2017年01月01日

私的名馬列伝 第一話 ライスシャワー

**★はじめに**

 競馬ファンにとって、誰しもこの世界にのめり込むきっかけとなった馬はいると思います。
 列伝の一回目にこの馬を持ってきたのも、私にとってそういう思い入れ補正の非常に強い馬であるからです。

 最初なので少し個人的な話題を語らせていただきますが、平たく言えば何人かの友達と共に、その内の一人の父親に連れられてはじめて競馬場に赴き、そしてお遊びでみんなダービー100円分だけ買っていいよ、と言われて。
 その時点ではほとんど競馬の知識皆無だったので、単純に語感がいいからとライスシャワーを選んで複勝を買ってもらい、そうしたらものの見事に穴馬券だった、という、なんというかあまりにベタベタ過ぎるビギナーズラックではありました。

 でもあの日、自分の選んだ馬が、スタートから圧倒的一番人気だった馬の直後を走って、そして最後まで粘り通してくれた時の興奮が、その配当でみんなにささやかなご馳走をした誇らしさが、私の競馬に対するとびきり鮮烈で好印象な原体験なのは間違いなく。
 それから四半世紀、折々でその熱意の程度に差は出たものの、競馬は常に自身の趣味の大きな一角を占めることになったのです。

 今回の列伝では、そんなライスシャワーの競走馬としての歩みを、そして改めてのその能力分析を綴ってみようと思います。
 [ライスシャワーの生涯戦績](http://keiba.yahoo.co.jp/directory/horse/1989107699/)はこちら、25戦6勝と数字上の安定感はなかった馬ですが、その中のGⅠ3勝が全て3000m超のレースで、かつミホノブルボンの3冠と、メジロマックイーンの天皇賞・春の3連覇を阻むジャイアントキリングが含まれている事で、稀代のヘビーステイヤーとして、そしてレース中に命を絶った悲劇の名馬として記録より記憶に深く残る競走馬です。

 ではまず、いくつかの期間に分けてその歩みを振り返ってみましょう。


**★デビュー~ダービー<才能の萌芽>**

 将来の名ステイヤーの割にデビューは早く、当時の馬齢で3歳の夏、新潟の1000m戦でした。
 ここでは好スタートから番手をスッと確保し、逃げた馬を何とか交わしてデビュー勝ち、結果的に相手関係に恵まれていたし、減量騎手の恩恵もあっての勝利、という感じで、余勢をかって挑んだ新潟2歳Sでは内枠からポジションが取れずに揉まれて惨敗。秋の手薄なOP戦、芙蓉Sでもレースセンスの良さを見せてなんとか勝ち切るもののそこで骨折が判明し、4歳の春まで雌伏の時を過ごします。

 OP勝ちの賞金があったことでクラシック路線に乗れ、スプリングS、皐月賞と好位での競馬を展開しますが、稀代の快速逃げ馬ミホノブルボンの前に為すすべなく破れ、ダービーの権利を狙ったNHK杯でも、外枠も祟り好位から動けず完敗、辛うじて賞金でダービーの出走に漕ぎ着けたものの、ここまでの戦績では16番人気、という評価も妥当だったでしょう。

 しかし次走の[日本ダービー](https://www.youtube.com/watch?v=00I36DK_0Zs)、ほとんどの馬が未知の距離で、ライスシャワーは後の名ステイヤーとしての片鱗を見せます。
 好スタートからブルボンの番手につけ、タフな馬場でブルボンが淡々と刻むのを果敢に追走、直線に入って坂で一気に突き放され、いったんは後ろから来たマヤノペトリュースにも差されるものの、坂上からしぶとい粘りで差し返し、見事に2着をもぎ取ったのです。

 ここまでで常にレースセンスの良さは見せてきたもののあと一押しが足りない馬だったライスシャワーは、距離延長をものともしない豊富なスタミナと粘り強い根性を見せて、この世代の打倒ミホノブルボンの一角として名を知らしめたのです。

**★セントライト記念~天皇賞・春<鮮烈なる刺客>**

 夏場を休養に充てたライスシャワーは、セントライト記念から始動。
 ここでは夏の上がり馬レガシーワールドを僅かに捉えきれなかったものの、ダービーが決してフロックではないことを証明し、勇躍西上してミホノブルボンが待つ京都新聞杯に出走します。
 ここでも快速を生かしてブルボンがレコードで快勝するものの、ライスシャワーも好位から直線でジリっと差を詰め、ダービーの4馬身からその差を1馬身半にまで縮めて、大きな手応えを得て[菊花賞](https://www.youtube.com/watch?v=Js_pOEVlHqI)を迎えます。

 このレースの注目は、当然ブルボンが無敗の3冠達成なるか、でした。
 新馬戦以来逃げ戦法を続けてきたブルボンに対し、キョウエイボーガンが玉砕逃げを示唆し、実際にレースもボーガンの大逃げ、それをブルボンが追いかけて、後続はかなり縦長になる中で、ライスシャワーは5番手で虎視眈々と進出の機会を伺います。
 中盤でじわっと前との差が縮まって、坂の頂上から動き出して直線入り口で敢然と先頭に立ったブルボンに対し、外から鋭く襲い掛かるライスシャワー、しぶとく粘り込むブルボンを残り100mできっちり捉え、場内の悲鳴を余所に歓喜の初GⅠ制覇を成し遂げたのです。

 こうして一流馬の仲間入りを果たしたライスシャワー、有馬記念こそみんながトウカイテイオーをマークする中で大逃げのメジロパーマーがまんまと逃げきるトリッキーな展開の中で凡走するものの、年明けの目黒記念で2着、日経賞では4角先頭から堂々の圧勝で、[天皇賞・春](https://www.youtube.com/watch?v=NlFi-AkI53A)の有力馬として再び西上します。

 そしてここでも、ライスシャワーには大きな壁が立ちはだかっていました。
 前年にトウカイテイオーとの二強対決を堂々制して天皇賞・春の2連覇を達成、その後骨折で休養していたものの、11か月ぶりの大阪杯で圧勝して健在をアピールした稀代のパワー型ステイヤーメジロマックイーンが、史上空前の同一GⅠ3連覇を目指して出走してきたのです。
 このレースに向かうにあたり、極限の馬体にまで絞り込まれたライスシャワーは、ゲートでマックイーンが中々入らないのにも動じず、レースではいつものようにスッと好位を確保し、しっかり足を溜めながらマックイーンの背後をヒタヒタと追走、逃げるパーマーを捉えに行くマックイーンを4コーナーで射程圏に捉え、残り200mの地点でスパッと切れて抜け出し先頭、そこからもジリっと差を広げる完勝でした。

 あれから四半世紀近く過ぎた現在でも、未だに同一GⅠ3連覇が達成されていないわけですが、少なくともこのレースのマックイーンに関してはパフォーマンスを落としたわけではなく、その点からも間違いなくライスシャワーのベストバウトだったと言えましょう。
 こうしてミホノブルボン、メジロマックイーンという当時の2大スターホースの大記録を阻んだ馬として、ライスシャワーには関東の刺客、という悪役の襲名を確固たるものとしたのです。

 余談ですが、やっぱり今聴いても杉本さんの実況は素晴らしいですね。そして関東の、という枕詞にしても、東西交流が今ほど活発でなかった時代ならではの味わいを感じさせます。

**★オールカマー~日経賞<燃え尽きた刺客>**

 天皇賞を制してその実力を満天に示したライスシャワーは、秋は古馬王道路線を歩むべくオールカマーからスタート。
 しかしここではツインターボの大駆けの影も踏めず、天皇賞・秋でも好枠から上手く立ち回ったものの上位には離され完敗、JC、有馬と距離が伸びてもいいところが全く見られず、春の激走のツケが祟ったように覇気のないシーズンとなってしまいます。
 またGⅠ馬ならではの重斤量にも悩まさせることが増え、年明け60kgを背負った京都記念は新たな王道路線の葦毛の怪物、ビワハヤヒデの前に完敗、ようやく日経賞で4コーナーからの捲りで早め先頭、と闘志ある競馬を取り戻しはしたものの、そこでも斤量が祟ってステージチャンプの差し込みを許し、距離延長に望みをかけた天皇賞・春の前には再度の骨折が判明と、この期間は本当にちぐはぐ、踏んだり蹴ったりな状態でした。

**★有馬記念~宝塚記念<ヘビーステイヤー、そして……>**

 復帰の舞台は有馬記念、ここでは2年前にブルボンが取り逃した3冠を、圧倒的なパフォーマンスで達成したナリタブライアンという突出した怪物が相手となります。
 この時代恒例のツインターボの大逃げの中、先団から鋭く抜けて圧勝するブライアンに対し、休み明けのライスシャワーはそれでも好位を上手く立ち回り、ヒシアマゾンの後塵も拝するものの3着と見せ場を作って、まだ終わった馬ではないことを証明します。
 けれども年明け2戦はやはり斤量や馬場に苦しめられて掲示板を外し、次走の[天皇賞・春](https://www.youtube.com/watch?v=Bc2QSmOoJUg)でもブライアンがいる限りは着争い、という空気は否めませんでした。

しかし直前で大本命のブライアンが怪我で回避し、一気に混戦ムードとなって。
 確たる軸馬がいない中で出入りが激しくなる中、向こう正面から一気に進出して残り1000mで敢然と先頭に立ったライスシャワーは、水を得た魚のように淀の坂を軽快に下り、直線で一気に突き放して、最後ステージチャンプの猛追を受けるものの今度はギリギリで凌ぎ切って、見事復活の凱歌を上げたのです。

 かつてのヒールホースの長い低迷期からの復活、その筋書きのないドラマにファンは酔い痴れ、一躍ライスシャワーをスターホースの座に押し上げます。
 かくして宝塚記念では堂々ファン投票1位に選ばれての出走、しかしそこに悲劇の落とし穴が待ち構えていました。
 改装で高速化の進んだ京都で、レコード決着となるスピードレースの中、戸惑うように後方を追走していたライスシャワーは3コーナー過ぎでガクンとバランスを崩し転倒、不帰の馬と、なったのです…………。


**★能力分析<本当にヘビーステイヤーだったのか?>**

 堂々たる名馬として現在に至るまで名を馳せている割に、ライスシャワーの戦績そのものは決して安定感はありません。
 ただ、少なくとも2200m以上の距離では好走実績はかなり多くて、その辺りも踏まえて現在の視点で見ると、この馬は弱点がかなり多く、好走スポット自体は狭いものの、それに合致すれば強い競馬を見せられるタイプだったのではないかと思います。

 まず一つ目の弱点は、端的に距離、という以上に、前半のペースにあるのかなと。
 この馬の長所は序盤のポジショニングの良さと操縦性の高さ、そして要所での加速性能にあり、スッと好位を確保して一足で一気に出し抜く、そこからしっかり粘り込むのが勝ちパターンでしたが、基本的に序盤のペースが上がった、ややハイ~平均前後まで流れたレースでは大半が凡走になっていて、それは純粋にレース全体の平均速度が速い場面、秋天や最後の宝塚などで顕著に見受けられます。つまり先行力はあるけれど前半の無理は効かない、後傾タイプの馬だったのでしょう。
 殊更長距離で安定したのは、勿論スタミナが豊富だったのも確かながら、それ以上に折り合い面での不安がない事と、どうしたって平均ラップが落ち込む中で、前半に無理せず流れに乗れるからだったのだと思いますし、古馬になって唯一2500m戦で圧勝した日経賞も、ドスローからラストまでラップを落とさない明らかに前有利、機動力が生きる流れでした。

 次いで斤量と馬場が挙げられます。
 基本的にベスト体重は430kg台後半、という馬だけに、この時代のGⅠ馬が当たり前に背負う斤量59kg、60kgは相当の負担だったろうし、重い馬場も基本的に得意にはしていませんでした。無論重馬場でも好走実績はありますが、その場合は他の要素で減点が少なかったパターンが大半で、基本的には良馬場で一瞬の切れ味を生かしたいタイプだったと思います。

 あともうひとつ、基本的にパワータイプではない中で、坂での加速もちょっと苦手にしていたのかなと。
 近年でもそういう馬は結構いますが、この馬もレース内容を吟味していくと、NHK杯や目黒記念、秋天では府中の坂の地点で置いていかれていたり、中山でも、前述したドスローの日経賞以外は基本最後甘くなるケースが大半で、その意味でもゆっくり登りゆっくり下る、という定石があり、直線平坦の京都はマッチしていたという事でしょう。
 平均ラップのスピード戦になった京都新聞杯であれだけ好走できたのも、ほぼ全ての要素でこの馬にベストな条件が揃っていたからだと思うし、個人的には1回目の春天の次に強い競馬をしたレースだと認識しています。

 以上の観点から、決して単なるステイヤーではない、むしろ単純なパワー型ステイヤー、スタミナの絶対値としてはメジロマックイーンの方が上だったろうと思っていて、どちらかと言えばポジショニングの巧さと一瞬の切れを生かす近代型ステイヤーのはしり、だったのではないかなと思っています。
 無論たらればですけど、今の馬場で、スローペースが蔓延し、斤量もあまり背負わされない中でなら、もっと安定した成績を上げられたのではないかなと感じますね。

