12,5-12,4-12,8-11,2-12,3という推移で、これは前記の条件を加味して考えると、1F息を入れるのが長かったし、そのラップも落とし過ぎた、と見ていいと思います。
 不必要に緩んだ分だけ、後続が3~4コーナーで取りつく余地を与えてしまっているわけで、上でも触れたようにこの馬はスタートダッシュが得意な馬特有の後半の加速力も持っていますので、自身1,6の急加速でもう一度突き放し、そのリードで押し切ることには成功していますが、少し危うさのある騎乗だったのは確かでしょう。

 あくまで理論的には、ですが、2Fしっかり息を入れたなら(厳密には1000-1200m地点も12,1なので、少し落としてはきていますし)、600-400地点の12,8は遅すぎで、ここではもうじわっとペースを引き上げて良かったと思います。
 そうすれば12,0-11,6-12,3くらいで走れたイメージはありますので、それだったらもっと楽に勝っていた計算になります。少なくとも武J継続だったらそういうふうに乗ったんではないかな、と感じますね。

 少なくとも距離延長に関してはあまり不安は感じなくて、2200mなら3F、2400mなら4F12秒ちょっとのラップを踏んでも、易々と後続が押し上げてこられるわけでもないので、JCあたりまでなら同じ乗り方にプラスアルファの工夫でも、距離短縮よりはなんとかなったんじゃないかと個人的には思います。
 むしろこの馬が出てハイペースになった、エルコンドルパサーとスペシャルウィークとエアグルーヴがいるJCとか、どれだけ面白いレースになったかって今更に思っちゃいますね。

 閑話休題、話の流れに戻って毎日王冠に関しては、このレースも息を入れるのは1Fだけに留められていますが、結果的に前半のペースが楽だったことで後半要素を高めてきた、と見てもいいのではないかと思います。
 このレースはラスト3Fが11,6-11,4-12,1という推移で、これまでのサイレンススズカだったら11,6地点でもう最速ラップになっていたと思うのですが、ここからもう一段加速する余地があったのは凄いところです。
 これはある程度後半型の競馬でも戦える可能性を示していて、その意味でも距離延長は噛み合う可能性が高かったと感じるんですよね。逆に1800mでも、高速馬場でない状況でガンガン飛ばす形だと苦しいわけで、やはり完全体として最高の条件を考えるなら良馬場の2000~2200mになってくるのかなと思います。

 これは本当に余談ですが、もしも最後の天皇賞を走り切っていたらどうだったか?は誰しも考えると思うので、この流れでついでに私なりの見解を出しておきます。
 まず前半1000m57,4ですので、これは結構この馬のギリギリを攻めていた感はあります。
 ただしそこから次の1Fは12,1としっかりペースを落とし、息を入れる態勢に入れていたので、それを踏まえればあのペースでも失速する可能性はまずなかったと思います。
 毎日王冠ほどの後半要素は引き出せずとも、後半12,1-12,2-11,8-11,5-12,3くらいなら楽に踏んでこられたと見ますし、それだと1,57,3、前傾2,5とややギリギリですが、この馬のポテンシャルを完全に出し切る競馬になっていたかなと。
 上の動画の最後にも、武Jの2秒は話して勝てた、という逸話に触れていましたが、一連の流れから踏まえた能力分析でも、その体内時計のイメージと合致する数字になったので(このレースの勝ち時計が1,59,3なので)、個人的には凄く説得力を感じますね。

 最後に、これは上の2つの凄さがあればこそのことですが、常に仕掛けどころが遅いという点についてですね。
 これは逃げ馬の宿命として、早めにつつかれると仕掛けを早くしなくてはいけなくて、その分早々に足を使い切って失速してしまう、という逃げ馬特有の大敗メカニズムから、この馬が無縁であった証左とも言えます。

 実のところこの馬も、後半要素の面で言えば一瞬いい脚は使えるけれど、持続力面ではイマイチだったと個人的には思っています。
 それは3歳時のレースにも見えていて、新馬戦は除いて、圧勝した500万戦や、なんとか勝ち切ったプリンシパルSなどは、スローペースではあるのですけど仕掛けが遅く、加速度の高い400-200m地点最速ラップになっていて、これがこの馬の特性に噛み合った結果なのでしょう。
 逆に600-400m地点が最速ラップになっている神戸新聞杯は、油断騎乗的な側面もあるでしょうけど、結果的に仕掛けが速くて失速も早く、その分最後に一気に来られた、と見ると結構納得がいくところがあります。

 3歳時の秋天に関しては、結果的に馬場が良かったのに時計的にはあまり出てないレースの中で、この馬にとってはまだ緩いペースだったことと、ラップ的には落としているけどこの時期はまだ息の入れ方が上手くなかった事、そのせいで持ち味の加速力を直線で引き出せなかった事が複合的に作用しての負けかな、と考えます。

 ともあれ、逃げ馬にとって息の入れ所や仕掛けどころが安定しない、というのは、それだけで成績が安定しない理由に直結します。
 しかしサイレンススズカは、序盤にペースを引き上げて大きなリードを作っても大丈夫、という特性を生かし、息を入れるタイミングや仕掛けどころまでも自分の思い通りに紡げたわけで、息が入ればあのペースから差し馬並の切れ味を引き出せるのですからそれは鬼に金棒、武Jがサラブレッドの理想形と口にした気持ちもさもあらん、というところですね。

**★終わりに**

 以上、サイレンススズカの事績と、その能力、強さの秘密を私なりに探ってみましたが、いかがでしたでしょうか?
 勿論私もずっと規格外の馬、というイメージは持ち続けてきましたが、こうしてきちんと分析して見ると改めてこの馬の強さに身震いしますし、けれどそれを完璧に引き出せる騎手との出会いも大切なんだよなぁ、とも思わせられます。
 しっかりペース判断が出来て、かつ馬自身のギリギリのバランスを強気に渡っていける全盛期の武Jでなければ、ここまで記憶に鮮烈に遺る名馬にはならなかった、とは痛切に思います。

 今現在、距離適性は違えどキタサンの春天などはそういう部類、序盤からペースを引き上げ、息を入れるのも最低限で、それでも後半要素をしっかり引き出せる強さを見せており、それを踏まえるとあの春天後のレースコメントも一段と深みを感じます。
 流石にキタサンはスズカほど追走力の分水嶺が高くはないと思うので、それが遺憾なく生かせるとしたら2400m以上にはなってくるでしょう。
 去年の宝塚が2200mでハイペース、それでラストやや甘くなる競馬だったので、今年はどのくらいのバランスで入ってくるのか、勝ち負けもそうですが、理想の逃げ・先行馬の階に足をかけていると思えるところでのレースプランには大いに興味が湧きますね。

 その上で、今現在も個々にはそれなりにハイペース耐性の高い馬は結構潜在的にいるとは思います。
 だけどどうしてもスローペース症候群が蔓延する中で、馬自身の理想のペースバランスを強気に追いかけていけるだけの乗り役がいなくなってきてしまっている、とは感じるところで、一時強いハイペース逃げを見せた馬でも、その後のレースプランにそれを生かせていない状況などを見るともどかしくは思います。
 勿論そうやって極限までスピードを追求するのが、競走馬の競争生命に対していいことなのか、というのは、サイレンススズカの最期を鑑みてもあまり無邪気に推奨できる事ではないかもしれませんが、しかしそれを全うして大成する可能性があるなら、とは考えてしまいますね。
posted by clover at 04:07| Comment(0) | 名馬列伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする