2017年01月05日

2017 中山金杯・京都金杯 レース回顧

**★中山金杯レース回顧**

 まず前提として、思った以上に馬場は重たいままでしたね。ジュニアCが34,2-24,0-36,5という激流で1,34,7止まり、このレースも全体的にはかなり流れて、しかも仕掛けどころもかなり早かったのに2,00,6は、レースレベル自体が微妙なメンバーだったことを差し引いても、コース替わりでここまで回復してこないのは珍しいな、と感じました。
 レースはダノンメジャーが注文を付ける形での逃げ、やはり外主導の先行争いの中でのラップは5F-5Fだと60,4-60,2と綺麗な平均ではありますが、3F-4F-3Fで取ると36,1-47,8-36,7となり、中盤のハロン平均ラップが一番速いという底力を問われる展開。
 出遅れたマイネルフロストの早めの進出がスイッチになる形で向こう正面からの5Fロンスパ戦で最速が3コーナー付近の11,5、そこから延々減速していく消耗戦に近い流れになっていると思いますし、その流れの上げ下げに噛み合った馬、上手く立ち回った馬が上位に来たのではないでしょうか。

 勝ったツクバアズマオーは五分のスタートからやはり後方、レースが淡々と流れる中で向こう正面からじわっと流れに乗って進出しつつ、4コーナーから一気に動き、その惰性を残したままで直線、内から完璧に立ち回ったクラリティを捻じ伏せるように差し切り、コース巧者ぶりを遺憾なく発揮したと思います。
 やはりこの馬としては、前半のペースそのものは極端に速くなく、そこで自分のリズムでついていけた事、そこからレース自体の仕掛けが早い中でスムーズに進出出来たし、ラップ的に見ても11,5のところではそこまで詰めていない、その後の12,0-12,3と減速するところで、コーナリングの巧さを生かしてスルスルっとフラットに上がってこられたのが良かったと感じます。
 フロストみたいに最速ラップの3コーナーで外から押し上げたらそりゃ自殺行為だけど、4コーナーのラップでならそんなに外を回すロスはなかったし、その点でもバッチリ噛み合っての快勝でしたね。

 2着のクラリティスカイも、立ち回りとして完璧だったとはいえ、この斤量、この馬場で新境地を見せたなと思います。
 スタートはそこまで早くはなくて外の馬に少し置かれ気味ながら、そこで変に抑えずフラットに前に取りつき、前が雁行に近い形になっていたのも功を奏し、内枠を利して2列目ポケットをしっかり確保出来たのがまず絶妙でした。
 そこからは、前のスペースを他の馬に潜り込まれない程度に確保しつつ直線までインベタ、入り口で1頭分だけ外に出してスッと抜けてくる、一切ロスのない素晴らしい騎乗だったとは思いますが、外から1頭だけコーナーで勢いをつけ切れたツクバの強襲は凌ぎ切れなかったと。
 個人的にこの馬は、NHKマイルCを勝った時が後半のトップスピード戦だったし、アイルランドTではロンスパ気味の流れの中で切れを引き出せていなかったので、こういうタフな馬場でフラットに入ってくる条件は厳しいかな、と見ていたのですが、むしろ今はこのくらいの距離で、ポジション取って総合力、器用さを生かす方が合うのかもしれませんね。

 3着のシャイニープリンスは逆に勿体ない競馬。
 スタート自体はクラリティより速いくらいだったのに、外の動きを見てスッと抑えてしまったのはなぁ、って思ったし、せめてクラリティの直後を確保する意識が欲しかったなぁとは思います。流れ自体は向いていたと思うけど、流石に4コーナーでインの4列目では届かないし、今日の馬場でスタミナ勝負を怖がった部分もあるのかもだけど、やはり本質的には前目から、の馬だとは思うんですよね。

 シャドウパーティーはやはりここまで時計がかかってくるとスタミナはあるので食い込めるな、って感じで、逆にこの馬が圏内ギリギリ、というレースレベルなのも確かではあるかと思います。
 ストロングタイタンは前半の位置取りはあれでいいと思うのですけど、フロストの仕掛けに対しての対応が半端だったな、ってところで、ペースが上がったところで外に出さずに前との差を詰めてしまって、そこから前が減速するのに外から捲ってきた馬に被せられてスペース失ったのが致命傷でした。
 うーん、なんかパールコードの紫苑Sを思い出しましたし、川田Jは中山だとどうしてもまだ仕掛けの思い切りが半端な気はしますね。無論マイネルの外から勝負に行ってどうか、ってのはあるし、ペース上がったところで置いていかれている感じもあったのでなんともですが、勿体ない競馬にはなってしまいました。




**京都金杯 レース回顧**

 こちらも厳冬期らしく、というべきか、予想よりも一段階馬場が重かったですね。
 やはり外枠不利の京都マイル戦、ということもあり、最序盤内外からみんながポジション取りに行く流れの中で、最終的にはペイシャのハナ、マイネルハニーが外からじわっと取り付いての番手で、ペースが4F-4Fで45,9-46,9、3F-2F-3Fで33,9-23,7-35,2と想定以上に前掛かりになりました。その割に1,32,8ですし、良質な先行力と、その流れの中でしっかり切れを引き出せる馬、それにやはり道中の立ち回りは大きなポイントになったと思います。ただ3~4コーナーで11,7-11,9とそこまで上がり切っていない分だけ、普段よりは外からの押し上げ組にも勝機はあったのかなと感じますね。

 勝ったエアスピネルは五分のスタートから馬のリズムで進めて道中は先団を見る位置くらい、それでもまだ行きたがる素振りは見せつつ、坂の頂上からじわっと仕掛ける感じで押し上げ、コーナーでも3~4頭分外を回して直線、入り口で明確にスパッと切れる脚を使って先頭に躍り出るも、残り200mからはジリジリ、最後は際どくブラックスピネルに迫られるものの、しっかり凌いで久しぶりの重賞制覇となりました。
 この馬自身は前後半ほぼフラットで走破しているかな、というイメージで、それでも一足は削がれない、というあたり、皐月でも見せたように総合的なスピード能力、前傾型の高い素質は感じさせるし、でもやはり最後はこの距離でも甘いんですよね。

 勿論道中外々で自分から押し上げての一番強い競馬をしているのは間違いないのですが、じゃあ距離はマイルがベストか、と言われると、個人的にはもう少し長い方がいいんじゃないかな、って感じました。
 この距離だとどうしてもポジショニングで常に前を取れるとはいかないし、外々回して最後まで突き抜ける持続力はちょっと足りないわけで、2000m前後で安定して2~3番手を取り、ペースを平均に支配して仕掛けを遅らせる、という競馬がベストではないでしょうか。ここは地力で勝ち切れましたし、マイルでも好走スポットはかなり広いのを証明したのは好材料ですが、マイル路線でGⅠを狙う、という観点では少し迫力不足かもしれません。まあ相手関係もあるから一概には言えませんし、この一走で評価を決め打つのは難しいですね。

 2着のブラックスピネルは期待通りの綺麗で卒のない立ち回りでした。
 最内を生かして先行しつつインベタ、直線入り口までじっと仕掛けを我慢して流れに乗り、京都外回りらしく引き込み線でばらけたところでスッと進路を確保、仕掛けを遅らせた分だけ最後までしっかりいい脚を使い、あと一歩までエアスピネルを追い詰めたのは見事でした。
 この馬もやはりフラットには入っていて、今までのイメージよりも前半足を使っても削がれていない感じで、そこは成長や馬体が絞れての体調面もあったでしょうが、これならマイルでもやれる目途は立ちましたね。
 やはりこの馬も基本的には総合力を生かしたいですし、これまではポジショニングが消極的過ぎた面も強かったので(厩舎的な面もありそうなんですけど。。。)、このコンビは継続で先行力と器用さを生かす競馬を続けて欲しいですね。

 3着フィエロも流石に古豪らしい底力は見せてくれました。
 五分のスタートからエアスピネルを見る形、コーナーも極力タイトに回って形は出来たものの、切れ味でエア、持続力でブラックに少しずつ見劣ってのこの結果は、まあローテや斤量、衰えなど総合的に見る必要はあるでしょうけど、元々勝ち切れない馬だし現状の力は出せているのかなと思います。

 4着アストラエンブレムはお約束的にやや出負けして後方から、早々にインに潜り込んで虎視眈々、直線入り口で遠心力を上手く使いつつ3~4頭分外に出して追撃態勢は流石にデムーロJらしいリカバーだったと思いますが、やっぱり本質的にこの馬はハイペース適正は低いな、と。
 シンザン記念でも急流でいいポジションから伸びあぐねたし、今日もスタート以外での流れや進路取りはほぼ完璧に立ち回っていて、それでも最後まで切れ味を維持できていない感はあるので、スピード勝負のマイル戦だと頭打ちになりそうかな、と。自身がスローにコントロールできる流れならマイルでも、ですけど、重賞レベルになるとU字の1800mでゆったり入るレースの方が適正は高い気はします。

 マイネルハニーは逆にハイペース適正高い馬なので、外からしっかりプレッシャーをかけてこの流れに持ち込んだのは、どちらかというと番手を取って満足、のパターンが目立つ大地Jとしては頑張ったとは思いますが、流石にマイルだと他の馬が切れ味を全く引き出せないほどゴリゴリには上げられないし、やっぱり中山金杯の方が良かったんじゃ?とは思ったんですけどね。
 ケントオーもポジショニングは完璧だったんですけど、私の想定より流れた分厳しかったなと思います。マイルだとややスロー、くらいでバランスを取りたい馬だから、その内どこかでスパッと嵌る条件はあると思うし注目はしていきたいところです。

 そしてミッキージョイでもポツンするのか…………と思いきや、しっかりコースロスなしに直線まで持ってきて、結構惜しいとこまで来てるんですよね。。。
 ひとつ前の万葉Sも、ピンポンなんかに乗ってる時点で絶対何かやる、と思ってたら、案の定のスタンド前で馬群から離しての押し上げ。
 その分だけこのレースもすごくステイヤーの資質が求められる、中盤の緩まない面白いレースにはなったし、でもああいうのは力のあるポテンシャル・スタミナタイプでやってこそですからねぇ。春天でアルバートあたりに乗ってやって欲しい、というか、地味にこれそういう営業なんじゃないかと勘ぐってしまいますね。。。
posted by clover at 04:18| Comment(0) | レース回顧・中央競馬 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月01日

私的名馬列伝 第一話 ライスシャワー

**★はじめに**

 競馬ファンにとって、誰しもこの世界にのめり込むきっかけとなった馬はいると思います。
 列伝の一回目にこの馬を持ってきたのも、私にとってそういう思い入れ補正の非常に強い馬であるからです。

 最初なので少し個人的な話題を語らせていただきますが、平たく言えば何人かの友達と共に、その内の一人の父親に連れられてはじめて競馬場に赴き、そしてお遊びでみんなダービー100円分だけ買っていいよ、と言われて。
 その時点ではほとんど競馬の知識皆無だったので、単純に語感がいいからとライスシャワーを選んで複勝を買ってもらい、そうしたらものの見事に穴馬券だった、という、なんというかあまりにベタベタ過ぎるビギナーズラックではありました。

 でもあの日、自分の選んだ馬が、スタートから圧倒的一番人気だった馬の直後を走って、そして最後まで粘り通してくれた時の興奮が、その配当でみんなにささやかなご馳走をした誇らしさが、私の競馬に対するとびきり鮮烈で好印象な原体験なのは間違いなく。
 それから四半世紀、折々でその熱意の程度に差は出たものの、競馬は常に自身の趣味の大きな一角を占めることになったのです。

 今回の列伝では、そんなライスシャワーの競走馬としての歩みを、そして改めてのその能力分析を綴ってみようと思います。
 [ライスシャワーの生涯戦績](http://keiba.yahoo.co.jp/directory/horse/1989107699/)はこちら、25戦6勝と数字上の安定感はなかった馬ですが、その中のGⅠ3勝が全て3000m超のレースで、かつミホノブルボンの3冠と、メジロマックイーンの天皇賞・春の3連覇を阻むジャイアントキリングが含まれている事で、稀代のヘビーステイヤーとして、そしてレース中に命を絶った悲劇の名馬として記録より記憶に深く残る競走馬です。

 ではまず、いくつかの期間に分けてその歩みを振り返ってみましょう。


**★デビュー~ダービー<才能の萌芽>**

 将来の名ステイヤーの割にデビューは早く、当時の馬齢で3歳の夏、新潟の1000m戦でした。
 ここでは好スタートから番手をスッと確保し、逃げた馬を何とか交わしてデビュー勝ち、結果的に相手関係に恵まれていたし、減量騎手の恩恵もあっての勝利、という感じで、余勢をかって挑んだ新潟2歳Sでは内枠からポジションが取れずに揉まれて惨敗。秋の手薄なOP戦、芙蓉Sでもレースセンスの良さを見せてなんとか勝ち切るもののそこで骨折が判明し、4歳の春まで雌伏の時を過ごします。

 OP勝ちの賞金があったことでクラシック路線に乗れ、スプリングS、皐月賞と好位での競馬を展開しますが、稀代の快速逃げ馬ミホノブルボンの前に為すすべなく破れ、ダービーの権利を狙ったNHK杯でも、外枠も祟り好位から動けず完敗、辛うじて賞金でダービーの出走に漕ぎ着けたものの、ここまでの戦績では16番人気、という評価も妥当だったでしょう。

 しかし次走の[日本ダービー](https://www.youtube.com/watch?v=00I36DK_0Zs)、ほとんどの馬が未知の距離で、ライスシャワーは後の名ステイヤーとしての片鱗を見せます。
 好スタートからブルボンの番手につけ、タフな馬場でブルボンが淡々と刻むのを果敢に追走、直線に入って坂で一気に突き放され、いったんは後ろから来たマヤノペトリュースにも差されるものの、坂上からしぶとい粘りで差し返し、見事に2着をもぎ取ったのです。

 ここまでで常にレースセンスの良さは見せてきたもののあと一押しが足りない馬だったライスシャワーは、距離延長をものともしない豊富なスタミナと粘り強い根性を見せて、この世代の打倒ミホノブルボンの一角として名を知らしめたのです。

**★セントライト記念~天皇賞・春<鮮烈なる刺客>**

 夏場を休養に充てたライスシャワーは、セントライト記念から始動。
 ここでは夏の上がり馬レガシーワールドを僅かに捉えきれなかったものの、ダービーが決してフロックではないことを証明し、勇躍西上してミホノブルボンが待つ京都新聞杯に出走します。
 ここでも快速を生かしてブルボンがレコードで快勝するものの、ライスシャワーも好位から直線でジリっと差を詰め、ダービーの4馬身からその差を1馬身半にまで縮めて、大きな手応えを得て[菊花賞](https://www.youtube.com/watch?v=Js_pOEVlHqI)を迎えます。

 このレースの注目は、当然ブルボンが無敗の3冠達成なるか、でした。
 新馬戦以来逃げ戦法を続けてきたブルボンに対し、キョウエイボーガンが玉砕逃げを示唆し、実際にレースもボーガンの大逃げ、それをブルボンが追いかけて、後続はかなり縦長になる中で、ライスシャワーは5番手で虎視眈々と進出の機会を伺います。
 中盤でじわっと前との差が縮まって、坂の頂上から動き出して直線入り口で敢然と先頭に立ったブルボンに対し、外から鋭く襲い掛かるライスシャワー、しぶとく粘り込むブルボンを残り100mできっちり捉え、場内の悲鳴を余所に歓喜の初GⅠ制覇を成し遂げたのです。

 こうして一流馬の仲間入りを果たしたライスシャワー、有馬記念こそみんながトウカイテイオーをマークする中で大逃げのメジロパーマーがまんまと逃げきるトリッキーな展開の中で凡走するものの、年明けの目黒記念で2着、日経賞では4角先頭から堂々の圧勝で、[天皇賞・春](https://www.youtube.com/watch?v=NlFi-AkI53A)の有力馬として再び西上します。

 そしてここでも、ライスシャワーには大きな壁が立ちはだかっていました。
 前年にトウカイテイオーとの二強対決を堂々制して天皇賞・春の2連覇を達成、その後骨折で休養していたものの、11か月ぶりの大阪杯で圧勝して健在をアピールした稀代のパワー型ステイヤーメジロマックイーンが、史上空前の同一GⅠ3連覇を目指して出走してきたのです。
 このレースに向かうにあたり、極限の馬体にまで絞り込まれたライスシャワーは、ゲートでマックイーンが中々入らないのにも動じず、レースではいつものようにスッと好位を確保し、しっかり足を溜めながらマックイーンの背後をヒタヒタと追走、逃げるパーマーを捉えに行くマックイーンを4コーナーで射程圏に捉え、残り200mの地点でスパッと切れて抜け出し先頭、そこからもジリっと差を広げる完勝でした。

 あれから四半世紀近く過ぎた現在でも、未だに同一GⅠ3連覇が達成されていないわけですが、少なくともこのレースのマックイーンに関してはパフォーマンスを落としたわけではなく、その点からも間違いなくライスシャワーのベストバウトだったと言えましょう。
 こうしてミホノブルボン、メジロマックイーンという当時の2大スターホースの大記録を阻んだ馬として、ライスシャワーには関東の刺客、という悪役の襲名を確固たるものとしたのです。

 余談ですが、やっぱり今聴いても杉本さんの実況は素晴らしいですね。そして関東の、という枕詞にしても、東西交流が今ほど活発でなかった時代ならではの味わいを感じさせます。

**★オールカマー~日経賞<燃え尽きた刺客>**

 天皇賞を制してその実力を満天に示したライスシャワーは、秋は古馬王道路線を歩むべくオールカマーからスタート。
 しかしここではツインターボの大駆けの影も踏めず、天皇賞・秋でも好枠から上手く立ち回ったものの上位には離され完敗、JC、有馬と距離が伸びてもいいところが全く見られず、春の激走のツケが祟ったように覇気のないシーズンとなってしまいます。
 またGⅠ馬ならではの重斤量にも悩まさせることが増え、年明け60kgを背負った京都記念は新たな王道路線の葦毛の怪物、ビワハヤヒデの前に完敗、ようやく日経賞で4コーナーからの捲りで早め先頭、と闘志ある競馬を取り戻しはしたものの、そこでも斤量が祟ってステージチャンプの差し込みを許し、距離延長に望みをかけた天皇賞・春の前には再度の骨折が判明と、この期間は本当にちぐはぐ、踏んだり蹴ったりな状態でした。

**★有馬記念~宝塚記念<ヘビーステイヤー、そして……>**

 復帰の舞台は有馬記念、ここでは2年前にブルボンが取り逃した3冠を、圧倒的なパフォーマンスで達成したナリタブライアンという突出した怪物が相手となります。
 この時代恒例のツインターボの大逃げの中、先団から鋭く抜けて圧勝するブライアンに対し、休み明けのライスシャワーはそれでも好位を上手く立ち回り、ヒシアマゾンの後塵も拝するものの3着と見せ場を作って、まだ終わった馬ではないことを証明します。
 けれども年明け2戦はやはり斤量や馬場に苦しめられて掲示板を外し、次走の[天皇賞・春](https://www.youtube.com/watch?v=Bc2QSmOoJUg)でもブライアンがいる限りは着争い、という空気は否めませんでした。

しかし直前で大本命のブライアンが怪我で回避し、一気に混戦ムードとなって。
 確たる軸馬がいない中で出入りが激しくなる中、向こう正面から一気に進出して残り1000mで敢然と先頭に立ったライスシャワーは、水を得た魚のように淀の坂を軽快に下り、直線で一気に突き放して、最後ステージチャンプの猛追を受けるものの今度はギリギリで凌ぎ切って、見事復活の凱歌を上げたのです。

 かつてのヒールホースの長い低迷期からの復活、その筋書きのないドラマにファンは酔い痴れ、一躍ライスシャワーをスターホースの座に押し上げます。
 かくして宝塚記念では堂々ファン投票1位に選ばれての出走、しかしそこに悲劇の落とし穴が待ち構えていました。
 改装で高速化の進んだ京都で、レコード決着となるスピードレースの中、戸惑うように後方を追走していたライスシャワーは3コーナー過ぎでガクンとバランスを崩し転倒、不帰の馬と、なったのです…………。


**★能力分析<本当にヘビーステイヤーだったのか?>**

 堂々たる名馬として現在に至るまで名を馳せている割に、ライスシャワーの戦績そのものは決して安定感はありません。
 ただ、少なくとも2200m以上の距離では好走実績はかなり多くて、その辺りも踏まえて現在の視点で見ると、この馬は弱点がかなり多く、好走スポット自体は狭いものの、それに合致すれば強い競馬を見せられるタイプだったのではないかと思います。

 まず一つ目の弱点は、端的に距離、という以上に、前半のペースにあるのかなと。
 この馬の長所は序盤のポジショニングの良さと操縦性の高さ、そして要所での加速性能にあり、スッと好位を確保して一足で一気に出し抜く、そこからしっかり粘り込むのが勝ちパターンでしたが、基本的に序盤のペースが上がった、ややハイ~平均前後まで流れたレースでは大半が凡走になっていて、それは純粋にレース全体の平均速度が速い場面、秋天や最後の宝塚などで顕著に見受けられます。つまり先行力はあるけれど前半の無理は効かない、後傾タイプの馬だったのでしょう。
 殊更長距離で安定したのは、勿論スタミナが豊富だったのも確かながら、それ以上に折り合い面での不安がない事と、どうしたって平均ラップが落ち込む中で、前半に無理せず流れに乗れるからだったのだと思いますし、古馬になって唯一2500m戦で圧勝した日経賞も、ドスローからラストまでラップを落とさない明らかに前有利、機動力が生きる流れでした。

 次いで斤量と馬場が挙げられます。
 基本的にベスト体重は430kg台後半、という馬だけに、この時代のGⅠ馬が当たり前に背負う斤量59kg、60kgは相当の負担だったろうし、重い馬場も基本的に得意にはしていませんでした。無論重馬場でも好走実績はありますが、その場合は他の要素で減点が少なかったパターンが大半で、基本的には良馬場で一瞬の切れ味を生かしたいタイプだったと思います。

 あともうひとつ、基本的にパワータイプではない中で、坂での加速もちょっと苦手にしていたのかなと。
 近年でもそういう馬は結構いますが、この馬もレース内容を吟味していくと、NHK杯や目黒記念、秋天では府中の坂の地点で置いていかれていたり、中山でも、前述したドスローの日経賞以外は基本最後甘くなるケースが大半で、その意味でもゆっくり登りゆっくり下る、という定石があり、直線平坦の京都はマッチしていたという事でしょう。
 平均ラップのスピード戦になった京都新聞杯であれだけ好走できたのも、ほぼ全ての要素でこの馬にベストな条件が揃っていたからだと思うし、個人的には1回目の春天の次に強い競馬をしたレースだと認識しています。

 以上の観点から、決して単なるステイヤーではない、むしろ単純なパワー型ステイヤー、スタミナの絶対値としてはメジロマックイーンの方が上だったろうと思っていて、どちらかと言えばポジショニングの巧さと一瞬の切れを生かす近代型ステイヤーのはしり、だったのではないかなと思っています。
 無論たらればですけど、今の馬場で、スローペースが蔓延し、斤量もあまり背負わされない中でなら、もっと安定した成績を上げられたのではないかなと感じますね。

**★菊花賞<ライスを勝つべくして勝たせた勝負の綾>**

 レースラップは59,7-65,0-60,3。
 ボーガンの逃げで入りの1000mは速いものの、そこから5F続けて13秒台を刻む決定的な中緩みがあり、序盤超縦長の展開で無理をせず入り、中緩みでじんわりと差を詰めていったライス、タンホイザあたりは非常に無駄のない動きをしていて、逆にブルボンは基本的に淡々と一貫した平均ラップを刻みたい馬だっただけに、急激なブレーキを踏まされ、それに付き合ってしまったのは結果的に致命的だったのかなと思います。

 勿論戦前から、むしろクラシック開幕前から短距離血統のブルボンの距離不安は囁かれ続けていましたし、例えばここで1~2コーナーでブルボンがボーガンをパスし、12秒後半程度で淡々と刻んでいったら勝負はどうなったか、それはわかりません。
 ただ少なくとも言えるのは、それでブルボンが失速する可能性はあっても、詳しくは後述しますが、翌年の春天で道中一切13秒台を刻まない、改装前の京都では相当にタフな流れの中でも楽に追走、切れ味を示したライスシャワーにとっては、その程度の緩みの圧縮は苦にならなかっただろうし、余程仕掛けどころを間違えない限りこのレースでは勝てていただろうと思います。

 逆に、完全に中緩みで後半4F戦になったからこそ、あそこまでブルボンが抵抗できた、とも言えて。
 実際に後半4Fのラップは12,3-11,6-11,8-11,6と最後まで落とさない、前にいた馬に楽な流れであり、直線入り口でブルボンとライスの差は3馬身近くあったことを踏まえると、ライス自身の後半3Fは11,6-11,4-11,4くらいかなと思うし、基本的に一瞬の切れ味は高いけど、そのトップスピードの持続性はそんなに高くないライスで、ブルボンも切れ味自体は秘めていて、かつ底力が圧倒的だった馬ゆえ、最速地点でスッと詰めた割に最後接戦になっているのかなと考えますね。

**★天皇賞・春(1回目)<ステイヤーの証明、その上で>**

 レースラップは61,9-74,2-61,0。それまでのレコードを一気に1,7秒も縮めたレースで、そのレベルの高さ、ステイヤーとしての資質を強く試された証として、菊花賞では緩みのせいで本質中距離型のタンホイザに2馬身余りの差だったのが、ここでは8馬身以上の大差をつけている事でも間接的に見て取れます。
 上でもチラッと触れたように、このレースはこの時代の天皇賞としては稀有な事に、スタート直後の1Fを除いて1回も13秒台のラップを刻まない、息の入るところの少ない長距離型の流れになっています。

 この次の年に京都競馬場の改装があり、そこから馬場の高速化がどんどん進んでいくわけですが、試みにマックイーンが勝った91年の春天から2016年までの全てのレースのラップを調べてみても、この中盤の74,2というのは大逃げ馬のいた13年の72,8、サクラローレルが早仕掛けをして大レコードが生まれた97年の73,9に次いで3番目に速いラップであり、当日他の距離の時計で馬場差を見れば、普通に短距離で1~1,5秒、中距離で1,5~2秒程度は時計を擁する馬場でのこの流れは異質、と言ってもいい速さだったという事です。
 改装後、全体時計でこのレースを上回ってくることはざらですが、その場合ほとんど後半5Fの時計差であり、それだけ高速化が進み、相対的に前半の流れが楽になっているわけですね。ちなみに近代春天のお手本ラップのような今年のキタサンブラックの逃げ切りが61,8-74,4-58,9で、奇しくも2200m地点まではほぼ同じ時計で走っているのが中々興味深いところです。

 その中でもうひとつ異質なのが、このレースのL2で刻まれた11,4という猛烈なラップ。
 馬場改装後の天皇賞は後半5Fで60秒を切るのはほぼ当たり前なのですが、それでも最速の平均は11,3~4くらい、史上最速はディープインパクトが刻んだ11,0で、これはあの馬の近代型ステイヤーとしての圧倒的な素材の高さを感じさせるし(上がり4F44,8、3F33,5とかきっともう絶対見られない破壊的なラップだと思う)、でもあの頃は高速化絶頂でもあったしなぁ、と、その辺評価に難しさはあるのですけどもね。

 ともあれ、馬場差を考えると圧倒的にスタミナを求められる流れの中で、それでも直線入り口でマックイーンと半馬身差、残り200mでは既に1馬身ちょっとは抜けていたので、ライスシャワー自身はこのL2で推定11,3という凄まじい切れ味を見せていて。
 上がり3Fのレースラップが12,5-11,4-12,6なので、直線入り口で都合1,1という急加速を求められ、かつ11秒台前半にまで突入するというのは、例えばJCのL2、11,2の地点でゴールデンフェザントにあっさり切れ負けしたように、一瞬の切れだけは秘めていなかったマックイーンにとっては抵抗できない加速、速度であったと思えます。故にこの流れの中でその切れ味を引き出せる余力があった時点で勝ちは確定的だった、というところでしょう。
 無論渾身の仕上げであったのも確かで、全てが上手く噛み合ったベストバウト、という評価は揺るぎないところですね。

**★天皇賞・春(2回目)<ライスが自分で行った…………>**

 レースラップは63,7-75,3-60,9。
 ナリタブライアンの回避で全馬色気を持っての出走だけに、序盤の入りがかなり遅くなっているのが特徴的ですね。
 重馬場で行われたから時計が遅くなるのは妥当、と思えますが、前述したようにこの年からは新装京都開催、条件戦の時計を見ても重馬場ながら93年とほぼ同じか、むしろ速い時計が出ているくらいで、だからレースレベル自体は平凡だし、ライスのパフォーマンスとしても1回目とは比べるべくもない、というのは間違いないと思います。

 それでも勝ち切れた原因は、道中で緩みに付き合わず、淀みの大きいところで自分のリズムで押し上げる強気な選択を取ったから、でしょう。
 ライスが自分で行った、とは、ライスシャワー物語という本で書かれた、厩務員の方のその瞬間の想いを取材しての一文ですが、実際に2年前のレースを馬が覚えていて、このペースでは遅いと判断して進出する気概を見せたのに騎手も呼応した、と見るとドラマ的ですね。
 なんにせよ、残り1000m地点では既に先頭に立っていて、そこからのラップは2年前と酷似しており、直線入り口で11,5と切れ味を見せて後続を一気に突き放したものの、この流れの中では後続にも余裕があり、自身が12,5と落とすところで一気に食い込まれたというところで、少なくとも菊の時点のライスでもL1でここまで落とさなかったろうし、衰えはある中で様々な想い、要素が噛み合っての戴冠だったとは思います。

**★総括**

 奇しくもこの時代、馬場改装などで高速化が進み、そして血統的にもノーザンテーストの時代が終わり、ライスの父リアルシャダイのリーディングを経て、トニービン、ブライアンズタイムを経由しサンデーサイレンス1強時代へと突入していく端境期ではあって、その中でどちらかというと世間のイメージではライスシャワーは、古き時代を体現するステイヤー、と見られている感があります。
 ただ改めて分析してみての私見においては、最低限のスタミナの裏付け以上に、その操縦性と切れ味の鋭さで勝負する、むしろ近代型ステイヤーの嚆矢と呼べる存在なのではないかと感じます。最近の馬ではフェノーメノのようなタイプかなと。
 その意味では少し時代を先駆けて生まれてしまった、とも言えるし、それでもその資質がふたつの偉大な記録を阻む最大の要因になったと見做せば、新時代の長距離スタイルを切り拓く先駆者としての命運を全うしたのかな、とも思えますね。

 ライスシャワー。
 その美しい名前に見合った輝きを、そして儚さをまとった、黒鹿毛がターフに映える素敵な名馬でした。
 
posted by clover at 05:18| Comment(0) | 名馬列伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はじめましてのご挨拶

はじめまして、cloverと申します。
この度、競馬についての諸々を語る為のブログを立ち上げさせて頂きました。

競馬観戦歴こそ長いものの、
こうしてきちんとした形で自身の意見を発信するのは初心者ですので、
色々と拙い面も出てくると思いますがどうぞ宜しくお願い致します。


以下、今後発信していくコンテンツについてサラッと説明させて頂きます。


1.レース回顧


本ブログのメインコンテンツになります。
基本的には中央競馬の重賞レースを中心にして、
出来る限りレース直後の飾らない感想、分析を綴っていきます。

また、地方交流重賞や、海外の主要なレース、
或いは私が注目している馬が出たレースなども、
適宜触れていけたらな、と思っています。


2.レース予想


こちらは副次的なコンテンツになります。
基本的に馬券は買わない主義なので、
予想といってもあくまで観戦の為のスパイス程度です。

こちらも中央の重賞レースをメインに、
前日更新で公開していく予定です。
海外や地方も余力があればやります。


3.名馬列伝

こちらでは、私がリアルで見てきた心に残る名馬の戦歴を、
今の視点で改めて多角的に掘り下げ、
その強さの本質や魅力を探っていこう、という試みです。

90年代から近々の馬まで、
基本的には古い馬と新しい馬を交互に、
月2本くらいのペースでゆったりと書けていけたらいいな、と。

(※2018年は、一先ずコンテンツ休止、とさせていただくつもりです。)

ともあれ、最初から大風呂敷を広げても続かないので、
あくまで自分のペースで、楽しんで書くことをモットーに、
コツコツ配信していきますので、
温かい目で見ていただけると助かります。

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