**★菊花賞<ライスを勝つべくして勝たせた勝負の綾>**

 レースラップは59,7-65,0-60,3。
 ボーガンの逃げで入りの1000mは速いものの、そこから5F続けて13秒台を刻む決定的な中緩みがあり、序盤超縦長の展開で無理をせず入り、中緩みでじんわりと差を詰めていったライス、タンホイザあたりは非常に無駄のない動きをしていて、逆にブルボンは基本的に淡々と一貫した平均ラップを刻みたい馬だっただけに、急激なブレーキを踏まされ、それに付き合ってしまったのは結果的に致命的だったのかなと思います。

 勿論戦前から、むしろクラシック開幕前から短距離血統のブルボンの距離不安は囁かれ続けていましたし、例えばここで1~2コーナーでブルボンがボーガンをパスし、12秒後半程度で淡々と刻んでいったら勝負はどうなったか、それはわかりません。
 ただ少なくとも言えるのは、それでブルボンが失速する可能性はあっても、詳しくは後述しますが、翌年の春天で道中一切13秒台を刻まない、改装前の京都では相当にタフな流れの中でも楽に追走、切れ味を示したライスシャワーにとっては、その程度の緩みの圧縮は苦にならなかっただろうし、余程仕掛けどころを間違えない限りこのレースでは勝てていただろうと思います。

 逆に、完全に中緩みで後半4F戦になったからこそ、あそこまでブルボンが抵抗できた、とも言えて。
 実際に後半4Fのラップは12,3-11,6-11,8-11,6と最後まで落とさない、前にいた馬に楽な流れであり、直線入り口でブルボンとライスの差は3馬身近くあったことを踏まえると、ライス自身の後半3Fは11,6-11,4-11,4くらいかなと思うし、基本的に一瞬の切れ味は高いけど、そのトップスピードの持続性はそんなに高くないライスで、ブルボンも切れ味自体は秘めていて、かつ底力が圧倒的だった馬ゆえ、最速地点でスッと詰めた割に最後接戦になっているのかなと考えますね。

**★天皇賞・春(1回目)<ステイヤーの証明、その上で>**

 レースラップは61,9-74,2-61,0。それまでのレコードを一気に1,7秒も縮めたレースで、そのレベルの高さ、ステイヤーとしての資質を強く試された証として、菊花賞では緩みのせいで本質中距離型のタンホイザに2馬身余りの差だったのが、ここでは8馬身以上の大差をつけている事でも間接的に見て取れます。
 上でもチラッと触れたように、このレースはこの時代の天皇賞としては稀有な事に、スタート直後の1Fを除いて1回も13秒台のラップを刻まない、息の入るところの少ない長距離型の流れになっています。

 この次の年に京都競馬場の改装があり、そこから馬場の高速化がどんどん進んでいくわけですが、試みにマックイーンが勝った91年の春天から2016年までの全てのレースのラップを調べてみても、この中盤の74,2というのは大逃げ馬のいた13年の72,8、サクラローレルが早仕掛けをして大レコードが生まれた97年の73,9に次いで3番目に速いラップであり、当日他の距離の時計で馬場差を見れば、普通に短距離で1~1,5秒、中距離で1,5~2秒程度は時計を擁する馬場でのこの流れは異質、と言ってもいい速さだったという事です。
 改装後、全体時計でこのレースを上回ってくることはざらですが、その場合ほとんど後半5Fの時計差であり、それだけ高速化が進み、相対的に前半の流れが楽になっているわけですね。ちなみに近代春天のお手本ラップのような今年のキタサンブラックの逃げ切りが61,8-74,4-58,9で、奇しくも2200m地点まではほぼ同じ時計で走っているのが中々興味深いところです。

 その中でもうひとつ異質なのが、このレースのL2で刻まれた11,4という猛烈なラップ。
 馬場改装後の天皇賞は後半5Fで60秒を切るのはほぼ当たり前なのですが、それでも最速の平均は11,3~4くらい、史上最速はディープインパクトが刻んだ11,0で、これはあの馬の近代型ステイヤーとしての圧倒的な素材の高さを感じさせるし(上がり4F44,8、3F33,5とかきっともう絶対見られない破壊的なラップだと思う)、でもあの頃は高速化絶頂でもあったしなぁ、と、その辺評価に難しさはあるのですけどもね。

 ともあれ、馬場差を考えると圧倒的にスタミナを求められる流れの中で、それでも直線入り口でマックイーンと半馬身差、残り200mでは既に1馬身ちょっとは抜けていたので、ライスシャワー自身はこのL2で推定11,3という凄まじい切れ味を見せていて。
 上がり3Fのレースラップが12,5-11,4-12,6なので、直線入り口で都合1,1という急加速を求められ、かつ11秒台前半にまで突入するというのは、例えばJCのL2、11,2の地点でゴールデンフェザントにあっさり切れ負けしたように、一瞬の切れだけは秘めていなかったマックイーンにとっては抵抗できない加速、速度であったと思えます。故にこの流れの中でその切れ味を引き出せる余力があった時点で勝ちは確定的だった、というところでしょう。
 無論渾身の仕上げであったのも確かで、全てが上手く噛み合ったベストバウト、という評価は揺るぎないところですね。

**★天皇賞・春(2回目)<ライスが自分で行った…………>**

 レースラップは63,7-75,3-60,9。
 ナリタブライアンの回避で全馬色気を持っての出走だけに、序盤の入りがかなり遅くなっているのが特徴的ですね。
 重馬場で行われたから時計が遅くなるのは妥当、と思えますが、前述したようにこの年からは新装京都開催、条件戦の時計を見ても重馬場ながら93年とほぼ同じか、むしろ速い時計が出ているくらいで、だからレースレベル自体は平凡だし、ライスのパフォーマンスとしても1回目とは比べるべくもない、というのは間違いないと思います。

 それでも勝ち切れた原因は、道中で緩みに付き合わず、淀みの大きいところで自分のリズムで押し上げる強気な選択を取ったから、でしょう。
 ライスが自分で行った、とは、ライスシャワー物語という本で書かれた、厩務員の方のその瞬間の想いを取材しての一文ですが、実際に2年前のレースを馬が覚えていて、このペースでは遅いと判断して進出する気概を見せたのに騎手も呼応した、と見るとドラマ的ですね。
 なんにせよ、残り1000m地点では既に先頭に立っていて、そこからのラップは2年前と酷似しており、直線入り口で11,5と切れ味を見せて後続を一気に突き放したものの、この流れの中では後続にも余裕があり、自身が12,5と落とすところで一気に食い込まれたというところで、少なくとも菊の時点のライスでもL1でここまで落とさなかったろうし、衰えはある中で様々な想い、要素が噛み合っての戴冠だったとは思います。

