2017年01月08日

2017 フェアリーS・シンザン記念 レース回顧

**★フェアリーS レース回顧**

 中山は比較的雨の影響は受けず、そしてツヅクがかなり思い切ってのハイペースを演出した事で、全体の時計も押し上げられた格好ですね。
 ラップは34,7(11,57)-23,3(11,65)-36,7(12,23)=1,34,7(11,83)という、序盤から速く、中盤も緩みのない一貫した消耗戦でした。
 全体として縦長、ではあったけれど後続の押し上げの意識もそれなりには早く、またラップ的にもうコーナー地点では12,4と減速していたので外からの押し上げも比較的楽、結果的にそこまで枠の有利不利が問われず、純粋にこの流れに無理なく乗れる前半の追走力と、後半のスタミナ、持久力が強く問われるレースになったと思います。

 勝ったライジングリーズンは、15番枠から五分のスタート、枠なりに流れに乗って中団の外目を確保します。ペース的にはこの馬がいたあたりが丁度フラット、上がり3Fから逆算しての推定ですが、47,4-47,3くらいで走破している筈で、まずその点でカチッと嵌ったとは思います。
 ただここまでの戦績の中でここまで前半要素が問われるレースに出ていなかったので、結果的にこの馬は後半の切れ味や器用さより、減速していく流れの中でワンペースの持久力を生かす競馬がマッチしていた、ということでしょう。コーナーでも一番外を回していたし、距離が伸びてもスタミナ面に問題はなさそうだけど、前にコントロールされる競馬だとどうでしょうね?って、そこは今後の課題になりそうです。
 こういうタイプは距離を伸ばしつつポジショニングで優位を作って、前後半をなるべくフラットに入れるようにすれば、桜花賞路線では足りないと思いますがオークス路線で面白さは出てくるかもと思いました。

 2着のアエロリットは注文通りの番手からの競馬、ただツヅクがかなり飛ばす中で自身もそこまで緩めずについていって、4コーナーでもまだ手応えは楽、直線向いてきちんと一足は伸ばしてきて、自身46,5-48,3くらいのバランスの中でしぶとさは見せたけれど、今日も同じようなタフな競馬で1枚上手がいた、という形と思います。
 結局今のところ超スロー、激流、激流と、ある意味でまともなペースで競馬していないので、どういう流れが最適なのか読みにくいですが、この競馬センスは素晴らしいし、マイル適性も高いので、桜花賞路線でも展開次第で掲示板くらいはありそうなタイプでしょうか。今のところ崩れるパターンは見えにくいので、相手関係が弱いところなら今後も積極的に狙っていっていい馬かなと思います。

 3着モリトシラユリは道中は後方、コーナーでもやや内目を通して直線入り口で進路を見出し、坂でややもたつくところはあったもののラストの食い込みはライジングにも劣らないもので、前走ダートのゴリゴリの消耗戦で勝ち切ってきたところを見ても、この馬も消耗戦の適性が高かったのが上手く噛み合ったと思います。
 それでも外を回したライジングには完敗だし、中々こんな前傾の激流は見ないので、狙いどころは難しい馬になるかなぁと。この馬もマイル自体はやや忙しいとは感じました。
 4着ジャストザマリンは完璧なインベタから進路もスムーズに取れて、流れ的にも向いてこれなので、現状こういうレースでは、ですね。平常な流れの中で切れ味を生かす競馬でどこまで進捗があるか、ですけど。

 コーラルプリンセスはやはりこの流れの中でポジショニングで後手を踏んだし、進路取りもスムーズでなく直線大外、そこからも坂下、坂上、ラストもジリジリで迫力はなく、やはりこういうペースだと後半の良さが削がれるタイプなのかな、と感じました。やはりマイルだと忙しい馬でもあり、オークストライアル路線で改めて、ですね。




**★シンザン記念 レース回顧**

 こちらは中山とは裏腹に、雨の影響が予想以上に大きかったですね。馬場の変化に表記が追い付いていない感じで、10レースまでやや重とか嘘だろ、ってくらいに力のいる特殊な馬場になってしまったし、その中でやはり内から主張する馬が多くて激流、完全に消耗戦になってしまうと、また全然違う適性が問われるレースになってしまったかなぁ、というところです。この辺は前日に読み切れないところなのでどうにもなりませんが、本当に今年の京都は土台から重い仕様ですよね。
 最終的にメイショウソウビが逃げてのラップは34,5(11,5)-25,0(12,5)-38,1(12,7)=1,37,6(12,2)と完全に後半加速する余地のない厳しい流れで、流石にこうなると純粋なスタミナと馬場の巧拙のほうがより強く問われる特殊な内容だったかなと思います。

 勝ったキョウヘイは大きく出遅れて最後方から、直線入り口まで全く動かずインベタで我慢、そこからスルッと中目に持ち出し、タイセイスターリーがやや外に寄れたところをすかさず割って突き抜けるという中々に派手な競馬でした。
 しかし最後方のこの馬自身ですら、推定で48,5-49,1と前傾バランスでは入っていて、それでも相対的に足を残せたこと、前走を見ても重馬場巧者であったことが上手く噛み合っての完勝、だったと思います。じゃあ今後時計の速いところで、となると安定しては来ないでしょうが、ひとつ決定的な武器はある馬、という認識は頭に置いていくといいかな、というところではないでしょうか。

 2着のタイセイスターリーは絶好のスタートから折り合い重視で徐々に下げて中団、結果的にドがつくハイペースの中でこの立ち回りは正解、少しでも馬場のいいところを選んで外々から仕掛けも遅らせて直線、上手く出し抜きかけたところでインから一気にキョウヘイに来られるものの、最内でしぶとく粘るペルシアンは差し切っての2着確保は見事でした。
 基本的に難しさのある馬ながら、こういう一貫して減速的な流れの中で真面目に走ってきた感じはあるし、素質は高そうなのでもう一回良馬場で真価を問いたいところです。

 3着ペルシアンナイトは、やはりお約束の出遅れからインに寄せて、中盤やや緩み始めたところでじわっと前に取りつき狭いところでコーナー回って直線、外からマイスタイルに蓋をされて進路を失うも、更にインに切れ込んでそこからスタミナを生かして粘りを見せるものの、外差しに食われて賞金加算できずの惜しい3着でした。
 とりあえず素材的に、速い流れでもそれなりに結果を出せたのは好材料ですが、しかし後半ここまで全馬バテバテになってるレースで、時計もすごくかかっているから、本質的な意味で前半流れてもやれるのかはまだ確定的に判断はしにくいですね。あとこの流れの中で、序盤はあまり急かさずにコースロスを減らすのを優先して、中盤のやや遅くなり始めたところで取りついていったのは巧かったと思うし、スタート直後にリカバーしていって脚を削いだ感のあるアルアインとは対照的でしたね。
 今後を考えると賞金加算まで届かせたかったですが、改めてもう少し前半ゆったり入れるロケーションで見直したいです。

 トラストも結局これだと、ハイペースが駄目なのか道悪が良くないのかわかりづらいんですよね。
 道中の手応え以上に粘っているのは朝日杯同様なんですが、基本的にはややスローくらいのバランスで入っていけるコースで真価を問うて欲しいかな、とは思いますし、弥生賞あたりで先行してレースを支配する形で一線級にどれだけ伍していけるのか見てみたいです。
 マイスタイルもここまで悪化すると流石に、ってのはあるし、レースの流れに沿って上手い競馬はしてくれたけどまだパンチ不足でしたかね。

 アルアインは上でも触れたように、出遅れた後リカバーの意識が強すぎて、ペース速いところで無理に脚を使った分が最後に来た感じで、不利も確かに勝負圏内に、という視座では大きかったけど、でも加速地点でもないからそこまで致命的、ではなかったようにも。そこから立て直しての伸びも非凡、とは言えなかったし、純粋に能力的にそこまでではない気はするんですけどね。ただスタート以外の全体的な競馬センスは改善されてきたので、きさらぎ賞あたりでゆったり入って、後半要素でどれだけやれるか試して欲しいです。 
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2017年01月07日

注目馬:グレイトパール

 1月5日の初夢S(ダート1900m)を圧勝したグレイトパールの将来性について見ていこうと思います。

**★[現時点での成績](http://keiba.yahoo.co.jp/directory/horse/2013104508/)**

 6戦4勝、芝の2000mでデビュー勝ちするものの、500万での2戦は鳴かず飛ばす。
 休養後の秋、4戦目からダート路線に転向するとこれが大当たり、京都ダート1900mを3連勝して一気にオープンまで昇り詰めました。
 ここではそのダート3戦の内容をざっくり分析してみようと思います。同じ距離・コースのレースに出ているので比較しやすいですね。京都の9,5Fはどこで中盤を区切るか悩む距離なのですが、一応3,5F-3F-3F(カッコ内はハロン平均)で見ていきます。

**★500万下**

 ラップは41,7(11,92)-39,1(13,03)-37,7(12,57)=1,58,5(12,48)。
 明確に序盤が速くて中緩み大、直線の仕掛けも遅く、まず前半の追走力、そしてL3が13,0に対しL2が12,0となる中で高い加速性能と、ダートの範疇での質の高い切れ味を求められています。
 この日は京都大賞典の開催日で良馬場、当日の1800mの500万下が平均で流れて1,52,7(12,52)なので、走破時計はまずまず優秀ですね。

 1番枠からもっさりしたスタート、ただダート初戦で内で揉まれたくない、という意識が働いたのか、最初のコーナーに入るまでかなり押して先団に取りつき、前との間隔を適度に保ちつつの2列目ポケットを確保。
 中緩みで隊列が縮まる中、早めに外に持ち出して3コーナーでは3番手の外、そこから馬なりで先頭に取りつき、ほぼ直線入り口で先頭、そこから明確に突き抜けて、最後は抑える余裕のある完勝でした。

 このレースでの収穫は、序盤でやろうと思えば追走出来るのを示したことと、ペースの緩急にしっかり対応できていること、直線入りの加速を自力で為していることですね。
 その先の活躍を見れば一目瞭然ではありますが、このレースは中緩みが顕著な中で、地力で断然抜けていたこの馬には序盤はともかく中盤以降は楽過ぎる流れだった、とは言えて、その中での急加速性能なのでもっとタイトな流れの時にどうか、って課題はありますが、まず圧倒的な性能ではあったと思います。

**1000万下**

 ラップは42,3(12,08)-37,0(12,33)-35,9(11,93)=1,55,2(12,11)。
 ほぼ綺麗な平均ペースで1Fごとの波も少なめ、淡々と流れる中で最速ラップがL3、4コーナー地点の11,7となってきて、基本的には当然前目、内目を通した馬が俄然有利な展開です。
 この日はJCの当日で不良馬場、1200mのOPで1,09,4(11,57)とかなりの時計は出ているものの、500万下はレースレベルは低そうなものの中盤緩まないハイペースでも1,51,7(12,41)止まりの中で、このレースでは時計面でのパフォーマンスもかなり優秀です。

 15番枠から互角に出て、前半は特に無理はせずに馬なりで中団外目を確保、レース自体が加速する3~4コーナーでスーッと外から動き4コーナー中盤ではもう先頭列に並びかける積極的な競馬。2頭分外を回しつつも脚色断然で直線向いてもう先頭、ここでもそこから突き放すのみ、ラップ的にも11,7-12,0-12,2とほとんど落とさず、自身の上がりは35,7なので4コーナー地点でこれより速い脚を外々で使って最後まで落とさないのは非凡なレースぶり。
 前走に比べて圧倒的に中盤が速くなっている中で、本来の性能が存分に生きた格好であり、このラップの中でラスト3Fの平均が最速にまで引き上げたのは凄まじいですね。コーナーで速いラップへの適応も見せたし、元々芝でもそこそこやれた故の、高速馬場巧者という一面も見せたと思います。

**初夢S(1600万下)**

 ラップは44,0(12,57)-38,1(12,70)-36,1(12,03)=1,58,2(12,45)。
 明確に前半が緩く、中盤でも緩いままの、後半4Fの特化戦となっていて、逃げ番手のテイエム・ヒデノが4着以下を突き放しての2、3着を確保していることからわかる通り、完全に先行有利、3~4コーナーで内目を通した馬の必勝パターンのレース。
 時計自体も同日の3歳500万で1,52,5(12,50)、古馬500万下で1,52,4(12,49)とそこそこ出ている中で、この2レースの勝ち馬のサンライズノヴァとハリケーンバローズもこれから出世しそうな馬ではありますが、それと比較しても1600万下としては走破タイムそのものに価値は見出せないレース、となっています。

 5番枠から互角に出るものの、やはり馬任せで道中はやや後方の外目、中盤までは自分のリズムに徹して、残り800mから一気に動いてあっという間に先団に接近、そこで前も一気にペースが上がって、4コーナー地点では6頭分ほど大外をぶん回しつつもやはり脚色断然、直線に向いたところで既に前の2頭を射程圏に捉え、残り200mで先頭。
 流石にそこから一気に突き放すまではいかないものの、最後まで脚色に余裕を残しながらの完勝、でした。

 正直これは有り得ないレベルで強かった、と言っていいと思います。
 ラスト4Fが12,4-12,0-12,0-12,1というラップを刻む中で、この馬の上がり3Fが35,4、ラスト1Fはほぼこの馬のラップと思うし、L4の段階でもはっきり見てわかるほど後方から先団すぐ後ろまで一気に押し上げていて、そこは推定になりますが、この馬の後半4Fは11,9-11,7,11,6-12,1くらいにはなるはずで。
 不良馬場ならいざ知らず、いくらスローで足を溜めたとはいえ後半で47,3は桁違いの脚力だし、しかもそれを6頭分も外をぶん回して、ってのがえげつないところで、正直騎乗としてはスローの箇所でのんびり、レースが加速するところで押し上げと全く噛み合っていないのにこの強さ、後半特化で更に鋭さを上げてきたのには正直戦慄しました。能力的には優に重賞級、いずれGⅠレベルでも充分にやれるだけの素材力を見せつけた、と言っていいでしょう。

**★総括**

 この3連勝の中で、ハイペース、ミドルペース、スローペースを経験し、500万と初夢Sではレースの流れにフラットに入れない真逆の展開で結果を出していて、かつ後半要素において、ダートレベルでの加速性能、コーナリングの器用さ、一瞬の切れ味の高さ、最高速に乗ってからの持続力の全てで高い資質を見せており、これは凄い馬が出てきたなと感じます。
 ただ、やはり基本的に雄大なフットワークをしていて、自分のリズムを守りたいタイプであるのは間違いないので、揉まれる競馬や、序盤に急かされる競馬・コースへの適正はやや低いかな、とは思います。後は直線で坂のあるコースでの適応も未知数ですね。
 京都1900mは1コーナーまでの距離が比較的長いので、ステイヤータイプのダート馬が活躍しやすい舞台でもあり、入りが速くなりがちな1800mとはたった100mの延長でも全然問われる質が変わってくるのは良く知られていると思いますが、この馬もどちらかと言えばステイヤー資質の問われるコースと距離、後半要素での勝負の方が合っているでしょう。

 その意味で中京1800mはやや忙しい舞台かな、と思いますし、大井の2000mなどはピッタリなのではないでしょうか。
 ただ500万下で、前半ハロン12秒そこそこの流れを前目で追走する先行力そのものは見せているので、今後レースの質が上がって相対的にペースが上がることになっても大崩れは考えにくいですし、本当に先が楽しみですね。

 血統的にもキングカメハメハ×デヒアと、いかにもダートを走りそうであり、デヒアは自身も種牡馬としてもやや短距離寄りではありますが、母の母がエリシオで、あの雄大なフットワークとスタミナの源泉はむしろそっちかな、と感じます。
 奇しくもキンカメ産駒のダート王、ホッコータルマエが引退したばかり、この馬はその後継者になっても不思議ない素質を秘めた馬ではないかと思いますね。
 
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2017年01月06日

私的名馬列伝 第二話 メジャーエンブレム

**★はじめに**

 遂に先日、正式な引退が発表されてしまいましたね。
 年末の名レース回顧でも触れましたが、特にクイーンCのパフォーマンスは圧巻で、今後の大きな飛躍をまざまざと予感させ、凄く期待していた馬なので非常に残念です。
 結局本当の意味での強さを全て見せてくれずの引退、という形で、戦績的にも極めて突出したもの、とは言えませんが、折角なので雑談でなく、この枠で語ってみたいと思います。

 メジャーエンブレムの[生涯戦績](http://keiba.yahoo.co.jp/directory/horse/2013105840/)はこちらです。
 父ダイワメジャーの良質なスピード・素軽さと、母方に流れる重厚な欧州血脈がもたらすスタミナ、粘り強さを併せ持ち、どちらかと言えば質より量、というダイワメジャー産駒の中で、圧倒的な存在感、一流馬のオーラをデビュー当時から身に纏っていた稀有なこの馬の歩みを、改めて振り返ってみましょう。



**★デビュー~アルテミスS<真なるスタイルを求めて>**

 ダイワメジャー産駒と言えば仕上がりが早く、例えば今年のレーヌミノルのように2歳短距離戦での安定感、活躍が目立ちます。
 その中でデビュー戦に府中の1800mを選択してきたあたりで、この馬の素材に対する期待感の高さを伺わせますが、レースもそれに応える形で、スローペースの中を前目で追走、後に牡馬オープンでもそれなりの善戦を見せるプランスシャルマンの食い込みを問題にせずの完勝でした。
 2戦目のアスター賞も、道中は中団あたりからコーナーでほぼ馬なりのまま楽に進出、序盤で突き抜けて後は流しつつも突き放すだけ、という圧巻の競馬、ただ後々から見て、このレースはある意味新馬戦よりメンバー弱かった、とも言えて、その後の活躍を考えると、適性的にはベストでない展開、位置取りでも問題がないほど素材が抜けていた、と見るべきでしょう。

 そして3戦目に選んだのは、近年頓に出世レースとして注目を集め始めた、府中マイルの牝馬限定GⅢ・アルテミスS。
 ここでも外枠からやや気負いつつもじわっと出していって、はじめて逃げ戦法を選択、中盤で息を入れて直線坂下からスパートして突き放す、逃げ馬の教科書通りのような競馬で、最後まで脚を残していたものの、外から勢いをつけてきたデンコウアンジュに最後の最後で交わされて、生涯はじめての黒星を喫します。
 ただ負けたとはいえ、後半要素を高く要求されても戦えるセンスの良さ、その限界を見極める上ではいい経験となった感じで、これが今後の躍進を支えるスタイルの確立に繋がっていきます。

**★阪神JF~クイーンC<肉を切らせて骨を断つ>**

 この年の阪神JFは、結果論的にはまだ真打ちがこの馬以外1頭も大舞台に登壇していない、という状況の中で、前走負けはしたもののそのスケール感、競馬ぶりの安定感を買われて堂々の1番人気での出走になります。
 内枠から好スタートを決めて迷わず先行、しかし外枠のキリシマオジョウ、メジェルダあたりにかわるがわる競りかけられ、全体的に息の入らない流れになるものの、最内の先頭ポジションは譲らずに直線、入り口で明確にスッと切れる脚を使ってセーフティリードを確立、流石に馬場の重い年末の阪神で最後はしんどくなるものの、他の馬の脚も完全に削いだ形での完勝でした。

 そして、春に2回の輸送は関東馬にはきつい、という事で、年明け初戦に選んだのはクイーンC。
 他馬より1kg重い斤量を背負いつつ6番枠からロケットスタート、最初の100mで完全に逃げの態勢を確立するとそこからはスイスイとリズムよく運んでの一人旅。
 コース替わりでのグリーンベルト、高速化の恩恵もあったでしょうが、直線入り口から坂にかけて厳しい流れの中からもう一度加速、後続を置き去りにし、最後は流し気味でも差が広がっていく圧倒的なパフォーマンスを見せ、時計勝負で他の馬の脚を削ぐことの出来る稀有な逃げ馬としてのスタイルを決定づけたのです。

**★桜花賞~NHKマイルC<常識の呪縛、再度の栄光>**

 3歳牝馬の春の王道路線と言えば、当然ながら桜花賞~オークスという事になります。
 メジャーエンブレム陣営もやはりある程度その路線は模索していただろうし、デビュー戦が1800mだったことを考えても、血統的には距離不安は薄い、という観念もあったろうと思います。
 そう考えた時に、前の2戦で確立したスタイルは果たしてプラスになるのか、ある程度オークスに向けて控える競馬でも、というところを考えるべきなのではないか、出走前から圧倒的な人気に押される中で、驕り、というと失礼に過ぎるかもしれませんが、ここはただ勝つだけでなく、勝ち方にも拘りたい、という思惑があったかもしれません。

 しかし今回は、同じ阪神1600m戦でも、年末のJFとは違い、2頭のトップホースが台頭していました。
 チューリップ賞でシンハライトとジュエラーが見せた走りもまた間違いなく本物であり、前を行くメジャーは絶対的に標的にされる立場でもあって、その中でのほんの僅かの惑いが、大きく結果に響く形になりました。
 5番枠から普通に出たメジャーエンブレムは、しかしクイーンCほどの行きっぷりの良さはなく、そこに外枠から主導権を求めて数頭が殺到してきたところで、スッと下げる選択を取ります。しかしその時にやや下げ過ぎて、外枠の馬にどんどん前に入られてしまい、結果的に3列目のインでぎゅうぎゅうにマークされる厳しい展開を余儀なくされます。

 確かに馬の内面や状態、戦前の思惑など、傍から見ているだけではわからないなにか、はきっとあったのでしょう。
 ただ、パトロールで見る限り、スタート直後から200mくらいまでは、外枠の馬も無理やりにインを取ろう、という感じではなく、メジャーが行くなら譲って番手、という気配は漂わせていて、ある程度押していけば最悪でも2列目ポケットまでは取れるように素人目には見えました。
 そこでほぼ無抵抗にスッと下げてしまったのは、それまでの歩みを考えるとやはり馬の資質を引き出すという意味ではプラスにならない選択であったと思いますし、結果はともかく、この馬が逃げて、底力を問われる流れの中でシンハライトとジュエラーがどこまで伍してこられたのか、或いは凌駕してきたのか、そういう競馬を見たいと期待していたファンの思惑を挫いたのも間違いないでしょう。

 ともあれ、結果的に自分から動けない位置でレースをスロー気味にコントロールされ、コーナーから直線でも進路取りに苦労してもたつく内に、切れ味に勝るジュエラーとシンハライトにサッと抜け出され、阪神JFでは鎧袖一触だったアットザシーサイドの後塵をも拝する形での4着と、不完全燃焼な競馬に終わったのです。

 ここでの敗戦を受けて、陣営は捲土重来の場を、距離が延びるオークスではなく、牡馬相手ながらベスト距離と目されるマイル戦のNHKマイルCに定めます。
 前走の二の轍は踏むまい、という明確な決意の上に、4番枠から好スタートを切ったメジャーエンブレムは、外からノコギリザメに絡まれつつ淡々と速い流れを演出していきます。
 クイーンCの時に比べるとやや時計のかかる馬場であり、相手関係も流石に骨っぽい中で、しかし自分の競馬を貫いて4コーナーからスパート、ついてきた先行勢を総崩れにしつつ、自身はロードクエストの追い込みも決定的には食い込ませない形での堂々の逃げ切り、汚名返上を見事に果たしたのです。

 こうして春シーズンを終えたメジャーエンブレムは、秋は秋華賞路線で今度こそ距離延長に挑戦する思惑を示していました。
 しかし放牧中の怪我が元で秋を断念、その後も経過が思わしくなく、遂に競争能力喪失、との診断を受けて、その輝きの神髄を見せ切らないままに引退を迎えることになったのです。




**★能力分析<他馬を篩にかける逃げの価値>**

 この馬は生涯で出走したレースのほぼ全てがマイル戦なので、敢えて分析するまでもなく皆さんわかり切ってる話しか書けないのですが(笑)、とりあえず数字の上でのこの馬の走りを精査していきましょう。
 最初に、アルテミスS以降のレースの3F-2F-3Fでのラップを並べてみます。()内はその区間の平均ラップです。

・アルテミスS   34,9(11,63)-25,0(12,50)-34,2(11,40)=1,34,1(11,76)  
・阪神JF     34,8(11,60)-23,9(11,95)-35,8(11,93)=1,34,5(11,89)
・クイーンC    34,4(11,47)-23,4(11,70)-34,5(11,50)=1,32,5(11,56)
・桜花賞      34,8(11,60)-24,3(12,15)-34,3(11,43)=1,33,4(11,67)
・NHKマイルC  34,3(11,43)-23,4(11,70)-35,1(11,70)=1,32,8(11,60)

 こうして並べてみると、メジャーエンブレムが負けるパターンの流れが如実にわかりますね。
 ちなみに桜花賞だけは自分で逃げていないのですが、上がり3Fは34,2なので、おそらく序盤3Fが35,3くらいで入っていると見ていいでしょう。この観点からも、他の馬が速過ぎて逃げられなかった、というわけではないのはわかると思います。

 この馬のマイル戦での必勝パターンは、序盤を34秒半ばで入り、その後は馬場差によって変わってきますが、中盤と終盤のラップ偏差を極力狭くして、レース全体の平均ラップに近づけて走ること、だと言う事で、むしろ序盤以上に中盤で、如何に後続の脚をなし崩しに使わせるか、が大切だったと考えます。

 上でも触れたように、基本的に逃げ馬は最初からスロー、或いは道中で緩めて息を入れて再加速、というパターンで好走するタイプの方が多いのですが、中緩み、というのは基本的に徹底的な時計勝負、底力勝負にならない要因でもあり、そこをうまく利用すれば後ろからでも有利に運べる、という副作用があります。
 デンコウアンジュに敗れたアルテミスSが一番顕著で、この時は初めての逃げでもあり、セオリー通りに中盤を緩めて仕掛けを遅らせるという、一般的な逃げ馬としては充分に合格点の騎乗だったのですが、流石に緩め過ぎたせいでその中盤でデンコウに楽に前に取りつく余裕を与え、その加速してくる勢いのまま直線に入ってきたことで、その惰性も生かして長くいい脚を使われた結果の敗戦でした。

 後半ラップが11,9-11,1-11,2なので、坂の地点での0,8の自力加速、11,1というそれなりの切れ味、それを2F続ける持続力と、ぶっちゃけこれでも並の逃げ馬には引き出せない性能ではあるのですが、強いて言えばやはり一瞬の切れ味そのものは最上級ではなかった、という所で、それはこの馬の上がり3Fが、ペース如何に関わらず34秒前半までで留まっている要因でもあるでしょう。
 とはいえこの流れを差し切ったのは、ペース判断に長ける田辺Jのファインプレーあっての事で、その後のデンコウはちぐはぐな競馬に終始していますが、カチッと嵌ればこれだけの質の高い持続力を引き出せる、というのは覚えておきたいところです。