**★総括**

 奇しくもこの時代、馬場改装などで高速化が進み、そして血統的にもノーザンテーストの時代が終わり、ライスの父リアルシャダイのリーディングを経て、トニービン、ブライアンズタイムを経由しサンデーサイレンス1強時代へと突入していく端境期ではあって、その中でどちらかというと世間のイメージではライスシャワーは、古き時代を体現するステイヤー、と見られている感があります。
 ただ改めて分析してみての私見においては、最低限のスタミナの裏付け以上に、その操縦性と切れ味の鋭さで勝負する、むしろ近代型ステイヤーの嚆矢と呼べる存在なのではないかと感じます。最近の馬ではフェノーメノのようなタイプかなと。
 その意味では少し時代を先駆けて生まれてしまった、とも言えるし、それでもその資質がふたつの偉大な記録を阻む最大の要因になったと見做せば、新時代の長距離スタイルを切り拓く先駆者としての命運を全うしたのかな、とも思えますね。

 ライスシャワー。
 その美しい名前に見合った輝きを、そして儚さをまとった、黒鹿毛がターフに映える素敵な名馬でした。
 
posted by clover at 05:18| Comment(0) | 名馬列伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はじめましてのご挨拶

はじめまして、cloverと申します。
この度、競馬についての諸々を語る為のブログを立ち上げさせて頂きました。

競馬観戦歴こそ長いものの、
こうしてきちんとした形で自身の意見を発信するのは初心者ですので、
色々と拙い面も出てくると思いますがどうぞ宜しくお願い致します。


以下、今後発信していくコンテンツについてサラッと説明させて頂きます。


1.レース回顧


本ブログのメインコンテンツになります。
基本的には中央競馬の重賞レースを中心にして、
出来る限りレース直後の飾らない感想、分析を綴っていきます。

また、地方交流重賞や、海外の主要なレース、
或いは私が注目している馬が出たレースなども、
適宜触れていけたらな、と思っています。


2.レース予想


こちらは副次的なコンテンツになります。
基本的に馬券は買わない主義なので、
予想といってもあくまで観戦の為のスパイス程度です。

こちらも中央の重賞レースをメインに、
前日更新で公開していく予定です。
海外や地方も余力があればやります。


3.名馬列伝

こちらでは、私がリアルで見てきた心に残る名馬の戦歴を、
今の視点で改めて多角的に掘り下げ、
その強さの本質や魅力を探っていこう、という試みです。

90年代から近々の馬まで、
基本的には古い馬と新しい馬を交互に、
月2本くらいのペースでゆったりと書けていけたらいいな、と。

(※2018年は、一先ずコンテンツ休止、とさせていただくつもりです。)

ともあれ、最初から大風呂敷を広げても続かないので、
あくまで自分のペースで、楽しんで書くことをモットーに、
コツコツ配信していきますので、
温かい目で見ていただけると助かります。

posted by clover at 04:18| Comment(0) | 当ブログのコンテンツ説明 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

馬のタイプについて

 昨今は競走馬のレベルが全体的に拮抗して、同じメンバーで競馬をしても展開ひとつでガラリと着順が変わる、なんてことも、昔に比べるとよく見受けられるようになりました。
 それだけに、個々の馬の適性を見抜き、好走スポットを見定める事は、純粋に競馬観戦を楽しむ上でも、勿論美味しい馬券にありつくためにも大切な要素であり、今日はその辺りについて大雑把に語ってみようと思います。

 本当にざっくり分けると、競走馬のタイプは、

1.前傾タイプ
2.総合力タイプ
3.後傾タイプ

 と区分できるかな、と。

 最初に前傾タイプについては、まず基本的に前半からガンガン飛ばしていっても、後半で必要以上にバテずに粘りこめるタイプ。
 基本的には短距離馬やダート馬に強く出やすい傾向ではあり、現役だとノボバカラやビッグアーサーなんかは顕著かなと。
 どちらも好走レースの傾向として、レース後半での再加速のない消耗戦、前傾の高速戦で強い結果を残していて、かつポジショニングとしても出来る限り前につけた方がそのまま結果に直結するわかりやすいタイプ。
 こういう馬の場合、純粋に流れやすいコースや、淀みにくいコース、或いは自在性の高い位置取りが出来る枠を取れた方が俄然有利であり、まあ当然騎手の意識まで含めての立ち回りではあるものの、狙いどころは立てやすいタイプかなと。

 ちなみに芝の中距離区分においては、本質的な前傾タイプってのはやはりサイレンススズカくらいしかいなかったかな、と思います。
 よく比較されることもあったエイシンヒカリは、どちらかと言えば後傾寄りの総合力タイプではあったと思うし、唯一ハイラップで逃げたアイルランドTも中盤の緩みから再加速、という競馬ではあり、また最後の落ち込みからもあの戦法で実際にGⅠレベルで通用したか、は、実際その後一度も試してくれなかったので神のみぞ知る、ではありますが、多分辛かったんじゃないかな、と。

 あと前傾タイプには、総合力寄りの前傾タイプ、ってのもいると思っていて、これは完全に流れ切っていい、という事はないけれど、後半で使える脚が限定的なので、相対的に見ると前掛かりの方が安定する、ってイメージ。
 昨今だとグランデッツァなんかは典型的だったし、実はイスラボニータも、この前の阪神Cを見る限り実はそういう競馬の方が安定して強い可能性を見せてくれたなと思っています。こういうタイプは前半ある程度流れても、後半で一瞬鋭い脚は使えるけど、でもそれが長続きしないから、その一脚を先頭に立つ場面で引き出さないと勝ち切れないわけですね。
 
 多分エアスピネルも根本的にはこの区分に入ってくると思っていて、実際戦績見ても、距離に関係なく道中の位置取りがそのまま結果に反映しているわけで。
 ですので、来年早々に京都金杯に出てきて、まあおそらく圧倒的な人気になるでしょうけど、外枠引いてマイルでも中団くらいから、って競馬になると取りこぼしはあっても不思議はないな、って今のところ見ています。好きな馬なので、マイルなら後半要素をもっと高めてこられる、という方が嬉しいのは確かなんですけど、それも含めて注目だなと。
 
 総合力タイプは、上でも触れたように前傾寄り、後傾寄りに幅は出てくると思いますが、総じて前後半のバランスが平均的に問われた時にもっとも好走できるタイプ。
 現役だと真っ先に思いつくのがサトノノブレスで、後半特化戦になると弱いけど、鳴尾記念みたいに時計の出る馬場で淡々と流れた時に最もしぶとさを発揮するタイプなので、そういう条件が揃いそうな時はそれまでの戦績に関わらず狙いやすい馬です。

 あと基本的に、一流の総合力タイプはもっとも好走スポットが広い、ハイペースでもスローペースでも一流のパフォーマンスを発揮できる印象で、キタサンブラック、サトノダイヤモンドあたりはここに入ってくるかなと。
 キタサンはダービーのハイペースで崩れたせいでみんな強さを掴み切れていなかったけれど、今年の宝塚を見てようやく誰しもが強さを認めた、というのも、やはりその幅広い好走スポットを誇示したことが最大の理由だと思うし、サトノについては三歳世代、って括りで後述しますけど、実際にこの二頭はこの先も崩れることはまずないだろうと。
 逆にゴールドアクターが今回あそこまで食らいつけたのは、この馬が本質的には後傾タイプで、レース自体も後半要素の方が強く求められているからとは思うし、なので例えばハイペースになりやすい宝塚の舞台で信用できるか、というと微妙かな、って見立てですね。

 後傾タイプは色々と細かく区分けできるので、ここではサラッとにしますが、ざっくり言えば溜めれば溜めるほど爆発力が上がるタイプと、スローの流れの中で出現しやすい後半の特性を強く持っているタイプ、に分けられるかなと。
 前半のタイプは、一気にペースが上がった時の加速性能、最高速に乗った時の切れ味、そこからスピードを長く維持する底力・持続力などの要素が全て秀でていて、スローバランスで足が溜められれば、例えばマイル戦の後半4Fの中で、どの地点でも他の馬より鋭い脚を使えるタイプですね。

 このタイプの典型的な馬は、前述したゴールドアクターに、モーリスもそうだと思っています。というか、スクリーンヒーロー産駒の一流馬はこういう傾向が出やすいのかもしれないし、今後それは意識してみてもいいかも。
 なかんずくモーリスは、いずれ近い内に列伝書こうと思っているけれど、マイルでも2000mでもスローであればあるほど圧倒的なパフォーマンスを見せるタイプであり、実際本格化後に敗れた、或いは苦戦したレースは、いくらなんでも舐めプな調整だった今年の安田記念を除けば、平均ペースで先行策を取った去年の安田記念と、かなりのハイペースで流れた札幌記念だけで。
 その辺りからも、ある程度総合力が問われても一流の域ではあったけれど、スローペースの時は超の上にもうひとつ超をつけてもいいスーパーホースだったのかなと思っています。最後の香港Cのあの爆発力はえげつなかったですからねぇ。

 もうひとつは、基本的にポジショニングが良くて、そしてスローの流れの中でなにかしら後半要素で特筆したものを持っているのが基本的なイメージで、最近だとシングウィズジョイとかが当て嵌まりますね。
 先行力があるけどペースが上がったらてんでダメで、だけどスローにコントロールできれば卓越した加速性能と切れ味の質の高さでスッと後続を出し抜ける、こういうタイプは好走スポットは超狭いけど嵌れば強くて穴を開けやすいので、そのパターンを覚えておくと面白いです。

 長々と私見を綴りましたが、その上で今年の三歳世代、特に上位が強かったと持て囃されていた根拠はどこにあるのか?って話で。
 それはやはり、58,4-59,5とハイペースで流れた皐月賞に、60,0-(26,0)-58,0とややスローで流れたダービー、最高峰の二つのレースで真逆に近い好走要素が問われたのに、上位の顔ぶれが一切変わらなかったことに起因していると思います。
 特にその中でも、どちらのレースも好位~中団の平均的な位置取りから好走してきたサトノとエアは非常に高い総合力を持っていると思うし、結果的に見てマカヒキは後傾寄りのタイプだったのかなと。実際皐月も自身は60,0-58,0くらいのバランスでの走破だし、前半を問われ過ぎると脆い、ってのが、空前のハイペースで外々を回らされた凱旋門で露呈してしまっただけで。
 完全に調子を崩していたディーマジェスティのJCの惨敗も含めて、ややその世代レベルに疑問符がつけられてもいましたが、サトノダイヤモンドの有馬の勝利でやはりきちんと強い世代だ、と再確認できたと思いますし、基本的にはこの世代の好走スポットは広い、その上で最上の条件はなにかを、今後のレースを通じてしっかり見定めていきたいなと思っています。
posted by clover at 04:18| Comment(0) | 能力分析ツール | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016 兵庫ゴールドトロフィー レース回顧

 レースはニシケンモノノフが積極的な競馬から押し切り、久々の重賞制覇となりました。
 ラップ的には上がり3Fしか計時されないので推定ですが、4F-3Fで48,2-37,6と、やはり前掛かり気味の競馬で、でもあくまでイメージですが、最序盤がかなり速く、いったんペースが落ち着きかけたところでノボが外から進出するのを、しっかり内からニシケンが跳ね返しているあたりでちょっとだけ減速⇒再加速の流れになってるのかな、と。

 そして今回は予想以上にニシケンがいいポジションを取れましたね。
 よくよく考えればこの枠の並びで曲者の横山J、というところで、最大のライバルであるノボの良さを削ぎに来る騎乗は想定して然るべきでしたが、単純なイメージでノボの方が前を取るだろうと思い決めてしまっていたのは反省材料です。
 これは斤量差もあったし、使い詰めのノボに対して、同じローテでもフレッシュさがあったなど、色々要因があるとは思いますが、やはり果敢に序盤から攻めていき、道中も主導権を譲ることなく、勝負所でも最後までノボに外を回させる、という意志をはっきり示した好騎乗が結びついた勝利かなと思います。
 後はこの馬にとっては、不良馬場で時計が出ていたのも好材料だったかなと思いますね。

 ドリームバレンチノも、やはりこの競馬場は水が合うのか、って感じの動きの良さでしたね。
 スタートからの前の争いは一歩見る形で後方、そこから自分のタイミングで捲り気味に仕掛けて直線入り口では一気にノボまで飲み込む勢いがあり、ラストの食い込みも流石、ではありましたが、普段よりジリっとなってしまったのは斤量、でしょうか。
 それでも明け十歳でこの競馬、天晴れです。

 ノボはやはり懸念された先行争いでの立ち遅れが最後まで響いた形だし、自分から外を回して常に勝ち切れるほどの地力の差はなかった、と素直に見るべきでしょう。
 今年はこれで十走目とトップホースにしてはかなり使い込まれてきましたし、一息入れて来年のJBCスプリント辺りを最大目標に頑張って欲しいところです。

 ラブバレットは逃げられなかったけれども二列目ポケットで前の争いを置きながら自分のリズムで走り切れたし、やはり力をつけていますね。オヤコダカも含めて大健闘でした。
 グレープは序盤の立ち回りは予想通りだったし、でもこのペースであそこまでついていけなくなるのは、状態面に理由を求めたいですけど、純粋にこの秋は力そのものを落としている可能性もありますね。この歳で韓国遠征もしたし、もう一花どこかで咲かせられれば、とは思うのですが。

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2016 記憶に残る名レースBest5<海外競馬篇>

**第5位 愛チャンピオンS(勝ち馬アルマンゾル)**  
[レース映像](https://www.youtube.com/watch?v=1Bh9HujvkBs)はこちらです。

 やや渋った馬場の中、前半からかなりのハイペースで流れたことで、直線でガラッと前後の入れ替わる見応えのあるレースでしたね。
 タフなコンディションでのファウンドの強さも光るものの、それを瞬時に撫で切るアルマンゾルの素晴らしい切れ味は何度見ても爽快です。
 次走の英チャンピオンSも完勝して、3歳にして名実ともに欧州2000m路線のチャンピオンになったアルマンゾルは、来年も現役を続行して、2400m路線への挑戦も視野に入れるとの事で、動向から目が離せない1頭となる事でしょう。


**第4位 コックスプレート(勝ち馬ウィンクス)**  
[レース映像](https://www.youtube.com/watch?v=Y3kAfJ-XWDA)はこちらです。

 去年の年末頃、世界各地でマイル前後の距離で連勝を続けるスターホースが続出しました。
 欧州のソロウ、アメリカのテピン、オーストラリアのウィンクス、そして我らが日本のモーリスと、このマイル路線の強豪がドバイターフ辺りで激突したらすごい面白いだろうなぁ、と夢想しつつ、流石に実際には二頭での対戦も実現はせず。
 そしてソロウは結局ドバイの前の怪我から復帰できず、テピンも欧州遠征でクイーンアンSを押し切った辺りまでは強かったですが、その遠征の疲労もあったか秋は若干精彩を欠いて、そしてモーリスも距離延長などを試す中で連勝はストップして。

 しかしその中で、ただ1頭だけ連勝街道を驀進し続けて今は13連勝中の女帝ウィンクス、どのレースも他馬を寄せ付けない圧巻のレースばかりですが、その中でも白眉はこのコックスプレートでしょう。常に外々を回しつつ、1頭だけ全く別次元の脚勢で楽々と突き抜けるレースぶりは、1600m~2000mのカテゴリでは世界で一番強いのではないか、と思わせるに充分なパフォーマンスです。
 来年こそは是非、世界を股に懸けた活躍が見たいですね。


**第3位 凱旋門賞(勝ち馬ファウンド)**  
[レース映像](https://www.youtube.com/watch?v=EQ4kgqwdHBs)はこちらです。

 今年の凱旋門賞は、日本ではじめて海外馬券が売られたレースでもあり、そして我らがダービー馬マカヒキも参戦した事で、目にした人も今まで以上に多かったでしょう。

 そしてその中でなにより光ったのは、チームオブライエンの卓越した戦略でした。
 大将格のファウンドはスタートしてすぐにインに潜り込み、そしてハイランドリールがスタートから外に寄せていって、ポストポンドとマカヒキがインに入れないようにブロックしながら先行、そして天才デットーリJのオーダーオブセントジョージも、十八番の馬群から離したところからの先団取りつきでしっかりレースに加わり、強烈なハイペースを演出しつつ、勝負所でファウンドの進路を2頭でしっかり確保してきたあたりは、もはや芸術的だったと思います。
 のみならず、ハイランドとオーダーの2頭もまたその流れの中で持ち前のスタミナ、しぶとさを生かし2,3着に食い込むというパーフェクトな結果には、感動を通り越して戦慄を覚えたものです。普通はチームオーダーがある場合、大将格を勝たせるための捨て石になることもままある中、この結果は鮮やか過ぎましたね。

 それを受けて、というのも穿ち過ぎな部分はあるかもですが、日本でもこの冬、チャンピオンズCに有馬記念と、明らかなチームオーダーを組んでレースに臨む陣営が現れて、けどそれも競馬の魅力、醍醐味のひとつと、日本のファンにも認知、定着させるきっかけ、負のイメージからの転換点になったレースではないかと思いましたし、勝ち馬のファウンドのタフさと合わせてやはり印象深いですね。


**第2位 ブリーダーズCクラシック(勝ち馬アロゲート)**  
[レース映像](https://www.youtube.com/watch?v=Vkj3jtY-RPY)はこちらです。

 やはり強い逃げ・先行馬と、それをマークする強い馬がいるレースは素直に面白い、というところで、マッチレースの醍醐味をたんまりと詰め込んだこのレースは外せません。
 今年になって完全に本格化し、圧勝を繰り返す絶対王者カリフォルニアクロームが敢然と逃げ、それを超新星のアロゲートが雄大なフットワークで追いかける展開は、もう向こう正面あたりで一騎打ちの様相を呈しており、実際にクロームの鞍上も敵は1頭だけ、とばかりにしきりに後ろを振り返って仕掛けどころを探っていました。
 直線、満を持して追い出す王者に一瞬切れ味で離されかかるものの、最後の100mで圧巻の底力を見せつけ差し切ったレースぶりは、奇しくもついこの前の有馬記念を彷彿とさせる、王座交代を告げる強烈な印象を競馬ファンに残したと思います。

 この2頭は新設の世界最高賞金レース、1月のペガサスSで再対決してくれるのでしょうかね?
 個人的には1800mまでならクロームに分があるかな、と思っていますが、結果がどうあれもう一度対戦が見られるなら、競馬ファンとしては垂涎、というところですね。


**第1位 ブリーダーズCディスタフ(勝ち馬ビホールダー)**  
[レース映像](https://www.youtube.com/watch?v=FKPAyflc7FA)はこちらです。

 クラシックとどちらを1位にするかは迷ったんですけどね。
 こちらはクラシックとは逆の構図で、3歳の新鋭にして稀代の快速馬、ソングバードが軽快に逃げるのを、晩年に入ってやや陰りを見せるも意地を見せたいチャンピオン牝馬のビホールダーがマークして追いかける展開。
 後続との着差そのものはこちらの方がうんと小さいのですが、それでも、とこちらを選んだ理由は、直線を向いてピタッと馬体が重なってから、およそ300mに渡って2頭ともに一歩も譲らない、馬体を合わせたままのマッチレースの迫力がより素晴らしかったからです。本当に最後まで同じ脚色で、意地と意地のぶつかり合い、という文言がこれ以上なくぴったり嵌るレースでした。

 ソングバードにとっては生涯初の苦杯、となったものの、これをバネに来年更なる飛躍を、引いては牡馬にも伍していけるようなスーパーホースになって欲しいなと思いますし、本当に走りの綺麗な馬なので、是非レースぶりを堪能して欲しいですね。


 以上、唐突でしたが2016年の名レース海外編でした。結果的に下半期ばかりのレースになってしまいましたが、実際今年は世界中どこでも下半期の方がいいレースが多かった気がしますね。
 テピンのクイーンアンSとか、フロステッドのメトロポリタンSなども好きなレースではありますが、やはりここで紹介したレースにはちよっと及ばないかなと。

 明日の大晦日か元旦に、国内編も書きたいと思います。
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2016 記憶に残る名レースBest5<中央競馬篇>

**第5位 クイーンC(勝ち馬メジャーエンブレム)**

 また寒風吹き荒む中、それを吹き飛ばすような軽快&圧巻の逃げ切りに唖然とさせられ、そしてタイムを見てもう一度唖然。
 この時期の三歳牝馬のパフォーマンスとしては破格だったし、何よりハイペース耐性の非常に高い逃げ馬、という存在自体がレアなので、この先の活躍にゾクゾクするほどの期待を覚えたものです。
 たら、ればは言っても仕方ないけど、桜花賞もあんなあっさり下げずに出していっていたら、結果的に牝馬もハイレベル世代だった中でどういう結果になったか、夢想してしまうのは仕方ない、それだけの魅力を持つ馬の真骨頂、とも言えるレースでしたね。

 どうも怪我の具合が思わしくないようで、本当にヴィクトリアマイルで見たい馬なだけに、そこにすら間に合いそうにない感じなのは残念過ぎますね。このまま引退、となったら悲しいし、でも復帰しても能力発揮できずに、ってなるよりはいいのかな、とは思いつつ、期待は捨てきれないですねー…………。

**第4位 チャンピオンズC(勝ち馬サウンドトゥルー)**

 ノースヒルズの狙い済ましたチーム戦術でお誂え向きの展開を演出しておきながら、最後の最後で漁夫の利を浚われる、という二転三転のゴール前、こうまで目の覚めるような差し切り、というのは中々お目にかかれないですよねー。まあ相対的には超減速地点で、前が止まっただけではあるのでしょうけど、それでもインパクトでは今年度屈指だと思います。
 文字通り展開の綾、という使い古された言葉が完璧にしっくりくるレースでもあり、最近はスローの中で人気の差し馬が取りこぼしてそう言われる時の方が圧倒的に多く、でもそれはどうしてももやっとするものが残る中で、ほぼ全馬が脚を出し切った上での逆転劇、というのはやはり爽快だな、と再認識させられるレースでもあったと思います。

**第3位 弥生賞(勝ち馬マカヒキ)**

 少し前にサトノダイヤモンドがきさらぎ賞で鮮烈な勝ち方を見せて、そして満を持して二歳王者と新鋭が初対決、となったこのレースで、リオンが前々で王者の競馬を展開するのを坂の途中からグングンと伸びて捉えきったマカヒキの末脚はやはり鮮烈でした。
 ここで本当に誰もがこの世代のレベルの高さを確信したと思うし、その上で皐月賞ではそれら上位と目された馬を相手に突き抜けるディーマジェスティまで出てきたのだから本当に驚きではありましたね。実際今にしても、あの共同通信杯の地味な勝ちっぷりから、あの皐月の鮮烈さは予想出来ないです。

**第2位 安田記念(勝ち馬ロゴタイプ)**

 馬場やメンバー構成、に流れなど色々な要素が絡んだものの、その全てをプラスに転換させてまんまと逃げきってみせたロゴタイプ&田辺Jの緻密な策士ぶりに驚かされましたね。
 大賞典のアヴォーディーじゃないけど、そこまで流れてない、でも自分からは競りかけられないという王者のジレンマ、呪縛を逆手にとって仕掛けを遅らせ、他の馬が外を選択する中でインに切れ込みつつ一気にスパートしてセーフティを奪い取る、その後続の心理まで手玉に取った大胆不敵な騎乗と、それに即座に答えたロゴタイプの競馬センスの良さが光った、今年最大のジャイアントキリングでした。

**第1位 有馬記念(勝ち馬サトノダイヤモンド)**

 まあこれは回顧でも触れたように、競馬の醍醐味が存分に詰まった最高のレースだったろうと思います。
 キタサンの支配で積極的にコントロールされたスローの中、それを打破すべく敢然と1~2コーナーで動いたサトノダイヤモンドの立ち回りは素晴らしかったですし、そこからの3頭の鬩ぎあいも素晴らしく、記憶に新しい、という部分を割り引いても今年を代表するベストレース、と呼んで差し支えないでしょう。

 …………まあこれは難しい話だとはわかってはいるのですが。
 ただシュヴァルのレース後の談話で、3コーナーで動いた、勝ちにいくにはあれしかなかった、というのを見て、うーん、サトノについていく選択肢はそもそもなかったのかな?とは思う部分はあって。
 基本的に馬は群れを成したい動物だし、その並走状態から促して進出させるのが、折り合い面でリスクの多い騎乗なのはわかるけれど、でも昔の、長い距離走るんだから枠はどこでも、的な状況とは違い、特に有馬や春天あたりは枠順と先行力がかなりの勝敗の成否を分ける要素になっている中で、序盤のポジショニングでどうしても見劣るスタミナ型のステイヤーは、まだペースが緩い内にポジションを押し上げてしまう、というのは基本戦略としてあっていい、と思うんですよね。

 折り合い面での難しさを言うなら、凱旋門賞で2年続けてデットーリJが見せたような、馬群から離して自分のリズムでポジションを上げつつ、馬の気分や折り合いを損ねないという戦法はあるし、去年の春天のゴールドシップ@横山Jなども、パトロール見れば一目瞭然のように、最初の4コーナー回ったその勢いで大きく馬群から離れた位置取りをしていて、あれはその地点で緩めばそこで押し上げてもいい、という意志が籠ったポジション取りだったなと。
 結果的にクリールカイザー@田辺Jが、今年のキタサン@武J同様に13秒台を刻まない淡々とした逃げを打ったことで、仕掛けのタイミングは2コーナー過ぎに持ち越されましたけど、そうやって幾重ものパターンを持って、距離ロスが結果的なタイムロスに大きく繋がらない地点での押し上げを企図する意思があるかないかは大切だと思うんですよね。

 この有馬で言えば、外枠を引いて、そしてポジショニングが甘いステイヤータイプであるシュヴァルやアルバートあたりは、最初の4コーナーから惰性を生かし、かつ折り合いを欠かずに前に取りつく乗り方が出来ていればもっと勝負に絡めたのでは?と素人目線では思えてしまうし、まあシュヴァルはまだしも、アルバートは完全インベタで押し上げる選択なんて微塵もない、って感じでしたので、そこは馬の適正に適ってないな、勿体ないなと思ってしまった部分です。
 実際このレースで、サトノがあそこで進出していなければ少なからず凡戦になっていた蓋然性は高いですし、そういう動き方が常識的なものになっていけば先行馬としても色々更なる工夫がいる、そういう戦略の鬩ぎ合いが生まれることでよりレースが盛り上がると思えば、その視点でも価値の高いレースであったかなと改めて思います。



 以上、今年も魅力的なレースは多かったですが、その中でもインパクトの強かったものを素直に選びました。
 来年もまた素晴らしく、奥深い競馬が沢山見られることを祈っていますし、その盛り上がりが、高揚が、活きのある記事更新を長続きさせてくれる最大の要因になると思うので(笑)、しっかりひとつひとつのレースを追いかけ、レース展開に潜む駆け引きを謎解きのように楽しみながら、競馬の魅力に酔い痴れていきたいと思います。
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2016 東京大賞典 レース回顧

 今年の東京大賞典はアポロケンタッキーが上がり馬の勢いを見せつけての見事な戴冠でした。
 が、レース自体はかなり特殊な流れになっていて、コパノリッキーが逃げてのラップは、3F-4F-3Fで37,9-51,6-36,3、5F-5Fだと64,8-61,0と、特に序盤・中盤が非常に緩い超スローペース。
 実際映像で見ていても、普段まず先行馬群に取りつけないサウンドトゥルーやノンコノユメが先団に位置出来てしまっている時点でスローなのが一目でわかる展開であり、レース全体で平均的なスピード勝負に持ち込むべきコパノリッキーという馬ではやって欲しくない溜め逃げになってしまいましたね。
 前二年のコパノの逃げが刻んだラップが61,3-61,7、61,7-61,3と、馬場差はあれど平均だったことを踏まえれば、番手のアヴォーディーが戦略的につついてこないのに胡坐をかいて、後続を引き付け過ぎたのが結果的に特殊なレース、展開にしてしまったと。

 このペースだと上位の馬にとっては前半1000mはジョギングのようなものだし、完全に全馬余力を残しての後半5F勝負、その中でやはり急コーナーの大井らしく、4コーナーの地点で12,4とややペースが淀んでから、直線向いて11,6と、都合0,8という大きめの急加速を求められていて、結果的にその地点でスムーズに切れ味を引き出せたかどうかがそのまま着順・着差に繋がったレースと見立てていいと思います。

 その中で勝ったアポロケンタッキーは三番手の外と、アヴォーディーをマークする絶好のポジションを確保しており、その上で後半に余力を残している分、多少外を回すのが不利にならない、むしろ加速をつけやすい条件にもなっていて、アヴォーディーを窮屈にさせつつエンジン吹かして直線を向けて、実質的に残り400m-200m地点での11,6はこの馬自身のラップだったと思うけれど、そこで切れ味に劣るアヴォーディーとサウンドトゥルーを一気に突き放して、最後もそのリードを守り切った、という形ですね。
 正直レース全体が普通に流れた中での総合力勝負ではまだ足りないだろう、と軽視してしまいましたが、コパノ単騎でテン乗り、というのを踏まえるとドスローも想定できたのかなと、そこは反省材料ですね。純粋な後半勝負の中で、一番楽なポジションで競馬が出来たし、コーナーでも動けて直線でもそこそこ切れ味を引き出せる、大型馬ながら他の馬に比べて相対的に器用さがあったのが功を奏した、と思うし、まだ純粋な力勝負では互角、とまでは言えないんではないかな、と思っています。
 それでも来年、GⅠ戦線をしっかり賑わしてくれるだけの成長は見せているし、ノンコに変わってのこの世代の旗手として頑張って欲しいですね。

 アヴォーディーにとっては逆に、あまりのスローで、けど自分で先頭には立てない、というジレンマの中でどうしようもない、という結果になったのではないかと思います。
 スッと番手につけてレースを支配する形、に持ち込んだのは戦略通りだとは思いますが、ここまでコパノが引き上げてくれないのは、基本器用さはないので底力勝負に持ち込みたいこの馬としては誤算で、といって早めにつつきにいくのもリスクがあるので難しかったろうなと。
 その上で急加速戦、ダートなりの切れ味を求められた時の脆さも露呈する形にはなりましたし、このあたりは絶対王者になるためには課題になってきますが、でも普通に流れるレースの中では2000m路線なら最強ではあると思っています。
 ドバイの砂が合うかはわかりませんが、ゴリゴリのアメリカ馬がペースを引き上げてくれるレース自体は合うと思いますし、遅咲きの挑戦として楽しみにしています。

 サウンドトゥルーも同様に、やはり急加速と切れ味が求められると甘いですね。
 今日は最序盤から中盤が有り得ないほど緩かったのでポジションが取れた分食い下がれましたが、やはり本質的には上がりがかかってラスト1Fが12秒後半から13秒台に突入する流れでないと勝ちには届かない、というのを改めて証明した形でしょう。

 ノンコノユメはここまでスローだと微妙に枠が祟った部分もあったし、後半特化戦でそれなりにコーナーでも速いラップを刻むところでどうしても置かれてしまうのが致命傷、またそれとは別にやっぱり去勢後は直線での切れ味、持続力も引き出せなくなっている気がして、うーん、という感じです。
 好きな馬だけにこのまま終わって欲しくはないのですが、比較的適性の高い大井の2000mで、変なレースになったとはいえこれだと、徐々にズブくなっている中で府中のマイルでももうスピード負けしそうだなぁ、という懸念は強いし、なんとも歯痒いですね。

 コパノリッキーは、秋四戦目で純粋に馬の調子とかもあるのかもしれないけど、今日に関してはこの馬の得意なレースの形を作れていなかったのも大きな理由にはなるでしょう。
 やっぱりテン乗りだと難しさがある馬なのかな、ってのも当然あるし、ただ実力自体は折り紙付きなので、改めて武J、田辺J辺りが乗る機会があって、その時に人気が下がってマークが薄くなりそうならば見直したい馬です。
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