 ともあれ、ペースの上げ下げが得意で切れ味も高い逃げ馬は、中緩みを作るのに適していますが、それは後続にもフラットに押し上げて楽をさせる要因にもなるために、常に勝ち切るタイプの逃げではないわけで。
 そしてメジャーエンブレムはそういう形の逃げでも一流の素質はありましたが、その真骨頂はそこにはなかった、という事だと思います。

 畢竟、中盤が速い、意識的に緩めず進められるという事は、後ろの馬にとってはその速いラップより更に加速していかないと前との差を詰められないわけで、実質的にかなりのロングスパートを余儀なくするし、そこで自分のリズムを守っていては直線向いた時点で絶望的な位置取りになってしまう為、ある程度は追走せざるを得ない状況を自発的に作り出せるわけです。
 そうなると問われるのは決定的な素質、底力となり、その形を墨守する限りは、まず自分より強い馬以外には負けない、という王者の競馬を展開できるんですね。

 とはいえ、当然自分自身も息を入れるタイミングがほとんど作れないのだから厳しいレースにはなるし、それに対する適性が高い馬、というのは早々いるものではなく。
 無論近年のスローペース症候群の中で、適性を試される事なく、真価を発揮できないまま引退した馬もそれなりにはいると思うのですが、少なくとも芝のマイル戦以上の距離でそういう、肉を切らせて骨を断つ、という逃げを展開しても崩れなかったのは、やはり真打ちとしてサイレンススズカ、ダイワスカーレットも天皇賞・秋の粘り腰を見る限り、その素養は充分にあったかなと思います。

 余談ですが、昨日の京都金杯を見る限り、やはりエアスピネルは全体が速い流れになった中でも切れ味を引き出せる強い馬だと再確認できて、この馬がNHKマイルCに出ていたらさぞ面白かったろうなと思います。切れ味はエアの方が上なので、多分坂上あたりで馬体が並んでの激戦が見られたと思うんですけどねー。

 ともあれ、この馬の真骨頂はくっきり理解できるわけですが、果たしてそれが距離延長しても適応できたか、それは当然未知数のままに終わってしまいました。確かにマイルのラップとしては完璧な競馬を展開できる馬なので、マイル適性が非常に高いのは間違いないですが、少なくとも3歳牝馬同士であったなら、距離延長は不安にならず、むしろ強みになったかも、と思っています。

 例えば今年の秋華賞は35,8-48,4-34,4と極端ではないにせよやはり中盤はややゆったりと流れていて、中盤4Fと後半3Fとの偏差も0,6とそこそこ大きく、この流れに乗ってだと切れ味でチョイ負けしていた可能性が高いでしょう。
 けどこの馬なら、例えば35,2-47,5-35,2くらいのペースで押し切れる可能性を秘めていたと思うし、むしろ距離延長で序盤の主導権をゆったりと握れる分、常識的な意識に負けて中盤で変に緩めない限りは、より強い競馬が出来た可能性すらあると個人的には思っていましたので、それが幻と化してしまった事は本当に残念でなりません。




**★総括**

 総じて見た時に、やはりこの馬は優等生のようでいて、実は破天荒な馬だったのだろうと思っています。
 結局敗れたふたつのレースは、どちらも力負けではなく、アルテミスSでは逃げ馬のセオリーに、桜花賞では3歳牝馬のローテーションのセオリーに抗い切れずに、結果自身の持ち味を最大限に引き出せなかったわけで、かえすがえす桜花賞での、ジュエラーとシンハライトを交えた、底力勝負の三つ巴が展開されなかったことは、その後3頭共に怪我で引退、或いはパフォーマンスを落としていることを考えると無念でなりません。 

 燦然たる輝きでターフを照らし、敢然たる逃げの神髄の余韻を残して、箒星のように去っていったメジャーエンブレム。
 その足跡を、見る者を惹き付けて止まないスタイルを踏襲する馬が今後も出てきて欲しいですし、次は母親として、その類い稀なる素質を、遺伝子を受け継いだ素晴らしい子供を輩出して欲しいですね。
posted by clover at 18:03| Comment(0) | 名馬列伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする